「弁護士JP生活保護連載」 第18回記事 令和7年6月1日
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→「生活保護は甘え」は本当か? 強迫神経症で職を失った30代男性が「給付と支援」でつかんだ人生の再出発
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→「生活保護は甘え」は本当か? 強迫神経症で職を失った30代男性が「給付と支援」でつかんだ人生の再出発(弁護士JPニュース)
今回は、行政書士がもう9年目の長いお付き合いになるヨシダ君(仮名※弁護士JP/ヤフーニュース記事では別の仮名、どちらも仮名です。)と共同でこれまでの生活保護申請・受給から薬に頼らない精神疾患の回復から仕事再開の経緯などをまとめ、世に出した思い入れのある記事です。文字数の都合もあり、原稿のすべては記事に入れられなかったので、下記に原稿そのものを公開します。(編集校正前なので、読みづらい個所はご容赦ください。)
連載第18回生活保護から社会復帰へ~「税金で生きる人」は「税金を納める人」になれるのか?
はじめに~誤解と偏見にまみれ、見えにくい現実
「生活保護を受けると、人は堕落して働かなくなるのではないか?」
この問いは、決して珍しいものではありません。働かなくても最低限の生活が保障されるとすれば、人は本当に努力しなくなるのではないか――そうした疑念を抱くのも、ある意味で自然な反応でしょう。
しかし、それは生活保護制度に対する根強い誤解のひとつです。結論から言えば、『生活保護からの社会復帰は可能』です。
たとえばコロナ禍では、多くの勤労意欲ある健康な若者が、営業自粛要請など不可抗力の社会的影響により職を失い、生活保護に頼らざるを得ない状況に陥りました。このとき、行政書士の私も初めてのことに戸惑いました。そして、脳裏にこの偏見による疑問が渦巻いたものです。
コロナ禍で職を失った人たちの多くは、非正規雇用の不安定な労働環境で、比較的低廉な賃金で働いていた方々でした。生活保護制度に一時的に頼ることによって、この制度がいかに手厚く安心できるセーフティーネットかを知った若者たちが、再び同じような低賃金の労働環境に戻るのだろうかと。
でも、現実には、社会的自粛モードが緩み求人数が戻ると、働ける状態にあった若い人たちは、次々に新たな仕事に就き、生活保護から自立していきました。人が働く動機は、金銭だけではありません。マズローの「欲求階層説」にも示されている通り、金銭を超えて人を動かす原動力として、自己実現や社会的承認を求める欲求があるのです。実際に、行政書士である私のもとを訪れる相談者の多くは、「働けるようになるまで一時的に制度を利用したい」と話します。
嵐をしのぐため、しばし生活保護という庇の下で羽を休めていた渡り鳥たちが、やがて光の兆しに誘われるように、一羽また一羽と空へ舞い上がっていくかのごとく――それは実に清々しく、人間の尊厳と再起の力を感じさせるものでした。
緊急事態で一時的に生活保護制度に頼るのではなく、心身の病気や障害により労働が現実的に困難で自立した生活が営めなくなって制度利用に至ったケースではどうでしょうか。この記事では、「生活保護制度を利用したら楽ができ、怠惰心から働かなくなるのではないか」という疑問、偏見に対して、行政書士が見た「リアル」を伝えます。
エスカレートした強迫神経症により引きこもりになった20代男性
ここからは、より深刻な事情を抱えた生活保護の利用事例を紹介します。当時20代だったヨシダ君(仮名)は、同じように悩み苦しむ人の励みになりたい、そして生活保護制度への偏見を少しでもなくしたいという思いから、自らの経験の公開を望みました。
2017年3月、大阪府郊外の祖母宅に引きこもっていたヨシダ君から、悲痛のメール相談が行政書士事務所に届きました。直接話を聞くから、大阪市北区の裁判所近くの事務所に来てくださいと行政書士が伝えても、公共交通機関を利用できず外が怖く外出できないといいます。
そこで、メールや電話で相談内容を聞き取り、役所に行くこともできなくなっていた本人に代わって行政書士が生活保護申請書を作成、役所に提出し、無事に保護決定に至りました。ただ、そこに至るまでの経緯が特殊でありながら、実際よく八方塞がりになりがちなケースなので、まずはどのような状態で相談があり、生活保護受給に至ったかを解説します。
