「弁護士JP生活保護連載」 第26回記事 令和7年7月28日
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→生活保護受給者の“孫”が働きながら学校に通うのはNG? 最高裁判決に「国はヤングケアラー推進か」疑問の声も…若者の自立を阻む“制度の矛盾”とは

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→生活保護受給者の“孫”が働きながら学校に通うのはNG? 最高裁判決に「国はヤングケアラー推進か」疑問の声も…若者の自立を阻む“制度の矛盾”とは

2025年、最高裁が「孫の収入を理由に祖母の生活保護廃止を適法と認めた」判断を下しました。
この裁判は、大学進学のために「世帯分離」された孫が、社会に出て数年後に収入を得たことを理由に、同居祖父母の保護廃止が決定されたというものです。最高裁はこの行政判断を「違法とまではいえない」と判断しましたが、その波紋は小さくありません。
制度の目的である「将来的な自立助長」と、「一時的な収入把握による保護打ち切り」の間には、埋めがたい矛盾が潜んでいます。
公開Yahoo!ニュース記事では、こうした制度的ジレンマを、広く一般向けにかみ砕いて紹介しました。
本ページでは、判決に至る10年超の経過、各審級の判断構造、制度運用の変遷、そしてこの事件が持つ社会的意味を、客観的に整理した元原稿を全文公開しています。
制度と運用のゆらぎに関心のある方、公的扶助のあるべき姿を考えたい方に、ぜひご一読いただければ幸いです。
■長洲(ながす)事件
熊本県長洲町で起きた「長洲事件」は、生活保護制度、特に「世帯分離」の運用と若者の自立支援という、日本の社会が抱える根深い課題を浮き彫りにした裁判です。
この事件は、同居する孫の収入が増えたことを理由に祖父母への生活保護が打ち切られ、その処分取り消しを求める訴えが最高裁で棄却されたものです。
この棄却がニュースとなったのは直近の2025(令和7)年6月12日。ネット上でも大きな反響を呼びました。
この事件の背後には、福祉事務所による不適切とも思える対応や、若者の未来を左右する制度の矛盾が潜んでいました。今回は、この事件の経緯と、その背景にある問題点、そしてその後の展開について、詳細を時系列で解説します。
■「世帯分離」とは何か?
長洲事件を深く理解するためには、生活保護制度における「世帯分離」という仕組みを把握することが不可欠です。
世帯分離とは、同じ家で生活していても、生活保護制度上は保護受給世帯の世帯員として扱わないことを指します。その主な目的は、生活保護受給世帯の子どもが大学や専門学校などへ進学する際に、その学費や生活費を自分で工面することを前提に、同居しながらも保護受給世帯とは別の世帯として扱うことで、将来的な自立を促進・助長することにあります。世帯分離が認められれば、就労してもその収入は保護受給世帯の収入申告の対象にはなりません。厚生労働省の通知では、看護学校などの専修学校で学ぶ場合は世帯分離の対象に含むと明記されています。
かつては、生活保護受給者が義務教育修了後に就学することは「ぜいたく」とみなされ、原則認められていませんでした。しかし、高校進学率の上昇を受け、1970年以降、大学や専修学校への進学についても世帯分離を条件に認められるようになりました。これは、子どもの経済的負担を軽減し、教育課程を修了させて十分な稼働能力を取得させ、本人および保護世帯の将来的な自立を促進・助長するという趣旨に基づいています。
しかし、生活保護を受けながら大学や専門学校で学ぶことは依然として「高等教育はぜいたくだ」という運用が続けられており、大学進学率が80%を超える現代社会の状況に即していないという批判が根強く存在します。また、学生が学費や生活費を自分で賄うために収入が増えることで世帯分離を解除されるならば、一人暮らしなど自立するための貯金も難しくなり、「貧困の連鎖を断ち切れない」という懸念が表明されています。
