「弁護士JP生活保護連載」 第34回記事 令和7年9月22日

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「解放されたかった」“生活保護ケースワーカー”が犯罪に手を染めた理由…モラハラ・DVと酷似? 受給者との「いびつな関係」が生まれる“構造”とは

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「解放されたかった」“生活保護ケースワーカー”が犯罪に手を染めた理由…モラハラ・DVと酷似? 受給者との「いびつな関係」が生まれる“構造”とは

2019年に起きたケースワーカー(CW)による2つの事件を題材に、その背景にある過酷な労働環境や構造的な問題を取り上げました。ヤフーニュース記事は一般読者向けに読みやすく編集されていますが、箇条書きを多用し、事実や提言を整理して淡々と記述した元原稿を公開します。

2019年、日本社会に衝撃を与えた二つの事件があります。一つは京都府向日市で発生した生活保護ケースワーカー(CW)による女性遺体遺棄事件、もう一つは滋賀県米原市で起きた生活保護担当職員による殺人未遂事件です。これらの事件は、表面上は個人の犯行に見えるかもしれませんが、その背景には、過酷な労働環境に置かれたケースワーカーの疲弊、そして支援関係が歪み、密室化していくというシステム的な問題が潜んでいました。

本記事では、これら二つの事件を深く掘り下げ、CWが直面する困難、支援の現場で生まれやすい支配関係の危険性、そして同様の悲劇を繰り返さないために対応すべき・学ぶべきことについて考えます。

第1章 何が起きたか

■京都向日市女性遺体遺棄事件の概要

2019年6月11日、京都府向日市上植野町の集合住宅駐車場で成人女性の遺体が発見されました。翌日、この遺体を遺棄したとして、同集合住宅に住む生活保護受給者Aと、彼を担当していた向日市地域福祉課職員のCW(29歳)が逮捕されるという衝撃的な事件が発覚しました。

その後、受給者Aが殺害した女性の遺体を、受給者A及び当該CWが共謀して遺棄したとして起訴されています。当該CWは地裁にて執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡され、向日市は懲戒免職処分としました。
裁判における判決では、当該CWは「長期間にわたって理不尽な要求を受け続け、受給者Aから恫喝されることも多々あり、また、周囲の協力を得られなかったことから孤立して疲弊していた」と認定されています。受給者Aは元暴力団員で傷害致死の前科があったとされており、CWは受給者Aに対する恐怖心から、その要求に応じて犯行に加担するに至ったとされています。

事件の背景には、受給者AからCWへほとんど毎日2時間にもおよぶ不当要求や脅迫の電話がかけられ、CWが精神的に支配されていた状況があったと指摘されています。受給者Aは、CWに個人的な携帯電話番号を教えさせ、プライベートな時間にも呼び出すなどして、CWと受給者Aの間に業務を離れた主従関係を形成していったとみられています。

■滋賀県米原市職員による殺人未遂事件の概要

2019年12月24日、滋賀県米原市健康福祉部社会福祉課のCW(28歳)が、担当する生活保護受給者Bの頭部と腹部を包丁で切りつけ、殺害しようとした殺人未遂の容疑で逮捕されました。この職員は後に懲役3年、執行猶予5年の判決を受けました。

判決では、CWの犯行動機について「休職者が複数出るような過酷な職務環境の中、自らも体調を崩し、複数回にわたり精神科を受診したが、十分な環境調整が行われることがないままに、ケースワーカーとしての職務を続けた」と指摘されています。事件の約2ヶ月前である2019年10月からは、同僚CWの休職により、このCWが約140件ものケース(標準数の80件を大幅に超過)を一人で担当することになったとされています。困難案件約20件も含まれるこの過重な負担が自己の許容量を上回ると感じながらも仕事を続けた結果、精神的に追い詰められ、思考力や判断力が低下した中で犯行に及んだと認定されました。

このCWは、受給者Bから解放されたいという思いが強まり、殺害することも選択肢の一つとして考えるようになったとされています。特に、受給者Bの動画撮影の手伝いを勤務時間外に行っていたCWが、その協力を断ろうとした際、「副業していることを上司にばらす」と脅されたことも、関係を個人的な問題へと深める要因となったと推察されます。

