「弁護士JP生活保護連載」 第65回記事 令和8年10月11日

今回の記事は、元原稿よりも弁護士JP/ヤフーニュース記事の方が読みやすいので元原稿はカットしようかとも思ったのですが文字数の都合等で『突然通帳を求められたときの具体的な対処法や身の守り方』こちらは元原稿にしかないので、いつも通り公開することにしました。

読みやすさは、断然ヤフーニュース記事公開版です。内容は同じなのに、編集、構成によってこうも違うのかと「武器よりも強い筆」の力を実感する日々、精進します。

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→「過去の通帳見せて」生活保護受給者へ“突然の調査”…なぜ今? 理由は“不正疑い”でなく“役所の引き継ぎミス”のケースも

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→「過去の通帳見せて」生活保護受給者へ“突然の調査”…なぜ今? 理由は“不正疑い”でなく“役所の引き継ぎミス”のケースも

国の一斉調査ではないのになぜ?生活保護で突然「数年前の通帳みせて」

最近、生活保護を受給している、特にルールを守り慎ましく生活しながら病状回復に努め社会復帰を目指されているまじめな方々から、困惑の声が届いています。

「これまで何も言われなかったのに、突然、何年も前の通帳のコピーを提出してほしいと言われた」
「ルールにのっとって、収入申告も期限までにきちんとしているのに、ケースワーカーの引継ぎがうまくいかなかったのか、再度すべて確認させてほしいといわれている」といった相談が全国から寄せられています。

「国から何か厳しい通達でも出たのだろうか」「自分だけが疑われているのではないか」不安に駆られ、体調が悪化してしまったという方もいます。同様の相談が増えているため、この記事を書くことにしました。

生活保護は命をつなぐセーフティネットですから、役所から予想外の調査を求められて、まさか不正を疑われているのではないかと、パニックになってしまうのは無理もないことです。

しかし、過度に恐れる必要はありません。今、福祉事務所の現場で何が起きているのか、そして、もし自分や身近な人が同じような状況になったときにどう対処すればよいのかを、実際の事例を交えながら解説します。

国からのお達しはないのになぜ?

なぜ今になって、過去にさかのぼった調査が頻発しているのか。 実態を把握すべく、過去に同様の相談が多かった地域や福祉事務所を中心に、行政書士として直接確認をしてみました。

すると、担当者からの回答は「国や市から、過去の収入、資産、通帳を一斉に調査するような特別な通達は出ていないと思う」というものでした。そうした回答のあった福祉事務所の上級官庁(都道府県、市町村)にも確認しましたが、「資産調査について、特段新たな通達などは出ていません」とのこと。

ただ、「個別の状況に応じて、過去の調査協力をお願いすることはある」。これは、至って普通のことです。つまり、全国一斉の厳しい取り締まりが始まったわけではないのです。

一斉調査でもないのに、なぜこのような個別の調査が各地で目立っているのか。その背景には、役所の定期的な担当者の交代(異動)とそれに伴う事務手続きの確認漏れが関係しています。

ケースワーカーは通常、一人で非常に多くの世帯を担当しており、日々膨大な業務に追われています。そのため、本来であれば定期的に行うべき資産申告などの書類のチェックが、どうしても後回しになってしまう傾向があります。そして、異動などで担当者が新しく変わったタイミングや、書類を整理し直した際に、「あれ? 数年前のこの期間の記録がすっぽり抜けている」と気づくのです。

慌てたケースワーカーは、記録の穴埋めをするために「過去の通帳を見せてください」と利用者に連絡を入れます。役所側からすれば単なる事務的な確認作業に過ぎません。しかし、事情を知らない一市民にしてみれば、「今まできちんと申告をして、義務を果たしてきたのに、急に何か疑われているのではないか」と恐怖を覚えます。ここに、すれ違いが生じているのです。


近所のネパール出身の方が経営するお店のカレーデリバリー。コロナ禍は経営が大変だったそうです。いつも玄関先で色々お話してくださいます。

「通帳を見せてと言われたことがなかった」自治体による確認体制の違い

数年間にわたり保護を受給している北国の某地方自治体にお住まいの方が「通帳を見せてほしいと言われたのは今回が初めてです」「今までずっと同じケースワーカーで、一度も通帳を見せろと言われなかったのに、新しい担当者になったら途端に通帳のコピーを求めてきた」と、戸惑う様子を見たとき、実務に携わる人間として私は衝撃を受けました。

なぜなら、明確に「資産調査で通帳のコピーを求める」ことまでは生活保護手帳や法令に記載されているわけではないものの、12か月に1度の資産状況の適正な把握は法令で規定された毎年の必須業務だからです。「通帳コピーの提出」という明記がないため、自治体によって対応がばらばらになっているのが実態です。