■長洲事件の時系列と裁判の推移
長洲事件は、熊本県長洲町に住む70代の高齢夫婦(原告男性と妻)と、同居する30代の孫(女性)を巡る問題でした。
2014(平成26)年4月:孫が2年制の准看護科に入学。
2014(平成26)年7月:祖父母が生活保護を申請。孫は祖父母と同居しながら、准看護科で学び、病院に勤務して学費や生活費を工面していました。
2014(平成26)年8月 孫と祖父母との世帯分離が認められ、祖父母の生活保護受給開始
2015(平成27)年10月:ケース診断会議が開催され、福祉事務所は孫の世帯分離継続を検討し、その就学が世帯の自立助長に効果的であると判断し、継続を決定します。
2016(平成28)年3月:孫は准看護科を卒業し、准看護師の資格を取得します。
2016(平成28)年4月:孫は引き続き看護師を目指し、3年制の看護科に入学。学業と仕事を両立し、早朝から深夜まで病院勤務に明け暮れる日々を送っていました。この頃、孫の収入は手取りで月12万~16万円ほど、総支給額で14万~19万円ほどに増加していました。
2017(平成29)年1月26日:福祉事務所はケース会議を開き、孫の収入が増加し、健康保険や年金にも加入できたことなどを理由に世帯分離の解除と生活保護の廃止を決定。
2017(平成29)年2月14日:福祉事務所は「世帯の収入が最低生活費を上回るため」として、祖父母の生活保護を廃止しました。これは、孫の収入で祖父母を養うべきだという意味合いでした。しかし、孫の収入は看護学校の実習期間には激減することが分かっており、将来の学費のために貯金をする必要がありました。
生活保護を打ち切られた祖父母は経済的に困窮し、病院受診を控えたり、ガス代が払えず近隣から借金をしたりする事態に陥りました。孫は祖父母を養うために収入を使えば、看護学校での就学を続けられない状況に追い込まれました。
また生活保護廃止から8ヶ月後の2017年10月、生活が立ち行かなくなった祖父母が生活保護を再申請した際、福祉事務所の職員が自宅を訪問。孫が怖がって部屋に閉じこもると、30分にもわたりドアを叩き「出てきなさい!」などと怒鳴り、家にお金を入れるよう迫ったとされています。この暴力的な行為により、孫は精神的に不安定になり、1年間休学せざるを得なくなりました。
幸いなことに、孫は1年間の休学を経て復学し、同じ病院で働きながら、ついに念願の正看護師の資格を取得しました。
2020(令和2)年6月1日:祖父は、生活保護廃止処分の取り消しを求め、熊本県を相手取って提訴に踏み切ります。
2022(令和4)年10月3日:熊本地裁は原告(祖父)側の訴えを認め、県の処分を取り消す判決を下しました。中辻雄一朗裁判長は「収入増という表層的な現象しか見ておらず、県の判断は裁量を逸脱・乱用している」と指摘。判決は「世帯の自立という長期的な視点に欠け、違法」であると断じ、「生活保護を打ち切れば原告夫婦が経済的に困窮し、自立しようとした孫に支障が生じる可能性が高いことは容易に予測できた」としました。また、法律上は孫に祖父母を扶養する義務はないと明確に指摘されていました。
2024(令和6)年3月22日:福岡高裁は地裁の判決を取り消し、県側の主張を認める逆転敗訴の判決を言い渡しました。高裁は「最低生活費を上回る世帯収入があったことなどから、世帯分離を解除する判断は違法とは言えない」としました。この判決は、「一応」の自立で十分とすることは、将来的な自立を促す世帯分離の趣旨と整合しないと批判されました。
2024(令和6)年9月18日:全日本民医連などが「生活保護世帯・若者の未来を開く判決を!」求める署名、約3万8千筆を最高裁に提出しました。
2025(令和7)年6月12日:最高裁判所は原告男性の上告を棄却し、福岡高裁の判決が「適法である」との判断を示しました。最高裁の裁判官5人の意見は全員一致でした。