①潔癖症が高じて祖母宅に引きこもり~孤立の中の苦悩
ヨシダ君は、高校を卒業してから、棚卸の仕事に3年ほど従事し、その後はトラック運転手と、主に肉体労働をしていました。ただ、ある日、ふとしたきっかけから『手が汚い』と感じ、ウェットティッシュを常備するようになりました。最初は、汚れたら手を洗う、拭くという作業だったのに、どんどん行為はエスカレートし、軍手をはめ、マスクをしないと外出ができなくなっていきました。
最後に働いたトラックドライバーの仕事では、月給は手取り16万ほどでした。その仕事中に、走行する道路にゴミが落ちているのを見て気分が悪くなり、車を止めて休んでしまうようなことが頻繁になり、解雇されてしまいました。
無職無収入となり、最初は実家に引きこもっていたヨシダ君ですが、親からは働かないなら出ていくように厳しく言われ、祖母宅に転がり込みます。その祖母宅でも、強迫神経症により食事も一緒にとれない、何もできないどころか、洗濯をすると余計に汚いからと衣類やタオルを洗えない。真っ黒な軍手が部屋に置かれた不衛生な状態に祖母も耐え兼ね、そこも出ていくよう言われている状況でした。ヨシダ君の実家には男性の存在がなく、母、祖母、妹とだけ接する日々の中で、ヨシダ君は極度の男性恐怖症も発症してしまい、ますます外出が困難となってしまったといいます。
②本来、一つ屋根の下で一緒に暮らしている親族は同一世帯だが
本来、年金受給の祖母と一つ屋根の下で二人で暮らしていれば、無職の孫だけが生活保護を受けることはできません。単身で生活保護申請をしても、同居の親族に資産収入があれば、経済的援助を受けているとみなされます。ただ、ヨシダ君のケースでは、祖母は経済援助はできない、一刻も早く出て行ってもらわなくては困ると立場を明白にしていました。そのため、事実をありのままに申請書に記載し、実態を役所に調査してもらうことになりました。
ヨシダ君は、強迫神経症により精神障害2級の認定を受け、障害基礎年金2級(満額の老齢年金と同額、年間約80万円)も受給していました。祖母宅に身を寄せていたため家賃は発生していませんでしたが、祖母宅を追い出されてしまうと、たちまち住居費はなく路頭に迷ってしまう状態です。引っ越し先を確保するための貯金などもなく、また、強迫神経症により集団生活を伴う施設入所などはできません。
個別のケースに応じて判断する権限、裁量が福祉事務所長には委ねられています。ヨシダ君の場合も、無職無収入で強迫神経症という病気の悪化によりすぐには就労収入を得て自立した生活をすることが困難と認められ、無事に生活保護が決定しました。あくまでも、例外的な決定であり、保護決定後に役所が引っ越し費用を交付し、祖母宅を退去し独居生活で単身保護受給というのが前提条件でした。
③生活保護決定後に引越し、生活を立て直すため奮闘したヨシダ君とケースワーカー
精神障害(強迫神経症、不安症、男性恐怖症)を患い、周囲の環境に対して強い不安感があったヨシダ君は、生活保護決定当初は、日常生活も単独ではこなせないほど病状が悪化していました。居候していた祖母宅の部屋は、ゴミ屋敷のような不衛生な状態でしたが、それは彼にとっては、「汚い外部から自分を守る空間」でもありました。すべて汚染されているという恐怖で素手では何も触ることもできず、外の空気を吸うことにすら抵抗があり、一時的に外に出るときは息を止めるなどしている状態でした。
親族と同居の状態でも例外的に単身で生活保護を決定してくれた福祉事務所から、これは例外的な措置だから早く引越し先を決めるようにと促されても、物件の下見に行くこともできませんでした。移動手段を確保できなかったのです。下見もしていない物件への引越に強い不安を抱きながらも、なんとか確保した居住先マンションの一室に、公費で引越費用を支給してもらい転居に至りました。そして、人間らしい生活が送れるように、定期的に訪問ヘルパーによる支援を受けることになりました。働きたい気持ちがありながらも、病気のため就職活動はおろか日常生活をまともに送ることさえ困難な状況でした。