東京都や大阪市では、基本的に年に一度は通帳コピーの提出を求めています。しかし、最近は銀行が「紙の通帳」を発行しない流れが急速化していることから、現場も臨機応変に対応せざるを得ないケースが増えており、今後も生活保護行政における対応は流動的になるでしょう。一方で、基本的には初回の保護申請時のみ通帳コピーの提出を求め、その後の受給中は写しの提出を求めていない自治体も少なくありません。

大都市圏では、年に一度の資産申告の時期以外であっても、数か月に一度のペースで行政側が金融機関への直接照会や確認を行っていることが多くあります。このような定期的な確認体制が整っていれば、たとえ初期の認知症を患う高齢の単身利用者が公的支援金などの振り込みを悪意なく申告し忘れたとしても、行政側が早期に発見することができます。そして、家庭訪問の際にケースワーカーから「この入金は何ですか?一緒に申告しましょうね」と、事態が大きくなる前の早い段階で是正を促して、トラブルを未然に防ぐことができるのです。

一方で、そうした細やかな定期確認どころか、年に一度の資産申告すらおざなりになっている地域では、何年も前の未申告や確認漏れが蓄積した状態で、担当者が代わったある日、突然「過去の通帳をすべて出して」と求められることになります。悪意なくルールを把握しきれていなかっただけなのに、数年前の入出金一つ一つさかのぼって問い詰められる。本人にしてみれば、青天の霹靂ともいえるショックを受けることになります。

悪意のない「ミス」を「不正」にさせない仕組みづくりを

保護を受けられている方の多くは、心身に何らかの不調を抱えており、決して健康な状態とは言えません。健康であっても、一時的な失業などの事情で保護に頼らざるを得ない方もいますが、生活保護に至る方までに経済不安などで心身疲弊しており、判断能力が乏しくなっていることも。役所側は、後々トラブルにならないよう、保護開始時にしっかりとルールを説明し、「説明を聞きました」という書面にサインを求めて保存しています。しかし、心身に余裕がない状態では、よくわからないままにサインをしてしまったり、後になってルールを忘れてしまったり、そもそも当初から内容を十分に理解できていない方も少なくありません。

以前、私が相談を受けたシングルマザーもそうでした。彼女は長引く物価高の中で、保護費だけでやり繰りがうまくできず、クレジットカードのキャッシングでお金を借りては、保護費から少しずつ返すという生活をしていました。生活保護のルール上、借金(キャッシング)は未申告の収入とみなされてしまうため、原則として認められていません。しかし彼女は、そのルールを本当に「知らなかった」のです。人から借りたり、もらったりするのではなく、自分の保護費の範囲内であれば手持ちのクレジットカードを利用して問題ないと誤解していたのです。(※実際、キャッシングではなく、光熱費などをクレジットカード払いで支払うことは法令上禁止されているものではありません。)

ところが、ある日、役所から通帳の提出を求められたことから、不安になりいろいろとネットで調べてみたところ、初めて自分の行為がルール違反だと知ったのです。パニック状態で、行政書士に電話がありました。

「今すぐ、事実をありのまま、役所に伝えましょう」私が助言すると、自分では言いにくいから、行政書士から電話をしてほしいとのこと。そこで、私から役所のケースワーカーに電話をかけて、「本人はルールを知らず、悪気なくキャッシングで生活費を補ってしまっていたようです」と正直に状況を伝えました。すると、担当のケースワーカーは怒るどころか、「ああ、そうだったんですね。借金を抱えたままでは生活も苦しいでしょうから、法テラスを使って弁護士さんに債務整理の相談をするよう、本人に伝えてあげてください。細かなことは、一緒に処理していきましょう。」と、大変温かく、親身な対応をしてくださったのです。

知らなかったとはいえ、ルール違反をしてしまったことに変わりはありません。しかし、「悪意なくやってしまったこと」をすぐに正直に伝えるのと、「知ったうえで隠し通そうとする(悪意がある)」のとでは、役所の対応も大きく変わります。ケースワーカーも人間ですから、正直に打ち明ければ、ただちに保護の廃止といった強硬手段に出るのではなく、法的なサポートの案内や返還の相談など、一緒に解決策を考えてくれることがほとんどなのです。

だからこそ、利用者の「不正ありき」で疑うのではなく、こうした悪意のないミスが重大な不正へとつながらないような、日頃からのこまめな確認とサポートの仕組みづくりが行政には求められています。

「すでに提出したはずなのに…」引き継ぎ不足が生む行き違い

一方で、「過去にちゃんと書類を出して、当時の担当者と確認も済ませているのに、新しい担当者から『記録が見当たらないからもう一度出して』と執拗に言われた」というケースもあります。