■2つの事件に共通する「密室化した支援関係」という構図

これら二つの事件に共通して見られるのは、CWが孤立し、支援関係が受給者との個人的な支配・被支配関係に変質していった構図です。向日市では、CWが受給者Aからの個人的な要求に応じざるを得なくなり、個人の携帯電話番号を教え、自動車を貸すまでに至ったとされています。米原市でも、CWが受給者Bの動画撮影に勤務時間外で協力し、そのことを上司に相談できないまま関係が深まっていったと報じられています。

どちらの事件も、組織的なサポートの欠如と、CWが問題を一人で抱え込んだ結果、本来の支援関係が歪んでいったことが、悲劇の引き金となったと考えられます。

第2章 疲弊するケースワーカーの実態

ケースワーカー(CW)とは、主に自治体の福祉事務所に勤務する社会福祉の専門職(地方公務員)で、生活に困窮し生活保護を必要とする人の相談を受け、生活状況の調査・自立支援・各種福祉サービスとの連携などを担う職員です。

この職務は、生活に困窮する人々の生活を支える重要な役割を担いますが、その現場は想像以上に過酷な労働環境にあります。

■CWの過酷な労働環境

・膨大な担当件数:
生活保護制度を運営する福祉事務所では、社会福祉法で定められた標準数(市部でCW一人当たり80世帯、郡部で65世帯)を大幅に超える担当件数を抱えるケースワーカーが少なくありません。向日市では、事件当時CW一人当たり95.4件、事件前には116件もの世帯を担当していた時期があったとされています。米原市でも、同僚の休職によりCW一人で約140件のケースを担当し、その中には多くの困難案件が含まれていました。小規模な福祉事務所では、特にこのような人員不足と担当件数の過多が顕著であると指摘されています。

•終わらない事務作業とクレーム対応:
受給者からの不当要求や脅迫的な電話がなど、その対応に多くの時間が割かれることがあります。また、ケース記録の作成など、本来の事務作業も滞りがちになることが常態化しているケースが確認されています。

•人員不足と経験知の不足:
向日市ではCW4名体制の時期があり、新人CWの割合が60%を占めるなど、人員不足と経験知の不足が指摘されています。米原市でもCWの病気休暇が相次ぎ、実働CWが一人になるという危機的な状況が発生していました。

■彼らが抱える精神的ストレスと、十分ではないサポート体制の問題点

このような環境下で、CWは大きな精神的ストレスを抱えています。

•組織的な無関心と孤立:
向日市事件では、CWが受給者Aからの脅迫や不当要求を受けていることを上司(スーパーバイザー:SV)が知っていたにもかかわらず、組織的な対応はされず、むしろ「CWが至らない」という姿勢が見られたと指摘されています。SVの重要な役割である「CWの活動を支え、援助する支持的機能」が果たされなかったのです。米原市事件の判決でも、CWが精神科を受診し職場に相談したにもかかわらず、十分な環境調整がされなかったことが指摘されています。

•自己申告制度の機能不全:
向日市のCWは、人事当局に提出した自己申告書で、個人的関係の強要による不眠や体調不良、異動希望を記載してSOSを発していましたが、ヒアリングも行われず、異動希望も叶えられませんでした。米原市のCWも同様に、自己申告書で悩みを申告していましたが、具体的な改善策にはつながっていません。

•職場環境が「悪質なクレーマーを育てる」:
介護や福祉の職場、公的機関では、利用者からの暴言や暴力を「この仕事をしていれば当たり前」「慣れるべきもの」と見なし、根本的な対応策を設定しない傾向があると指摘されています。これにより、クレーマーは要求をエスカレートさせやすくなり、現場のCWは問題を一人で抱え込み、疲弊していく状況が生まれていました。

•メンタルヘルス対応の不適切さ:
米原市CWは、適応障害と診断され休職や環境調整を指示されたにもかかわらず、長期間の休暇が得られず、診断書も人事担当部局に適切に提出されなかったとされています。上司がCWの訴えに対し「たいしたことはない」と判断し、特段の対応を取らなかったことも明らかになっています。

これらの問題が重なり、事件に巻き込まれたCWは孤立し、ストレスで体調を崩しても、職場が崩壊するのを恐れて休むことすらできない状況に追い込まれていたのです。

第3章 支援するはずが支配関係に変わる

支援者と被支援者という関係性は、本来、被支援者の自立を促すためのものでなければなりません。しかし、CWが過酷な環境で孤立し、組織からのサポートが不足している状況では、この関係性が歪み、支配関係へと変質してしまう危険性があることが二つの事件から浮き彫りになりました。