■最高裁の判断と社会からの批判
最高裁の棄却決定に対し、SNSなどでは多くの批判の声が上がりました。
「最高裁の裁判官5人が全員一致で『孫は看護学校あきらめて祖父母の面倒を見ろ』と判決下したって、恐怖だね。『貧乏人は夢など見るな』とエリート様はお考えのようだ」という声が上がりました。
「判決が間違っているのではなく法律が間違っている」という声が多く、現行法が時代錯誤であるという意見が表明されました。
この判断は「貧困の連鎖を断ち切れない」と懸念され、国が「ヤングケアラー推進」をしているのではないかという疑問も投げかけられました。
准看護師の資格は正看護師になるための通過点であり、実習期間は収入が激減するため、学費を貯めるのは当然の計画性だという指摘がありました。
熊本県社会福祉課は最高裁判決に対し、「現行制度ではこの判決が正しく、県の主張が認められたものと考えている。しかし、今後、頑張っている若者を応援できるような見直しが行われる場合には賛同する」とコメントしています。このコメントは「は????」と皮肉を込めて受け止められました。
太田伸二弁護士は、「孫の就学・資格取得により、自立を一応達成することができた」とする高裁の判決について、「一応」の自立で十分とすることは、大学や専門学校へ進学する者を世帯分離する趣旨が「世帯の将来的な自立」のためであることと整合しないと指摘しています。また、高裁判決が「孫が看護師の資格取得を目指していたという主観的な事情は、自立の目的達成に関する判断を左右しない」としたことに対し、「子ども・若者が高い目的を持ち、それを達成しようとすること自体が持っている価値をあまりにも軽く見過ぎていて、この判示には強い憤りを覚えた」と述べています。
■生活保護の再開と孫の自立
この一連の裁判の過程で、重要な事実として、熊本県は一度廃止した祖父母の生活保護を約1年後に再開しているという点があります。
生活保護を再開した理由は、孫が正看護師の資格を取得した方が自立助長に効果的であるという判断から、改めて孫を世帯分離したためです。
孫は休学を経て復学し、最終的に正看護師の資格を取得し、自立を果たしました。
この再開の事実と孫の自立は、当初の福祉事務所の「世帯分離解除」と「保護廃止」の判断が、長期的な視点や自立助長の趣旨に欠けていたことを示唆しています。弁護団の一人である尾藤廣喜弁護士は、「世帯分離の目的を達していないのに、勝手に解除してはいけないんですよ。行政は一貫性がなくてはいけないんです。自由裁量で(人の運命を)決めてはならない」と指摘していました。
■今後の課題と問い直される制度のあり方
長洲事件は、たとえ法的には「適法」と判断されても、それが社会の実情や人々の尊厳、そして若者の将来の可能性にどう影響するかという、より本質的な問題を浮き彫りにしました。
現在の生活保護制度は、大学や専門学校への進学者を世帯分離する運用を続けていますが、子どもの貧困対策法や修学支援新制度の導入、給付型奨学金や学費減免の拡充など、社会全体としては教育機会の保障と自立支援の方向へと進んでいます。
この事件は、必要な人が適切な保護を受けられ、そして自立を目指す若者の努力が踏みにじられることのないよう、生活保護制度の運用と法律そのものの見直しが強く求められていることを示しています。
世帯分離の継続を支援すべきだったという声や、そもそも大学や専門学校への進学者を世帯分離する扱い自体を止めるべきだという意見も提起されています。
この事件を通して、社会保障制度が個人の尊厳と未来をどのように支えるべきか、改めて深く考える必要があるでしょう。

鶏肉と卵煮込み

タイ風焼きそば

ウナギどんぶり

カジキマグロのムニエル


お客様から大きな大きなスイカをいただきました。


高島屋のスイカでしょうか?

箱のなか一杯の「でんすけ」北海道の名産だそうです。







