「弁護士JP生活保護連載」 第42回記事 令和7年11月25日

弁護士JPニュース
「悪意のない不正受給」のケースも…“生活保護”受給者が「遺産相続」した場合に発生する“問題点”とは【行政書士解説】

Yahooニュース
「悪意のない不正受給」のケースも…“生活保護”受給者が「遺産相続」した場合に発生する“問題点”とは【行政書士解説】

Yahoo!ニュース記事では、一般の方にも分かりやすく「ケースワーカーの誤った助言によるリスク」に焦点を当てて解説しました。弊所HPでは、編集前の元原稿(ロングバージョン)を公開します。

•保護を受ける直前の「生前贈与」は許されるのか?(資産活用の忌避)
•共有名義の不動産がある場合、役所から「相続放棄」を迫られたらどうすべきか?
•親が亡くなった後、子供が「過去の保護費」を返還する義務を負うのか?

これらは、実務の現場で弁護士や税理士の先生方からも頻繁にご相談いただく、非常にデリケートで専門的な領域です。

文字数の限られたヤフーニュース版では触れられなかったQ&Aや、民法・生活保護法の条文に基づいた詳細な解説を含んでいます。ご自身やご家族の状況と照らし合わせ、より深い理解のためにお役立てください。

生活保護と遺言相続

「今回の遺言相続の関係者に生活保護を受けている人が含まれているから、どのようにすべきなのか相談にのってほしい」

これは、弁護士や税理士など、その道の専門職からよく筆者に寄せられる相談です。対価を得て業務として遺言書を作成したり、相続手続きを担う士業にさえよく知られていない部分を、一般の方がわからないのは無理もありません。

この分野で最も厄介なのは、対応を誤ると「不正受給」とみなされたり、多額の保護費返還を求められたりする危険性があることです。また、「役所の担当ケースワーカーに言われたから間違いない」と誤信してしまう方も少なくありません。SNSやAIが発達した現代においては、こうした一ケースワーカーの誤った助言に基づく一受給者の実体験が、「役所に言われたから大丈夫」といった形で、ある種の説得力を伴って拡散されやすい側面もあります。この問題を放置しておくと、行政職員による不適切な指導が意図せぬ不正受給を誘発するなど、制度の信頼性を揺るがす大きな社会的問題になりかねないとかねてより危惧していたことから、今回の記事のテーマに選びました。

危険な「誤解」と「間違った助言」

弁護士や税理士といった国家資格を有する専門職でさえ、生活保護制度と遺言・相続が絡む分野については、取り扱いに苦慮するケースが見受けられます。生活保護の運用は、その性質上、個人のプライバシーに深く関わるため、特に慎重な対応が求められます。

以下のようなケースが残念ながら、あたかも正しいことのように誤解されていることがあります。

「ケースワーカーに親が亡くなったから、まもなく遺産が入ってくると報告したら、『すぐに保護辞退届を出せば、聞かなかったことにしてあげる』と言われた。」

一見、親切な助言に聞こえるかもしれませんが、この助言には生活保護法上の複数の重大な誤りが含まれています。もしこの言葉通りに行動すれば、受給者本人が「不正受給」という深刻な事態に陥る可能性があります。

なぜ「聞かなかったことにしてあげる」が違法なのか

上記のケースワーカーの助言が、法的にどのような誤りを含んでいるのかを解説します。

1. 資産・収入の「届出義務」を妨げている(生活保護法第61条違反)
生活保護受給者には、収入や資産状況に変動があった場合、「速やかにその旨を保護の実施機関に届け出る義務」(生活保護法第61条)があります。親の死亡による遺産相続は、まさにこの「生計の状況の変動」にあたります。
ケースワーカーが「聞かなかったことにしてあげる」と助言することは、受給者に対して法的な報告義務を怠るよう促しているに等しく、行政職員として保護の適正な実施を妨げる行為です。