重い病気を抱えながら生活保護を利用している千秋さん(仮名)は、当時のケースワーカーに銀行アプリの画面までしっかり見せて写真もその場で撮ってもらい、手続きを終えていたにもかかわらず、新しい担当者から「生計の証明が確認できない」と過去にさかのぼっての提出を求められました。

千秋さんは「当時の担当者にすべて見せて、ネットバンクの入出金画面の写真も撮影してもらっています」と説明しましたが、「担当が変わったから分からない」の一点張りだったといいます。

さらに、過去にきちんと申告を済ませていた少額の臨時収入(メルカリで不用品を処分した際のキャッシュバックなど)についても、「申告漏れではないか」と疑うような口調で言われ、精神的に深く傷ついてしまいました。

このケースでも、相談を受けた行政書士から千秋さんの希望のもと、区役所へ連絡を入れ、担当者の上司(係長)と話をしました。本人がどれほど不安に思い、傷ついているかを丁寧に伝え、事実関係を確認してもらったところ、結果として「役所側の書類確認のミス(見落とし)」であったことが判明しました。上司の方はすぐに千秋さんの心情を理解してくださり、以後は千秋さんが不安になるような不必要な調査ややり取りは行わないことで、スムーズに円満解決に至りました。

役所の書類紛失や引き継ぎ不足で、利用者が疑われたり、負担を強いられたりすることはあってはならないことです。しかし、人が行っている以上、こうしたミスが起きてしまうのも仕方がないことでしょう。


スーパーで買ったお寿司もお皿に盛りつけると見栄え良し

対立ではなく対話を。身を守るための正しい対処法

生活保護の申請時には、必ず「金融機関の調査同意書」を役所に提出しています。つまり、本人が通帳のコピーを出さなくても、役所は金融機関に直接照会をかけて、個人の資産や入出金を隅々まで調査する権限を持っています。そのため、「見られたくない入出金があるから」と通帳をあえて再発行し、一部の履歴を見えないようにして提出するなどの小細工は、まったく無意味です。

無意味であるだけでなく、そうした隠ぺい工作は「悪意による不正受給」と捉えられかねず、結果として大きなトラブルに発展します。権利と義務は表裏一体であるということは、肝に銘じておきたいものです。

では、もし突然「過去の通帳を出して」と言われたり、心当たりのないことで役所から厳しい言葉を投げかけられたりしたときは、どうすればよいのでしょうか。

まず、決してパニックにならず、逃げないことです。役所からの連絡を無視したり、感情的に怒ってしまったりするのは逆効果です。思い当たる問題がある場合は、すぐに、そして正直に担当者に相談してください。真実を誠実に伝えれば、必ず解決の糸口は見つかります。

もし、すでに提出済みの資料を再度求められた場合は、曖昧な態度はとらず、いつ頃、当時の何という担当者に、どのように提出したのかを、できるだけ具体的に、かつ冷静に伝えてください。「担当が違うから分からない」と言われても、それは役所内部の引き継ぎの問題です。自身が正しい手続きをしているのであれば、毅然とした態度で事実を伝えることも大切です。

それでも、病気で体調が優れないときや、担当者と相性が悪く、話すだけで精神がすり減ってしまうようなときは、ケースワーカー一人ではなく、その上司の方に同席してもらうよう働きかけるだけでも、事態が好転することがあります。

支援する側もされる側も同じ「人」

生活保護制度は、国民の誰もが直面し得る危機から生活を立て直すための、大切なセーフティネットです。役所の窓口の向こうにいるケースワーカーも、限られた時間と人員の中で、支援を必要とする人々の生活を支えようと日々奮闘している一人の人間にほかなりません。

そして、支援を受ける側もまた、先の見えない不安を抱え懸命に生きており、時には制度の複雑さゆえに悪意のないミスをしてしまうことがあります。

互いが感情を持った不完全な人間である以上、すれ違いは起こり得ます。しかし、そこに過剰な敵対心を持ったり、「不正ありき」で対立することは、根本的な解決を生みません。大切なのは、事実に基づいた冷静な対話のテーブルにつくことです。状況を整理し、正しい道筋を立てれば、必ず穏やかな日常を取り戻すことができます。

生活保護の窓口は、恐れるような場所ではなく、親身に相談にのり助けてくれる、一番安心できる無料相談、支援所であるべきです。そして私たち社会全体も、不信感や自己責任論で心を削りあうのではなく、現場の実態、制度の限界を踏まえた寛容さと正しい知識をもって、国民全体の命綱である制度を支え、成熟させていく視点が求められているのではないでしょうか。


行政書士法人ひとみ綜合法務事務所スタッフ原優美は、24歳になりました。


恒例だった自撮りも、そろそろ卒業のようです。人も街も変わっていく。変わらないものもありますね。


日曜お昼は手作りヘルシーピザ。すぐ冷えてしまうので今年は最後。冬のうどん定番へ移行します。