「弁護士JP生活保護連載」 第40回記事 令和7年11月4日
今回の記事を書くにあたり、「男性職員が一人で家庭訪問に来ること」違和感に声を上げた3都道府県で病や高齢など事情を抱え、一人暮らしをしながら生活保護を受給されている良識ある女性3名の方に女性行政書士がお話を伺いました。
3名の女性のお声を反映した、元原稿を公開します(※ヤフーニュース記事の方が編集され読みやすくなっています。元原稿は、現場からありのままの風を感じていただければと、公開しています。)

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→生活保護「女性受給者」宅へ「男性ケースワーカー」1人で訪問、性被害が起きたケースも…行政側“配慮ルール”に課題

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生活保護「家庭訪問」に性別配慮ルールは「ゼロ」 全都道府県調査で判明
「女性の一人暮らしで、男性を家に上げたことなんて一度もなかったのに。生活保護を受けるようになってから、毎月のように男性が突然一人で家に来るのが、本当に怖いんです。」
「もうおばあちゃんなのに、こんなことを言ったら笑われるかもしれないと思って、役所には言えなくて・・・。自営業の夫を亡くして狭い部屋に引っ越したものですから、男性が来ると一つしかないソファに座ってもらうことになります。そうすると、私はベッドに腰かけるしかありません。ベッドに座った状態で向き合って男性と話すことに、違和感があります。また次も来るのかと思うと、毎日気が重くて。」
これらは、障害や高齢などを理由に生活保護を利用しながら暮らす女性たちから、筆者に寄せられた切実な声です。
生活保護制度では、暮らしぶりを確認し必要な支援を行うため、担当者(ケースワーカー)による定期的な「家庭訪問」が原則とされています。しかし、命と暮らしを守るはずのこの制度が、特に一人暮らしの女性や、過去に性的な被害を受けた経験を持つ女性たちを、おびえさせている現実があります。
ある女性は、男性ケースワーカーの訪問が、過去のレイプ被害の記憶を呼び覚ます引き金となりました。彼女はその被害が原因で心に深い傷を負い、生活保護を受け始めた経緯がありました。福祉事務所もそのことを把握しており、当初は女性の担当者を配置してくれていました。
ところが今年、「人員が足りないから」という理由で、突然、担当が男性に変わりました。それまでの女性担当者は、訪問前に事前に日時を電話で決めてくれていたのに、男性ケースワーカーは連絡もなく、突然やって来るようになったといいます。せっかく来たのに、居留守を使うのも悪いと思い、女性がためらいながらドアを開けるとその男性職員は、ドアが閉められないように無言で足を差し入れたのです。
その夜、彼女は自ら命を絶とうとしました。記事での公開も構わないと女性が提供してくてれた写真は、血の海の惨状でした。救急車で運ばれ、幸い一命はとりとめましたが、社会復帰に向けて少しずつ前に進んでいた彼女の日常は、再び奪われてしまいました。この出来事について警察に相談しても「犯罪構成要件を満たしていない」と被害届は受理されず、弁護士からも「民事裁判で争うのは難しい」と告げられたといいます。(※本記事での公表は、女性ご本人が強く希望されたものです)
命を守るための制度が、なぜ利用者を危険にさらし、心を傷つける事態を招いているのでしょうか。これは決して個別の職員の問題ではありません。その背景には、全国の福祉現場に共通する、見過ごされてきた問題がありました。
そもそも法律は「性別」への配慮を義務付けている
そもそも、生活保護制度は、その基本理念として個々の状況に応じた配慮を法律で明確に義務付けています。
生活保護法 第9条(必要即応の原則)
保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとする。
この条文は、保護の実施にあたり、まさに「性別」を含む個別の状況を考慮し、有効かつ適切に行うべきことを直接的に命じているものです。女性受給者からの「男性一人の訪問は怖い」という訴えは、この条文が指す「実際の必要」に他なりません。訪問調査において、男性の訪問に恐怖を感じる女性への配慮は、法律が求める最低限の義務なのです。
特に、夫の暴力から逃れてきた母子など、DV等被害者に対しては、扶養調査の際に自立を阻害しないよう特段の配慮が求められることが明記されています。訪問調査においても、この精神が同様に適用されるべきなのは自明です。
さらに、ケースワーカーの活動の準則とされる民生委員法第15条では、「個人の人格を尊重し」「性別…によつて、差別的又は優先的な取扱をすることなく」とその職務遂行について定めており、生活保護行政もこの趣旨に沿うことが期待されています。
このように、法律は明確に「性別」を考慮した適切な対応を求めているのです。
しかし現実は「ルールなし」:全都道府県調査で判明した衝撃の実態と一条の光
