「弁護士JP生活保護連載」 第45回記事 令和8年1月8日

【2026年連載始動】
生活保護とPTA会費―「任意」という名の強制が奪う生存権

皆さま、あけましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2026年最初にお届けするテーマは、長年「慣習」として見過ごされてきた「生活保護世帯とPTA会費」の問題です。

「任意」の形骸化、本来は入退会自由なであるはずの任意団体PTAが、実態として強制加入、強制徴収の場となっている現状と生存権への侵害。PTA会費を捻出するために、受給世帯が食費や光熱費を切り詰めざるを得ない実態。

学校教育という公的な場において、なぜ法的根拠のない徴収がまかり通り、最も支援を必要とする世帯が追い詰められているのか。行政書士の視点から、その法的矛盾を描きました。

Yahoo!ニュースにて配信された編集稿が大変わかりやすく、幅広い層に伝わると思います。しかし、恥ずかしながらも、行政書士が執筆した元原稿を弊所HPではいつも通り公開いたします。(ヤフーニュース/弁護士JPニュースの編集稿の方がずっとわかりやすいのですが、行政書士の熱量が伝わればと。)

弁護士JPニュース
「子どもにみじめな思いはさせたくない」食費を削ってまで“PTA会費”を払う生活保護世帯の親心…“任意”のはずが「実質強制」の不条理

Yahooニュース
「子どもにみじめな思いはさせたくない」食費を削ってまで“PTA会費”を払う生活保護世帯の親心…“任意”のはずが「実質強制」の不条理


行政書士法人ひとみ綜合法務事務所スタッフ原優美 3歳頃

2026年も生活保護世帯の「PTA会費」は義務ですか?

「子ども2人1,500円程度の出費でも、毎月のやりくりは火の車。PTA会費の負担は、大きいです。でも、子どもは自分が生活保護を受けていることを知りません。『みんな7~8口出すのに、うちは1口しか出せない』と、子どもにみじめな思いはさせたくない。親心として、無理をしてでも払うしかないです。」

これは、大阪市内の生活保護受給世帯から筆者に寄せられた相談です。

学校教育を支援する本来「任意加入」の社会教育団体が、PTA(Parent-Teacher Association)です。しかし、実際には多くの学校でこのPTA入退会自由のルールが知らされないまま、会費が強制的に徴収されている実態があります。
共働きが増えた一般家庭にとってもPTAは負担になると、新学期のSNSではPTAの話題が多いですが、生活保護受給世帯にとっては、さらに死活問題。憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」(憲法第25条)と「教育を受ける権利」(憲法第26条)を直接的に脅かす深刻な人権問題となっていることは、あまり知られていません。

長年、PTAの任意加入の周知に取り組む青森県の市議会議員は、最低賃金との関連性も指摘します。

「青森県の最低賃金は、2025年の改定でようやく1,029円になりました。それまでは、953円でした。必死に働いた1時間分の賃金以上が、使途の不透明なPTA会費として徴収されることの理不尽さは、学校関係者にはなかなか理解されません。」

プライバシーへの配慮を楯に、生活保護とPTAの問題は、これまで殆ど議論されることがありませんでした。そのため、生活保護世帯でもPTA会費の公的扶助はありません。貧困家庭からの搾取の実態と、その法的な矛盾と解決法について解説します。

「1口100円、平均7~8口お願いします」教室で行われる公開処刑

PTA会費は地域差が大きく、大阪をはじめ一部の地域では独特な集金システムが継承されています。それは、「1口100円」という単位で、保護者に口数を自己申告させる寄付形式です。

「平均7~8口(1児童あたり)をお願いします」そう書かれた紙と集金袋が配られます。建前は「任意」ですが、子ども自身が学校へ持っていき、クラスメートや担任の前で提出しなければならないケースも少なくありません。
「あの子の家は1口だった」
「あの子の紙、空欄だったよ」
多感な年代の子どもが、そんな視線に晒されるリスクがあり、プライバシーへの配慮が欠落したこのシステムは、経済的に困窮する家庭にとって「公開処刑」にも等しい重圧です。

生活保護費から「PTA会費」は出るのか?