2. 保護の「補足性の原則」を無視している(同法第4条違反)
生活保護制度は、生活に困窮する者が、まず「その利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」を活用することを要件として行われます(法第4条)。これを「保護の補足性の原則」といいます。

遺産(相続財産)は、この「利用し得る資産」に該当します。したがって、相続財産はまず最低生活の維持のために活用されなければならず、その上で保護の廃止(または停止)が検討されることになります。ケースワーカーが「聞かなかったこと」にすることは、この相続財産を活用しないまま保護費を受給し続けることを容認する行為であり、制度の根幹に反する誤りです。

3. 「不正受給(法第78条)」または「費用返還(法第63条)」の問題を誘発するおそれ
この助言の最大の問題点は、受給者を「不正受給者」にしてしまう危険性です。

相続の事実を報告しなかった場合、または虚偽の申告をした場合は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受けた」ものとして、不正受給(法第78条)に該当します。この場合、不正に受給された保護費等の全額、あるいはそれに加算額(100分の40)を加えた額を徴収される可能性があります。もしケースワーカーの指示に従って資産を隠蔽した期間があれば、その期間の保護費は不正受給による徴収対象となる可能性が高いのです。

仮に不正の意図がなかったとしても、資産があるにもかかわらず保護を受けた期間があれば、その保護費は費用返還(法第63条)の対象となります。遺産相続は、相続開始時(親などの死亡時)に遡って効力が生じるため、被相続人の死亡時以降に支給された保護費が返還請求の対象となります。

つまり、親が亡くなった時点で生活保護を受けていた人が、ケースワーカーから言われた「今自分で保護を辞退すれば、相続のお金が入ってきても返還金は発生しない」という誤った情報を鵜呑みにして行動しても、この費用返還の義務の法的抜け道にはならないのです。
相続処理の事務的負担を避けるためか、あるいは生活保護法令への理解不足か、いずれにせよ現行法に背く不適切な指導が行われている実態があります。結果として、公務員の言葉を信じた善意の市民が「悪意なき不正受給(あるいは費用返還義務の発生)」に巻き込まれるという、非常に危うい状況が生まれています。

4. 「保護辞退届」の法的効果を誤解している
「すぐに保護辞退届を出せば」という助言は、辞退届によって過去に発生した費用返還(法第63条)や費用徴収(法第78条)の義務が消滅するかのような誤解を与えます。
保護の辞退届は、あくまで「将来」の保護を停止・廃止する手続きの一部です。辞退届が提出されても、実施機関は「その人が辞退しても本当に生活できるのか(=遺産がいくら入るのか)」を調査し、急迫した状況に陥らないことを確認する義務が本来あります。辞退届を出したからといって、遺産相続の事実に関する調査が放棄されるわけではありません。

相続財産がある場合、受給者は速やかにそれを申告しなければなりません。まず、相続開始時(親の死亡時)以降に受け取った保護費は、法第63条(または第78条)に基づき返還(または徴収)の対象となります。その上で、手元になお残る遺産(返還・徴収額を差し引いた後の資力)が最低生活費を上回る場合は、保護が廃止または停止されるのが一般的です。

保護受給中に被相続人の死亡により得られた遺産によって発生した資力(遺産)は、過去に受けた保護費に充当されるべき費用返還(または費用徴収)の対象として、適切な事務処理を経る必要があります。

生活保護と相続に関するQ&A

生活保護制度と相続が交差する複雑な法的側面について、筆者がよく受ける質問に答える形で解説します。
生活保護は「最後のセーフティネット」ですが、その利用には「保護の補足性」(法第4条)という厳格なルールがあります。相続によって得た財産も、当然ながら「活用すべき資産」に含まれます。

生活保護「受給中」に相続が発生したら?