「排気ガスや騒音問題、また歩き煙草やごみの不法投棄などに、当人は強い不安感を抱き外出が困難となっており、自立を妨げている。」これは、当時の主治医の意見です。
これは汚いのではないかと気になって除菌すると、自分が触れたものではない他人が触れたものが汚いと感じ、外出先で何かを触ることが恐怖になり、帰宅すると外出先で汚れたと思うものをすべて除菌しなければいけないと思い込み、そうした作業に費やす時間もお金もどんどん増えていく・・・。戸締りをしたかどうかの不安から来る確認作業など、こうした強迫神経症は、気にして自分で対応すればするほど、ますます気になる範囲が広がり症状がエスカレートするといいます。投薬治療もありますが、ヨシダ君は医師に勧められた「気になるけれど対処をしない」という薬を用いない認知行動療法で治療を進めることになりました。
ただ、一筋縄ではいきませんでした。この治療法はいわば荒治療で、一般的に相当な苦痛を伴うといわれます。精神的な拒絶感や不安感は、身体的な症状にも表れてしまい、行政書士事務所や役所に電話をした際に男性が対応しただけで、吐き気を催しトイレにこもってしまうような日々が続きました。当初は役所でも病への理解が乏しく、男性ではなく女性が対応するという特別な配慮をすることはありませんでした。ただ、どうにも症状が改善せず、このままでは身体的な異常をきたしてしまうこと、また自立のための相談を役所にしたくても男性が対応するという恐怖から身構えてしまうことを丁寧に役所に説明し、理解してもらうことができました。
男性ケースワーカーを年度途中に女性に変更するということは人員配置的にも困難で、男性受給者のケースワーカーは基本的に同性というルールに則りながらも、家庭訪問の際は女性職員が同席する、電話対応は女性がするなどの臨機応変な対応をしてくれるようになりました。そして、本人が安心できる環境で、徐々に病状も緩和していき、最終的に男性ケースワーカーともやり取りが直接できるようになりました。
④障害年金受給から卒業し、自立と自由の道へ
その後、汚いと気になることもあえて健常者と同じ行動を心がける、認知行動療法という薬を用いない治療方法で、順調に病状を回復させたヨシダ君は、ついに病院に行かなくてもいい生活となりました。障害年金を受給している場合、手足の切断や失明など障害状態が固定される永久認定以外のほとんどの人は、1~5年ごとの更新制です。更新時期に障害の状態を確認するため、医師による記入提出を求める診断書が誕生月の月末に日本年金機構から送付されます。
病状と通院から解放され、自由を手に入れたヨシダ君は、障害年金やヘルパー支援からも卒業することができました。そして、ついには仕事も再開できるようになりました。
衣食住が確保されるという意味では安心を与える生活保護制度ですが、労働意欲を奪い人間を怠惰にする制度設計にはなっていません。生活保護受給中に就労した場合、その収入のすべてが保護費から差し引かれるのではなく、就労控除などが設定されており、働いた分の一部は手元に残る仕組みになっています。そして、一定以上の収入が安定すれば、保護は段階的に終了します。働いたら即生活保護を打ち切られるようなことも、当然ありません。将来的な自立、そして自由への道を制度的に支援してくれるのです。
「生活保護に頼ると一生そこに甘えてしまう」というイメージは、実態と乖離しています。
「税金で生かされている」? その言葉に潜む無理解
弱い立場にいる人をさらに傷つける一言は、知らず知らずのうちに、支援を受けること=恥という空気を生み出し、必要な制度から人を遠ざけてしまいます。
筆者自身、かつて母子家庭で生活が困窮し、生活保護の相談をしたとき、役所の窓口でこう言われました。
「親が公務員で税金で暮らしてきたのに、その子どもや孫までもが税金で生活保護を受けるなんて、どうかしている。」
これは、今でも胸に深く刻まれた言葉です。弱い立場にいるときは、悔しく恥ずかしくあまりにも辛く、何も言えませんでした。ですが、今ならはっきり言えます。その考え方こそが、社会の仕組みを誤解していると。
生活保護は、憲法25条に明記された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するための制度です。つまり、それは国民全体が「お互いさま」として支え合う社会契約の一部なのです。