ここで多くの人が疑問に思うのが、「生活保護費からPTA会費は支給されないのか?」という点です。

結論から言えば、PTA会費としての明確な公費助成は生活保護制度上ありません。生活保護法上の「教育扶助」には、学用品費などが含まれますが、これは定額(大阪市の小学生1人月1,170円)であり、PTAの加入の有無や口数によって増額されることはありません。

つまり、前述のような「寄付金(1口〇〇〇円)」扱いの費用は、生活保護世帯が自分たちの食費(生活扶助)を切り詰めて捻出しなければならないのです。これは、国が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な食費や光熱費が、PTAという任意団体の活動費に消えていることを意味します。

貧困層が富裕層のランチ代を負担するケースも「逆進的搾取」

無理をして支払われたそのお金は、何に使われているのでしょうか?本来、公費(税金)で賄うべき学校備品の購入費用や、行政職員が行うべき業務(防犯パトロール等)の人件費が、PTA会費や保護者の無償労働で穴埋めされている実態があります。

さらに深刻なのは、一部の地域で見られる不透明な流用です。食費を切り詰めて支払った会費が、平日昼間に開催される高級ホテルでのランチ会(PTAの行事)や、運動会など学校行事に来賓として来校する地元議員への手土産代に使われている事例すらあります。

これは、「経常的最低生活費を切り詰めている貧困世帯の公金」が、「時間的・経済的余裕がある層の飲食代」に横流しされている状態であり、貧困層から富裕層への所得移転という、極めて不公平な逆進的搾取です。行政がこの実態を黙認していることは、公費の不適正支出にあたる可能性すらあります。

私立学校の場合を見てみましょう。PTA会費は寄付という扱いで、指定口座への振り込みが一般的です。学校側に個別の情報は来ない仕組みを取り入れているところが多く、つまり、役員以外は「誰がいくら寄付したか」が分からず、タダ乗り論争が起きにくいのです。これと比較すると、公立校PTAの「PTA会費の申告用紙を子どもに持たせ、クラスで担任が回収する」という方法は、時代錯誤であるだけでなく、倫理的な問題を多分に含んでいるといえます。

「入会した覚えはない」法的根拠なき引き落としと行政の矛盾

そもそも、PTAは「入退会自由」な任意の社会教育団体です。しかし、多くの学校では入学と同時に「全員強制加入」であるかのように扱われ、入会届も契約書もないまま、給食費などの諸経費と一緒に会費が口座から引き落とされています 。

「そもそもPTA会員になった覚えもない。」
「学校が勝手に保護者情報をPTAに渡すのは個人情報保護条例違反ではないか」
「給食費の口座から勝手に引き落とすのは、契約なき支払い、不当利得ではないか」

こうした法的瑕疵(かし)の指摘は、長年、全国の保護者から教育委員会にも寄せられていました。

PTA向けに「運営改善に向けた提言とロードマップ」を提示する自治体もあります。その中で、学校経由の現金徴収は「即時廃止すべき」、銀行引き落としについても、「法的リスクのため、即時分離・廃止すべき」と明記しています。それにもかかわらず、現場ではこの指針が無視され、旧態依然とした徴収が続いているのです。行政が「問題があるから廃止すべき」としている慣行でも、現場のPTAと学校が継続している乖離は、実態として全国で起きています。

問題視する声も、PTAは子が学校を卒業すれば終わり。一部の保護者が上げた声はかき消されては、また新たに入学した児童の保護者が声を上げる、問題は解決しないまま、次世代に先送りされてきたのです。

教員がPTA業務を行うには、本来、校長とPTA間で明確な「業務委託契約」が必要であり、その欠如は職務の適正性を欠くのではないかという倫理的な見方もあります。
保護者の同意なき名簿提供が学校からPTAになされ、個人情報保護条例違反に該当するのではないかと裁判で争われるなど、義務教育機関が任意加入団体であるPTAの徴収活動に深く関与している実態から、様々な問題が生じています。