最も多いケースが、生活保護を受給している本人が、親族の死亡などによって財産を相続するパターンです。

Q.まず何をすべきですか?
A.速やかに福祉事務所に届け出てください(法第61条)。まず大前提として、相続の発生(あるいはその可能性)を知った時点で、速やかに福祉事務所のケースワーカーに届け出る義務があります。これを怠り、資産を隠して保護費を受け取り続けると、後に「不正受給」(法第78条)として極めて重いペナルティが課される可能性があります。

Q.「お金(預貯金・有価証券)」を相続した場合はどうなりますか?
A.多額の相続があった場合、原則として保護は「停止」または「廃止」されます。相続した財産が金銭や預貯金である場合、その全額を「最低限度の生活の維持のために活用する」ことが求められます。 福祉事務所は、相続した金額がなくなるまでの期間、保護の「停止」または「廃止」を決定します 。例えば、月12万円の保護費で生活している人が返還金を清算してもなお、50万円を相続した場合、約4ヶ月分の生活費を得たものとみなされ、その期間は保護が停止されるのが一般的です。

Q.相続したお金を、借金返済や将来のために使うことはできませんか?
A.一定の範囲内で認められる場合があります。相続した財産(死亡保険金などを含む)は、原則として最低生活費に充当されますが、例外的にその一部を「自立更生のために当てられる額」として、収入として認定しない(生活費への充当を求めない)取り扱いが可能です。これには、生業費(就職活動や事業に必要な費用)、技能修得費、滞納していた医療費の支払い、子の就学資金などが含まれます。

Q.「実家(不動産)」を相続したら、すぐに家を売らなければなりませんか?
A.すぐに売却とは限りませんが、「資産活用」が求められます。最も問題が複雑になるのが不動産です。まず、その不動産に(相続前から)居住している場合、資産価値が著しく高額でない限り、原則として保有が容認され、住み続けることができます。その上で、(リバースモーゲージなどの)資産活用が求められます。

生活保護法は、まず「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」(リバースモーゲージ型貸付)の活用を優先するよう求めています。これは、自宅に住み続けながら、その土地・建物を担保に生活資金を借り入れ、死亡時に清算する制度です。

その不動産が単独相続であるか、共同相続かによっても大きく事情は変わります。受給者が(例えば亡父名義の家に住んでおり)唯一の相続人である場合、福祉事務所は、まず相続登記(名義変更)を行い、上記の不動産担保型生活資金を申請するよう指導します。この際、相続登記にかかる費用は、一時扶助として支給される場合があります。

次に、不動産が共有名義のケースです。兄弟姉妹など他の相続人がおり、不動産が共有名義となることが確実な場合、その不動産は上記の貸付対象外となります。この場合、福祉事務所が他の相続人に対し、「相続放棄をしてほしい」といった働きかけ(事実上の相続放棄の強要)を行うことは、適当ではないと明確にされています。

Q.保護を受けるために、事前に「生前贈与」で資産を隠すのは?
A.「資産活用の忌避(きひ)」とみなされ、保護が受けられなくなる場合もあります。保護の適用を免れるため、意図的に資産を処分する行為は生活保護制度の趣旨に背くものです。例えば、保護申請の直前に、所有する居住用不動産を親族に「生前贈与」したと疑われるケースです。生活に困窮した時期と、所有権が移転された時期が近い場合、資産活用を忌避する目的と判断されることがあります。この場合、再度本人に名義変更をするよう指導されます。もし受給者がこの指導(法第27条)に応じない場合、「資産活用を忌避している」とみなされ、保護の変更、停止または廃止という処分が下されることがあります(法第62条第3項など)。

生活保護「受給者」が死亡したら?

次に、生活保護受給者が亡くなった場合、その相続人(親族)や残された財産がどうなるかを見ていきましょう。

Q.葬儀費用は誰が出すのですか?
A.「葬祭扶助(そうさいふじょ)」という制度があります。 生活保護法には、葬儀(火葬など最低限のもの)を行うための「葬祭扶助」という制度があります 。これは、実際に葬祭を行う人(相続人や家主など)に対して支給されます。支給されるのは、次のいずれかの場合です。