公務員や政治家が「税金で暮らしているのに偉そう」という発想もまた、的外れです。消防士や救急隊員がいなければ命が守れず、ごみ収集や上下水道が止まれば街はたちまち混乱に陥ります。保育士や学校の先生がいなければ、未来を担う子どもたちはどう育つのでしょうか。
そう、公務とは、社会全体を支えるための不可欠なインフラ。それは営利では成り立たない「公共の利益」を担う役割です。生活保護もまた、そうした公共インフラのひとつ。誰かが困ったときに、必要な支援を届けるためにあるのです。
それは甘えではなく、支え合いの証です。
おわりに~税金で支え合う社会
生活保護は、「誰かを甘やかす制度」ではありません。それは、人がもう一度、人生を歩み直すためのスタートラインを整える仕組みです。
そして、生活保護受給者が消費をすれば、そのお金は民間企業に流れ、結果として税収に還元されます。生活保護費は最低生活を維持するためのものですから、消費に回ることが確実といえます。そして、生活保護制度により自立した人が納税者になることも多く、単に税金として支出されるだけの制度ではありません。税金は、社会の中で循環し、必要な支援と成長に使われる仕組みなのです。
ヨシダ君は、制度に「甘えた」のではなく、「希望の糸口」としてつかみました。そして、時間をかけて、自らの力で立ち上がったのです。その姿は、私たちに「人は何度でもやり直せる」という事実を教えてくれます。
「税金で生かされている」といった言葉の裏には、誤った優越感や無理解があります。しかし実際には、私たちの誰もが、いつかは支える側から支えられる側になるかもしれません。そして、再び支える側へと戻ることもできるのです。
税金とは、他者を責めるためのものではなく、社会全体を回す力です。その使い道のひとつが生活保護であり、再び社会に戻る人たちの背中を押すことも含まれます。
ヨシダ君のように、制度を経て自立を果たし、社会の一員として生き直す人がいる。その一人ひとりの姿こそ、私たちが築くべき寛容で温かな社会の「答え」ではないでしょうか。
みんなが大好きSUKIYAKI
生卵は途中で追加します。
盛り付け前
お一人様分
今年は初夏も寒い日が多いですね。
秋までおしまいと思ったら、またお鍋の出番に。野菜たっぷり蒸し鍋。
令和7年5月28日 大阪府行政書士会総会はリッツカールトン大阪でした。
立派な新築の大阪府行政書士会館があるというのに、全会員の10分の1も例年集まることのない1日の総会のために高級ホテルに莫大な金額を費やす意味はあるのでしょうか。
ご来賓というのは、主には政治家のことです。大阪府行政書士会の総会や賀詞交歓会には、毎年多くの政治家が挨拶や懇親のため来られています。
行政書士が手に持っているのは、鹿児島の銘菓「かるかん」司法書士の先生が前日にお贈り下さいました。
これは何でしょうね?(笑)
中川清行先生とご一緒に。総会会場のリッツカールトン大阪のすぐ近く、新しくてできたKITTE1階大阪中央郵便局には、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所のポスターを長年掲示頂いています。
行政書士法人ひとみ綜合法務事務所の代表、榎田啓先生(左)
大阪府行政書士会総会後の懇親会。こちらもリッツカールトン大阪です。
ビュッフェを前に、日本行政書士会連合会会長の長いお話を聞いています。
大変豪華な総会でした。法律系国家資格者の強制加入団体が、大阪府行政書士会。国家試験に合格しても、この強制加入団体たる行政書士会に入会時約30万円、毎月の会費も納める必要があります。もっと、質素でお金のかからないもので良いのではないでしょうか。
行政書士試験は学歴要件もなく、刑務所から出所した方や、生活保護受給している方も挑戦しやすい試験で、実際毎年合格者も多いです。また、官公署から委託される公的業務も多く、マイナンバー関連の事業においては国から約700億が行政書士会に交付されたそうです。ただ、その収支詳細を一般の行政書士が知り得ることはありません。
行政書士という職業が、本当に人の役に立てる仕事であるなら、その集合体である行政書士会は、清廉で、誇り高い組織であるべきです。