行政や世間が、法的根拠の欠如や違法性の指摘を認識しながらも、「慣行」を理由に長年にわたり黙認してきた問題は社会に多々ありますが、その一つがPTAだといえます。

最低生活費を圧迫する「超過負担」と福祉事務所の責務

月1,000円ほどの教育扶助の特別基準額(例:大阪市の小学校で月額1,170円)を超過した場合、その超過分は、保護の実施機関が指導する経常的最低生活費の範囲内でやり繰りによって賄う性質のものとなります。

経常的最低生活費は、被保護者の衣食等の、月々の最低生活需要すべてを満たすための費用であり、この超過分を捻出することは、被保護者の食費や光熱費を直接的に圧迫します。これは、生活保護法の根幹である「必要即応の原則」(最低生活の需要を満たすに十分であって、かつ、これを超えないものでなければならない)の趣旨に反する行為であり、被保護者の自立助長を阻害する可能性があります。

福祉事務所の職員は、被保護者に対して、金銭の管理について生活保護の趣旨目的に反しないよう適切な助言指導を行うこととされています。使途の不透明な団体への超過支出は、この「適切な家計指導」の対象となるべきではないのでしょうか。福祉事務所は、被保護者の生活維持のため、強制徴収を排除する積極的な介入が求められます。

社会的排除のメカニズム:大人のいじめと貧困

PTAへの強制参加や会費未納世帯への同調圧力は、被保護世帯を地域社会から孤立させ、精神的な尊厳を傷つける排除のメカニズムとして機能することがあります。

PTA非加入や会費未納を理由とする圧力は、単なる金銭的要求に留まりません。異論を唱える保護者に対する組織的な無視、陰口、情報遮断といった「大人のいじめ」「村八分」が横行し、いつしかそれが子どものいじめに発展する例は全国で後を絶ちません。

生活保護受給世帯は、ただでさえ地域社会での偏見や孤立を恐れています。「お金がない」「参加できない」と声を上げることが、「貧困のカミングアウト」となり、さらなるいじめや差別の対象となるのではないかという心理的抑圧こそが、生活保護世帯が苦しいながらも不当な徴収に従わざるを得ない、最大の強制力となっている現実があります。


行政書士法人ひとみ綜合法務事務所代表 榎田啓 小学生の頃

「国家の装置」としてのPTAと女性の無償労働の搾取

PTAは、戦時中の「大日本連合婦人会」などの銃後組織の系譜を引く「国家の装置」としての側面を色濃く残しています。

象徴的なのが「ベルマーク運動」です。膨大な時間をかけ、小さなマークを切り取り、仕分け、集計する作業は、すべて保護者(主に母親)の無償労働に依存しています。この活動で集まった点数で購入される備品は、本来公費で賄われるべきものです。これは、立場の弱い母親の労働力を搾取し、行政の予算不足を穴埋めさせていると批判を受けてきました。

「子どもを人質」というと言葉は強いですが、地区班の編成が「災害時の集団下校に必要」という理由でPTAへの加入を正当化される事例もあります。子どもが災害時に危険に晒されるかのような不安を煽ることで、組織への服従を迫る手法は、戦時中の「隣組」的な動員方法そのものであり、子どもの安全を盾にした間接的な強制といえるかもしれません。

人権侵害としての差別的取り扱いと、契約なき徴収

そもそも、PTAは入退会自由な、任意の社会教育団体です。しかし、多くの学校では入学と同時に「全員強制加入」であるかのように扱われ、入会届も契約書もないまま、給食費などの諸経費と一緒に会費が口座から引き落とされています。

PTA非加入や会費未納を理由とした、子どもへの差別的取り扱い(卒業記念品の不授与、特定の行事からの排除、登校班からの除外など)は、子どもの教育を受ける権利と尊厳を侵害する行為であり、明確な人権侵害です。被保護者は、心理的圧迫により、本来支払う義務のない費用を支払わされるという二重の苦痛を強いられています。