■支援者と被支援者の間に生まれやすい、精神的な依存関係や力関係の不均衡

専門家からは、以下のような心理状態が指摘されています。

・暴力被害を仕事の一部にする職場の特徴:
多くの対人援助職の現場では、利用者からの暴言や暴力に対し「この仕事をしていればこれくらい当たり前」「早く慣れるべき」という考えが根強く存在します。公的機関もまた、「クレームがあった事実」を嫌う傾向があり、理不尽な要求に対しても毅然とした対応をとるのが苦手で、摩擦を避けて穏便に済ませようとすることが多いとされています。このような環境は、悪質なクレーマーの行為を助長し、要求をエスカレートさせる要因となります。

これらは生活保護行政だけでなく、介護職や医療の現場等においても見られる状況です。

・支配者にコントロールされてしまう心理
長期的に支配やコントロールを受けると、人は精神的に追い詰められ、特有の心理状態に陥りやすくなります。

相手が理不尽に怒っていても「自分の対応が悪いからだ」と、相手の感情を自分の責任だと感じるようになってしまいます。さらに、支配者に対する極度の恐怖、不安、無力感から、相手の機嫌を損ねないことが最優先となり、自己主張が困難になります。その結果、自分の考えに自信が持てなくなり、「自分のほうが間違っているのではないか」と自らを責める傾向が強まるのです。

特に、支配者が暴力的な言動の後に突然優しさを見せると、被害者は安堵感から喜びを感じ、かえって相手との距離を縮めてしまうことがあります。これは、クレーマーなどがよく用いる典型的な支配の手口とされています。
モラハラやDVの現場で見られるような、典型的な洗脳(マインドコントロール)の手法です。

CWの業務は、「感情労働」というような慢性的に強いストレスにさらされる事の多い厳しい仕事であり、このような心理状態に陥りやすい状況にあると言えるでしょう。

■2つの事件で、支援者と受給者の関係がどのように破綻していったのか

向日市事件、米原市事件ともに、CWが上記のような心理状態に陥り、受給者との関係が業務の枠を超えて個人的なものへと深まり、最終的に破綻していった過程が見られます。

•向日市の事件:
受給者Aからの連日長時間にわたる不当要求や金銭要求、そして上司への相談禁止という状況に追い込まれたCWは、受給者Aを怒らせないように、その感情を刺激しないように対応するようになりました。結果として、個人的な携帯電話番号を教えたり、自動車を貸したりするまでに至り、業務を離れた主従関係が形成されていったとされています。判決では、CWが受給者Aの要求に応じざるを得ない心境にあったことが酌むべき事情とされました。

・米原市の事件:
米原市のCWは、生活保護業務全体の機能不全を防ぐという責任感から、受給者Bと仲良くなり、コミュニケーションを取りやすい関係性を築くことが有効だと考えました。そして、受給者Bの動画撮影の手伝いを勤務時間外に行うなど、個人的な協力をするようになりました。公務員としてあるまじき行為と認識しつつも、上司や家族に相談できず、受給者Bからの脅迫(副業をばらす)もあり、協力を続けることになったとされています。最終的には、受給者Bから解放されたいという思いが強まり、殺害行為に及ぶという悲劇的な結末を迎えました。

どちらのケースも、孤立したCWが、組織からの適切なサポートがない中で、受給者との個人的な関係に深く入り込み、その関係性が支配的なものに変質してしまったことが事件に繋がったと推察されます。CWが抱え込んだ問題は、もはや個人で解決できるレベルを超えていたと言えるでしょう。

第4章 この悲劇を繰り返さないために

向日市と米原市で発生したこれらの事件は、単なる職員個人の問題として片付けられるものではありません。それぞれの自治体の市長が「職員を守り切れなかった」と謝罪し、組織的な対応の不十分さを認めていることからも、これらは福祉事務所の機能不全、組織的な無関心、支援体制の脆弱さという社会に内在する問題が根底にあると結論付けられています。