法律の理念とは裏腹に、現場の実態はどうなっているのでしょうか。筆者は全国47都道府県すべての生活保護担当部署に対し、「一人暮らしの女性宅への男性職員の単独訪問をさせない、あるいは男性一人暮らし宅に女性職員一人で行かせないなど、性別に配慮したルールや内部指針があるか?」という質問調査を電話で実施しました(調査期間:2025年10月7日〜10日)。
その結果は、想定をはるかに超える、驚くべきものでした。明文化された規定がなくとも、「一人暮らしの家には、異性の職員が一人で訪問しないように」といった指導は当然なされているだろう、と多くの人が考えるのではないでしょうか。
しかし、回答は、全都道府県で「性別に配慮した一律のルールは存在しない」というものでした。それどころか、「明文規定はなくとも、福祉事務所に対して、個別の事案には配慮するようにといった助言や指導はしていますか」という質問に対しても、していると答えた都道府県は、一つもありませんでした。
多くの担当者が口を揃えたのは、「国がルールを定めていないから、県も定めていない」 、「対応は、各市町村が設置している福祉事務所の現場判断に委ねている」 という説明です。すべての都道府県が、福祉事務所ごとのルールを「把握していない」 と回答し、都道府県が実質的な監督責任を果たしていないともいえる実態が浮かび上がりました。
中には、「今の時代、異性が一人で訪問しないなど、当然の配慮です。福祉事務所は適切に対応しているはずでしょう」 「一般的に、そのあたりは当然配慮されるべきだと思う」 といった回答もありましたが、すかさず筆者が「そうですよね、県もそのように指導をしているのですか」と質問をすると、途端にトーンダウン。根拠のない「はず」論に終始し、県としてその実態を調査したり、具体的な指導を行ったりしているケースは「皆無」でした。
一方で、現場の実情を知る職員からは、より踏み込んだ声も聞かれました。熊本県の男性担当者は、「特に女性から、男性一人が来るのが怖いという声も多くて、じゅうじゅうわかってる」と理解を示しつつも、マンパワーの問題で対応が難しい実情を打ち明けました。
群馬県の男性担当者は、福祉事務所での勤務経験を元に、『もともと、この人は異性だと気にしそうだという人には同性が対応するなどの配慮があった。ご本人から心配だという話があれば、変えられるか検討しますよ』と、個別の要望があれば対応する姿勢を示し、要望を伝えることの重要性も示唆しました。
その一方で、京都府の担当者は、筆者からの質問に対し、保留にせず上司に『女性の家に男性が行かないとか、配慮とかしてるんですかー?』と確認する声が電話越しに聞こえてくるなど、そもそも問題として認識されていないかのような場面もありました。こうした担当者間の温度差も、組織的な指針が存在しないことの証左と言えるでしょう。
福井県の女性担当者は、「福井市以外は人口も少なく、男性ばかりの福祉事業所もあり、性別に配慮した対応はマンパワー的に難しい」と内情を明かしてくれました。
そうした中、滋賀県の担当者からは唯一、具体的な対策を講じている市の事例が挙げられました。滋賀県某市では『必ず二人で訪問する』というルールを定めているというのです。この記事の調査に当たり、筆者は『一人暮らしの女性宅に男性が一人で訪問するのは常識的にあり得ない』と考えていましたが、ほぼ全ての都道府県から『ルールはない』と聞き、カルチャーショックを受けていました。だからこそ、某市のような事例は、対策が不可能ではないことの証明であり、一条の光と言えるでしょう。
※『某市』とあえて市名を出さなかったのは、その後、県の担当者より弊所宛に要望があったことが理由です。
「〇〇市のルールの存在が事実であることは確認したものの、〇〇市から要望があり、記事に事実は記載して構わないが、市名は出さないでほしいとのこと」
「職員を守る」ためのルールの存在:浮き彫りになる視点の偏り
取材を進める中で、この問題の別の側面も浮かび上がってきました。それは、女性「受給者」ではなく、女性「職員」の安全を守るという視点です。
いくつかの県の担当者は、受給者への性別配慮ルールはないとしつつも、職員の安全確保のための運用に言及しました。例えば神奈川県では、出所したばかりの男性受給者宅へは若い女性職員を一人では行かせず、男性の査察指導員が同行するケースがあるとしました。香川県でも、女性ケースワーカーが一人で訪問するのが危険な場合には上司が同行する運用があるといいます。栃木県の担当者が最初に例に挙げたのも、男性宅への女性一人の訪問でした。
これらの配慮は、公務員である職員の身の安全を守る上で当然であり、不可欠なものです。しかし、これは同時に、行政が「誰を」「何から」守ろうとしているのか、その視点の偏りを浮き彫りにします。職員が受給者から危害を加えられるリスクは想定し、対策を講じようとする一方で、受給者が職員から危害を加えられる、あるいは恐怖を感じるリスクは、今回の調査で明らかなように、全くと言っていいほど組織的に想定されていません。
女性職員を守るためのルールや運用は(これも十分とは言えませんが)存在しても、女性受給者を守るためのルールは存在しない。この非対称な現実は、生活保護行政における力関係の歪みを象徴しています。