遺族が困窮している場合: 葬祭を行う扶養義務者(相続人など)がいるが、その人自身も生活に困窮していて葬儀費用を出せないとき。

②遺族がいない(不明な)場合: 亡くなった方に葬祭を行う扶養義務者がおらず、故人の遺留金品だけでは葬儀費用をまかなえないとき。
申請は、原則として葬儀を行う人が、故人の居住地(または現在地)の福祉事務所に対して行います。

Q.故人が残したお金や物品(遺留金品)はどうなりますか?
A.まず葬儀費用に充当され、残りは法的な相続手続きに移されます。
葬祭扶助が行われた場合、故人が残した金銭や物品(遺留金品)は、まず葬儀費用に充当されます。保護の実施機関(役所)は、故人の遺留金銭や有価証券を葬祭扶助の費用に充てます。それでも足りない場合は、遺品(物品)を売却して充当することができます。

葬儀費用を支払ってもなお遺留金品が残った場合、福祉事務所はそのお金を勝手に保護費として回収することはできません。相続人が明らかである場合は、その相続人に引き渡されます。もし相続人がいない(または不明な)場合、法律(施行規則)に基づき、福祉事務所は速やかに、相続財産の清算人の選任を家庭裁判所に請求し、選任された清算人(弁護士などが選ばれます)に財産を引き渡す必要があります。その後は、法的な相続手続きに従って、財産が清算・分配されます。

相続人の責任:「保護費の返還」は義務か?

親族にとって最大の懸念事項「親が受けていた生活保護費を、相続人である私が返さなければならないのか?」という問題です。

特定の条件下では、相続した財産の範囲内で、返還・徴収の義務が承継されます。 相続放棄をすれば、通常、この義務も負うことはありません。法律上、義務が承継されるのは主に以下の2つのケースです。

①不正ではないが資力があった場合
急迫した事情などで、資力があるにもかかわらず保護を受けた場合、その保護費を返還しなければならないという定めがあります。
生活保護法第63条の返還義務は、民法に基づき、相続人に承継されると解されています。
たとえば、故人(被保護者)の死亡後、調査によって、生前に資力があったこと(例:申告していない銀行口座があった)が判明した場合、福祉事務所は相続人に対し、その資産額を上限として、生前の保護費の返還を請求します。

ただし、福祉事務所が「保有を容認していた資産」(例:生活に必要な最低限の保険など)については、適法な保有であったため、返還義務の対象とは通常なりません。

②明らかな「不正受給」があった場合
偽りその他不正な手段により保護を受けた者がある場合、その費用を徴収(事実上のペナルティ)できるという定めが、生活保護法第78条の徴収義務です。これも、相続人に承継されます。

例として、相続が発生したにもかかわらず、それを意図的に隠し、保護費を受け取り続けていたことが発覚した場合など、悪質なケースが対象です。

トラブルを避けるために

生活保護制度と相続の問題は、憲法第25条の「生存権」の保障と、法第4条の「資産活用の原則」とのバランスの上に成り立っています。相続によって得た財産は、金銭であれ不動産であれ、原則として「活用すべき資産」とみなされます。

生活保護受給中に親族が亡くなり自ら受けることができる相続が発生したら、隠さず速やかに福祉事務所に相談してください。資産隠しは「不正受給」となり、法第78条による徴収や、場合によっては刑事罰の対象となる可能性もあります。

兄弟など親族に保護受給している人がいる場合に、被保護者が亡くなっても、生前の保護費全額を借金として背負うわけでは当然ありません。しかし、生前に資力があったことが判明した場合(法第63条)や、不正受給があった場合(法第78条)には、相続した財産を限度として、返還・徴収の義務が承継されます。
いずれの立場であっても、相続が発生した場合は、速やかに福祉事務所に相談し、誠実に対応することが、将来のより大きなトラブルを防ぐ安心安全な道となります。


お鍋の季節になりました。


素麺からうどんの季節になりました。


牛丼は季節を超えて。



カレーライスは国境を超える。


手作りの刺身こんにゃくを頂きました。


焼きそば


Japanese Nabe


This is Japanese winter.