二つの検証委員会は、これらの事件を受けて、再発防止策を提言しています。この悲劇を繰り返さないために、社会全体で以下の点に取り組む必要があります。

事件後に向日市、米原市両方において検証されたそれぞれの報告書より、再発防止のために必要なことをまとめました。

・CWの待遇改善と業務過重の軽減:
福祉事務所の体制を強化し、持続可能なサービスを提供するためには、職員の労働環境改善に向けた多角的な取り組みが不可欠です。まず、標準的な人員配置を徹底し、特に小規模な事務所であっても余裕のある体制を確保することが重要であり、加えてCWの業務の困難性を正当に評価し、特殊勤務手当の創設といった処遇改善も検討されるべきでしょう。さらに、終わらない事務作業を削減できるよう、業務量の適正化と効率化を図る仕組み作りも求められます。

・専門性の向上と人材育成:
社会福祉士や精神保健福祉士などの専門職の採用を継続的に行い、福祉現場の専門性を高める必要があります。加えて、初任者研修やSV研修、外部講師を招いた事例検討といった研修の充実により、CWの資質向上と経験の蓄積を図ることも不可欠です。さらに、異動周期の改善を通じて、経験を積んだベテランCWが現場に定着し、リーダー的な役割を担えるよう育成していくことも求められます。

・不当要求への組織的対応の強化:
CWをはじめとする職員を不当要求行為から守り、公正な職務執行を確保するためには、組織全体での包括的な対策が求められます。まず基盤として、向日市の「向日市職員の公正な職務の執行の確保に関する条例」のような条例の制定や、具体的な対応マニュアルの整備と研修が不可欠です。その上で、警察、弁護士、暴力追放運動推進センターといった関係機関との連携を強化し、不当要求には組織として毅然と対応する体制を構築する必要があります。現場のCWから警察への相談要請があった際にそれを曖昧にするような事態は、断じて避けなければなりません。さらに、現場での具体的な対応においては、密室化を防ぐために複数名での対応を原則とし、職員を孤立させない仕組み作りが重要となります

・実施体制の整備と職場風土の改善:
職員一人ひとりが安心して能力を発揮できる健全な職場環境を構築するためには、組織マネジメントの多角的な改善が必要です。まず、福祉事務所長の専任化やSVの支持的・教育的機能を向上させるなど、組織の管理体制そのものを強化することが求められます。同時に、自己申告制度の改善などを通じて、職員が発するSOSを確実に吸い上げて人事行政に反映させる仕組みを整えることも不可欠です。さらに、こうした制度的アプローチと並行して、職員が問題を一人で抱え込まずに済むよう、「何でもものが言える」「風通しの良い」相談しやすい職場文化を組織全体で育んでいくことが重要となります。

・メンタルヘルス対策の強化:
CWのメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、早期に対応するためには、個別のケアとそれを支える組織的な支援体制の両方が不可欠です。まず、CW一人ひとりのストレスを早期に把握し、状況に応じた環境調整や業務の見直しを迅速に行う必要があります。こうした個別支援を実効性のあるものにするため、所属長、SV、人事担当が密に連携し、メンタルヘルスの把握と支援の手法を習得・実践することで、組織的な対策を推進していくことが重要です。

以上の事をまとめると、「CW個人に責任を負わせるのではなく、組織として対応する仕組みを作る」という事が重要であると言えます。

これらの事件は、私たちの社会が抱える福祉行政の組織的な課題を浮き彫りにしました。CWは、生活保護行政において社会の最後のセーフティネットを守る重要な役割を担っています。

CWが安心して、そして専門性を発揮して仕事に取り組める環境を整備することは、個々の職員を守るだけでなく、真に支援を必要とする市民に適切な福祉サービスを届けるために不可欠です。

当事務所でも、日々の生活保護関連業務において行政側のマンパワーが足りていないと感じるような場面は多々あります。

私たちはこの事件から何を学ぶべきか。それは、「支援の現場は、常に個人に全てを押し付けるのではなく、組織全体で支え合うべきである」という教訓ではないでしょうか。そして、生活保護制度に対する正しい理解を深め、社会全体で支え合う意識を持つことが、このような悲劇を二度と起こさないための第一歩となるでしょう。

ただ残念ながら2022年の堺市隣人殺人事件などにおいて見られるように、生活保護行政の現場では同種の事件が引き続き起こっているのが現実です。


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