「国のせい」で放置される法律の理念
なぜ法律の理念が、これほどまでに現場に届いていないのか。その答えは、取材での担当者たちの言葉から見えてきました。
三重県の担当者は、「特段、実施要領にはない。生活保護の家庭訪問の際に、福祉事務所ごとにルールはあるかもしれないが、国が定めていないので、県も特に実態は知らないし、こうしてくださいねといった指針なども示していない」と明確に語りました。
また、愛知県の担当者からは「生活保護手帳には記載がない」という声も聞かれました。これは、日々の業務のバイブルとも言えるマニュアルにさえ、性別配慮という視点が具体的に落とし込まれていないことを示しています。宮崎県の担当者も、「国の通知に基づいて動いている。県として文書を出すというよりは(国から来た通知をそのまま各福祉事務所に流す)」と、国からの具体的な指示がない限り、県独自では動きにくいという実情を吐露しました。
法律の理念を実行するための具体的な指針や手引きが存在しない。だからこそ、全都道府県が「国が定めていないから」と口を揃え、結果として「指導も助言もしていない」という無策の状態が放置されているのです。法律に書かれた「配慮」という言葉は、具体的なルールという血肉を与えられないまま、空約束と化しています。
職員の都合を優先?歪められる「指導」の在り方
取材を進める中で、ある県の男性職員から、耳を疑うような言葉が飛び出しました。
「女性一人暮らし宅に男性一人で訪問することもあります。病院で、女性だから女医に診てくれとはいいませんよね?命がかかっているのに!」
このような発言は、福祉行政が業務効率や職員の都合を優先し、保護されるべき人の尊厳や心理的安全性をいかに軽視しているかを端的に示しています。そもそも、生活保護の実施機関には、保護の決定や実施、特に訪問調査時において、個々の被保護者のプライバシーに配慮することが明確に義務付けられています。病院での診察という公的な場の医療行為と、最もプライベートな空間である自宅への訪問を同列に語ること自体、プライバシーへの配慮義務に対する意識の欠如を示しています。女性たちが訴えるのは、単なる好き嫌いではなく、生存に関わる叫びなのです。
そもそも、ケースワーカーは「指導」をする立場にはありますが、利用者の意に反して何かを強制することはできないと、生活保護法で定められています。
生活保護法 第27条第3項
第1項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
受給者が男性ケースワーカーの訪問を拒否するのは、自身の身体的安全と尊厳を守るための正当な要求であり、法第9条に基づき、女性ケースワーカーを配置するか、複数名で訪問するなどの配慮こそが、最低限の「有効且つ適切」な行政サービスと言えるはずです。
深刻な二次被害:ある性被害者の事例
ルールの不在がもたらす危険は、すでに現実の被害として起きています。東京都で生活保護を受給するエリコさん(仮名)のケースは、その最も深刻な一例です。
彼女は、担当だった男性ケースワーカーから、月に3回、1回あたり1時間半という異常な頻度の家庭訪問を受け、その中で立場を利用した悪質な性被害を受けました。被害の現場となった自宅に住み続けることに耐えられなくなったエリコさんは、精神的に極限まで追い詰められ、大量の薬を飲み自殺を図り、救急搬送される事態に至ったのです。
午前零時を過ぎたある平日の深夜、エリコさんから、これまでの感謝と別れを告げるメールが行政書士事務所に届きました。たまたま起きていた行政書士がすぐにメールを確認し、本人とも連絡が取れないため即座に東京の管轄警察署に電話をすると、夜中でもすぐに警察官が自宅へ駆けつけてくれました。警察官が自宅へ駆けつけたとき、エリコさんは大量服薬により室内で気を失っていたといいます。
不誠実な対応に阻まれた「命を守るための転居」
何が引き金となったのでしょうか。「生命の安全が脅かされている」として、エリコさんは転居費用の支給を申請していました。担当職員による性被害という、これ以上なく「自立の助長を阻害する」特段の事情であり、転居が認められて然るべきケースでした。しかし、東京都の福祉事務所は令和7年9月30日付でこの申請を却下します。通知書に書かれた却下理由は「見積書等の提出がなく具体的な金額が不明であるため」というものでした。
しかし、この理由は複数の点で行政の責務に反しています。まず、申請者が資料提出に困難を抱える場合、福祉事務所には適切な助言や調査を行う義務があり、「書類がないから」と一方的に却下することは申請権の侵害にあたる可能性があります。さらに驚くべきことに、この公式な却下理由は虚偽だったというのです。後日、相談を受けた行政書士が担当者に電話で確認すると、「いえ、そうではないんです。そこは関係ないんです」と、福祉事務所長名で出された公文書の内容を自ら否定したのです。決定通知は、申請者が容易に理解できるよう、正確な理由を記すのが鉄則です。その根幹を揺るがすこの対応は、行政事務の適正性を著しく欠くものです。