「PTA入会届」を用意している学校は、全国的にも稀であり、任意加入団体に入会の意思表示をしていない以上、支払い義務はありません。それでも保護者が支払いを拒めないと訴える最大の理由の一つは、「子どもがいじめられないか」という恐怖です。

実際、SNS上にも、PTA非加入世帯を「タダ乗り」として批判する傾向が見られます。
また、生活保護受給世帯に対しては、「就学援助(修学旅行費や給食費の補助)を受けているのだから、PTA会費くらい払うべきだ」という声もありますが、これは論点のすり替えです。就労援助は経済的困窮への公的支援であり、それを受けたからといって、任意団体への入会や会費支払いを強制されるいわれはありません。そもそも就学援助の対象項目にPTA会費が含まれていない自治体が多く、あくまで「別の話」として切り分ける必要があります。
教育現場には、入学時に保護者に対して、PTAが完全な任意加入団体であることの説明と、個人の入退会の有無が他の児童や保護者に知られることのないプライバシーへの配慮の徹底が強く求められます。

抜本的改革への提言:義務教育無償化のあるべき姿へ

「みんな払っているから」という空気の中で、今日の食事にも事欠く家庭が、法的根拠のないお金を徴収されていることさえ知らずに苦しんでいる現実があります。慣習としてこの問題を放置することは、憲法第25条で保障される生存権と、第26条教育を受ける権利を侵害する行為に他なりません。

解決のためには、まず何よりもPTAが「任意加入」であることを徹底周知し、学校徴収金とPTA会費を明確に分離することが不可欠です。PTAが入退会自由の任意加入、任意団体であるということを未だ知らない保護者も多くいます。入会しないという当たり前の権利を誰の目を憚ることもなく、自由な意思で行使できれば、そもそも会費負担は発生せず、「お金がないから払えない」とカミングアウトする必要もなくなります。これこそが、精神的な重圧から解放されるための第一歩です。

さらに、本来PTA会費で賄われている学校備品などは、保護者の私費ではなく公費(税金)で賄われるべきものです。公的予算を増やし、保護者の財布に依存する体質を変えることこそが、「義務教育無償化」の本来あるべき姿であり、本質的な解決策と言えます。

しかし、こうした改革が浸透するまでの過渡期において、現場での事実上の強制が直ちになくなるとは限りません。同調圧力によって生活保護世帯が食費を削らざるを得ない現状に、猶予は許されません。強制徴収の実態がある以上、国や行政はその責任として、生活保護制度での対応を即すべきです。家賃のように、代理納付の対象とするか、あるいは教育扶助として実費を上乗せ支給するなどの制度改正を直ちに行うべきです。これは決してPTAの強制性を肯定するものではなく、あくまで生活保護世帯の生存権(食費)を守るための、緊急避難的な措置です。被保護者が「生活扶助費を切り詰めてPTA会費を支払っている」現状は即解消すべきでしょう。

PTA会費徴収問題は、行政と世間が長年にわたり、公費の不適切な使途や法的矛盾を黙認してきた結果、そのツケが、最も立場の弱い、声をあげたくてもあげられない、生活保護受給世帯に回ってきているのです。

行政、学校、そして地域社会全体が、PTAの「任意」という言葉の欺瞞を排し、すべての子どもが経済状況にかかわらず、心身ともに健康な状態で教育を受けられる環境を整備する。そのための抜本的な意識改革と制度改革を、2026年の教育改革の一つに。


年始恒例のカニすき。年に一度の贅沢です。


お正月も終盤は洋風お鍋で。オリーブオイルとサバ缶とミニトマトとパセリのみ美味しい


無印良品のパンはリーズナブルで美味しいので、冷凍して重宝します。


お好み焼きにお客様からの自家製みかん


物価高騰のいま、子どもの食費を削ってPTA会費を捻出するのでは、本末転倒では・・・