ネット上には生活保護および在日外国人に対する様々なヘイトスピーチがありますが、その中に「外国人が生活保護を受給するのは違憲である」というものがあります。

発端は2014年の最高裁判決

数年前、とあるツイートが物議を醸しました。ツイート主は元北海道議会銀。

このツイートに記載されている「最高裁で違憲とされている」という言葉の根拠は、2014年7月18日に最高裁第2小法廷で出された判決文にあります。いわゆる「永住外国人生活保護訴訟」の判決文。

これは、永住資格を持った当時82歳の中国籍の女性が、自身の生活保護申請を却下した大分市の処分は違法だとして、市に対してその処分の取消を求めていた訴訟の上告審判決です。

判決の原文はこちらで読めます。
「永住外国人生活保護訴訟 最高裁判決」判決文(全文掲載) – 荻上チキ・Session-22

この判決文の中にある理由4の(3)において、下記のような記載があります。

以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。

あまり深く考えずにこの文章だけみると、永住資格をもつ外国人であっても生活保護を受給するのは違法になるのかな?生活保護を受けられないのかな?と思ってしまいますが、それは解釈を間違えています。

生活保護法の対象は日本人のみとなっている

生活保護に限らずですが、行政の仕組みや制度を考えるにあたり、根拠法はどうなっているのか・根拠条文はどうなっているのか知ることは非常に重要。
全ての行政手続きは、根拠法なくしては存在しません。

では条文を見てみましょう。
生活保護法では、第1条と第2条においてその対象を明確にしています。

(この法律の目的)
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

(無差別平等)
第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。

ちなみに第1条に記載されている日本国憲法第25条は、生存権に関する有名な条文です。この憲法25条を根拠に生活保護制度というものは存在します。

憲法
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

上記の生活保護法における対象は「すべての国民」。
この場合の国民とは、単に一定期間日本に住んでいる住民を表すものではなく、日本国籍を持つものを示しています。

憲法
第10条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

この部分の詳細は国籍法で定められています。

生活保護法でその対象としている「国民」とは、あくまで日本国籍を持つ者。
それに当てはめて考えると、上記の訴訟における原告は永住資格を持つ、つまり日本国籍を持たないので生活保護の対象にはならないようにも見えます。

外国人は生活保護を受けられないのか

では、現実問題として日本国籍がなければ生活保護を受けられないのでしょうか。
そんなことはありません。

大阪という立地条件もあり、当事務所で依頼人の中に在日韓国人・在日朝鮮人の方もおられますが、役所での手続きや審査に日本人が申請した場合との違いはありません。特別、生活保護の審査が厳しくなったり緩くなったりするということはないのです。

生活保護開始の条件を満たしているのであれば、保護を受けることは可能です。

では生活保護法でその対象とされていないのに、永住や定住の在留資格をもった外国人は何故生活保護を受けることができるのでしょうか。

1954年の厚労省の通知にその理由が記されています。
生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知)」

一部抜き出します。

生活保護法第1条により、外国人は法の適用対象にならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続きにより必要と認める保護を行うこと。

但し、保護の申請者又はその世帯員が急迫した状況にあるために、左の各号に規定するを履行する暇がない場合には、とりあえず法第19条第2項或は法第19条第6項の規定に準じて保護を実施し、しかる後左の手続きを行って差し支えさいこと。

ここ↑に記載されている「法第19条第2項或は法第19条第6項の規定」とは生活保護法第19条を見るとわかりますが、実施機関についての規定です。

ちなみに日本人の場合は、住民票がどこに置かれているかは問題ではなく実際に住んでいる場所を基準に生活保護の管轄が決まります。それに対し外国人の場合は、登録をしている住所が管轄を決める際の基準となります。

この昭和29年の厚労省からの通知により、生活保護法の第1条で対象とされていない、つまり日本国籍を持たない外国人にも「一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて」「必要と認める保護を行うこと」とされ、現在に至るまで継続されているのです。

もちろん外国人の誰にでも適用されるわけではありません。
昭和29年のこの通知では対象となる外国人に対して制限はありませんでしたが(強制退去手続きの処分を受けた外国人でも生活保護の受給が出来たりしました)、1990(平成2)年10月25日、厚生省社会局保護課企画法令係長の口頭指示により「非定住外国人については、生活保護の準用を行わない」とされました。

この結果、現在では下記に該当する外国人が生活保護に準ずる保護を受ける事ができます。

  • 出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第2の在留資格を有する者(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)

  • 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の特別永住者(在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人)

  • 入管法上の認定難民

永住外国人は生活保護制度の対象となる

ここまでを踏まえて確認してみましょう。
上記の元議員さんはこのような発言もしています。

永住外国人生活保護訴訟の判決文で重要な点は2つ。

  • 外国人は生活保護法に基づく保護の対象とはならない

  • それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことと定められている

つまり最高裁が、永住外国人は「行政による日本人と同様の内容の生活保護実施の対象となる」と認定した、と解すべき内容なのです。

永住外国人が行政による保護の対象となる事が違憲であるかどうかの判断などはしていません。生活保護法では対象でなく、それ以外の方法で保護の対象になるとしているのみ。

外国人が生活保護を受給することを一切否定していません。
上記のツイートは論点がそもそもおかしいのです。

外国人のほうが生活保護を受けやすい?

そもそも短期滞在の旅行者のような外国人と違い、永住外国人は日本に住み、日本に対して税金を払っています。生活保護の原資となっている税金。
それが何らかの事情で働けなくなったり等いざ生活が立ち行かなくなった際に、行政から何の援助もされないとすれば、それはあまりにもひどい話です。

永住外国人であれば、一般的な日本人と同じく福祉事務所に対して生活保護の申請をすることが可能です(管轄の概念が違うなど細かな差違はあります)。

当事務所でも、日本国籍を持たない申請者のサポートに数多く携わってきました。

ネット上に出回っている生活保護に関する情報の中で、大きく間違っているものがひとつあります。いわゆる「在日外国人は生活保護が受けやすい」というもの。
なかでも特に言われているのが「在日韓国人・在日朝鮮人は特権を持っているので生活保護を受けやすくなっている」という話。

これは明確なデマです。
数多くの生活保護申請に携わってみればわかる話ですが、日本人であろうが在日外国人であろうが、生活保護受給のための要件や基準は全く同じであり、そこに何の特別扱いもありません。

参考:
貧困と生活保護(45) 在日外国人は保護を受けやすいという「デマ」 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

むしろ却下された場合の再審査請求がしづらいという面があるように、若干日本人に比べて不利と言えなくもありません。

外国人の生活保護申請もサポートします

当事務所では、日本国籍を持つ人だけでなく、永住・定住資格を持った外国人の方々の生活保護申請もサポートしています。

通常、生活保護に関するご相談は有料相談のみとしておりますが、ただいま英語での問い合わせの方に限り、初回の相談は無料で対応いたします。
※英語での問合せ初回相談無料は期間限定です。

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