エリコさんの転居申請を却下した通知書。理由は「見積書等の提出がなく具体的な金額が不明であるため」と記載されているが、後に担当者はこれを事実上の虚偽と認めている。
問われる組織としての責任
エリコさんの事例は、単なる一個人の問題ではありません。職員による不祥事が発生した場合、行政機関にはその原因と背景を分析し、再発防止策を策定・実施する義務があります。しかし、筆者が都の担当者にこの事件について質しても、当初は「自分は現場のことはあまり知らない」と回答し、事件を把握した後も、組織的な再発防止策が講じられた形跡は見られませんでした。監督すべき都道府県が、管内で起きた職員による深刻な性被害事件さえも「なかったこと」のように扱い、被害者を二次被害に晒し続けるのです。
本来であれば公的機関が最後まで責任を持つべき事案であるにもかかわらず、八方塞がりになった受給者が民間の行政書士に助けを求めざるを得ない。この「丸投げ」の構図は、エリコさん個人の問題だけでなく、行政全体の深刻な機能不全を示しています。
人の尊厳を守るため、全国統一基準の策定を
今回の全都道府県調査で明らかになったのは、「生活保護の家庭訪問における性別配慮ルールが存在しない」という単なる事実だけではありません。それは、法律の理念を無視し、人の尊厳を軽視する、行政の深刻なリスク管理上の欠陥です。
「国が定めていないから」「現場の判断で」。取材で繰り返されたこれらの言葉は、責任の所在を曖昧にするための言い訳に他なりません。生活保護法第9条には、個人の「性別」や「実際の必要」を考慮する義務が明確に定められています。これは、国や自治体が守るべき、最低限の義務です。
この義務が果たされないとき、何が起きるのか。筆者はその現実を、恐怖に耐える高齢女性の声や、トラウマを再発させられ命を絶とうとした女性の悲痛な叫びを通して見てきました。そして、公務員であるケースワーカーから性被害を受け、救いを求めたにもかかわらず、不誠実な対応で二次被害に遭わされたエリコさんの事例は、この問題がいかに人の命を脅かすかを物語っています。
DVや性被害のトラウマへの配慮は、個々の職員の善意や、根拠のない「はず」論に委ねられるべきではありません。それは、すべての人が安心して暮らす権利に関わる、行政が果たすべき責務です。
国(厚生労働省)は、生活保護法第9条の趣旨に基づき、要保護者の安全と尊厳を確保するための「家庭訪問における性別配慮に関する全国統一の指針」を速やかに策定すべきです。それは、単なる「お願い」ではなく、福祉事務所が遵守すべき明確なルールとして示されなければなりません。
その指針には、少なくとも、滋賀県某市が実践しているような『原則2人1組での訪問』、利用者からの申し出に応じて担当者の性別を変更できる仕組み、そしてDVなど異性からのトラウマ的被害経験がある利用者への特別な配慮などを明記することが不可欠です。
国民の「最後の砦」であるべき生活保護行政が、その利用者にとって恐怖の対象となる。そんな矛盾した現状は、一刻も早く是正されなければなりません。

タイ風焼きそば


鶏肉と山芋の煮込み


安くて早くて美味しいしらす丼


買ってきただけのピザもお皿に盛りつけると・・・


男も台所に立つ時代




