「弁護士JP生活保護連載」 第43回記事 令和7年12月8日

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“行政のミス”なのに「生活保護費の返還請求」…困窮する受給者の“生存権”が脅かされるケースも? 本来とられるべき“適切な手続き”とは

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“行政のミス”なのに「生活保護費の返還請求」…困窮する受給者の“生存権”が脅かされるケースも? 本来とられるべき“適切な手続き”とは


今回の記事の取材元の女性の方から、届いたメールです。元原稿のままでは、大体ヤフーニュース記事にそぐわない文字数+熱量オーバーしてしまいがち。こちらの弊所HPでは、編集前の元原稿もありのままに公開しています。

生活保護費の返還請求~行政の誤りが生存権を脅かす

行政書士として生活保護の相談を日々受ける中で、行政の「ミス」によって生じた保護費の返還や、不当な徴収、減額をめぐり、受給者の生活を脅かす深刻な問題に直面することが少なくありません。

ある日突然、行政から「過去に支給した保護費は間違いだった」として高額な返還命令が下されたり、あるいは法的に不当な理由で「収入」と認定され、生活費から一方的に差し引かれたりするケースです。これらの問題は、単なる事務ミスでは済まされず、法治国家において、行政が自ら下した決定の公定力を軽んじ、受給者の「健康で文化的な最低限度の生活の保障」という生活保護法第3条の理念を踏みにじる行為です。

近年大阪で発生した複数の事例に基づき、行政の誤りによる「返還命令」と「不当な徴収」という問題について、行政が取るべき「法的な正解」とは何だったのかを法的、運用規定に基づき解説します。

事例①行政の重過失による誤支給と不当な返還命令(ユリさんのケース)

大阪在住のユリさんは、行政内部で「老人福祉法」と「生活保護法」の制度運用を取り違えられた結果、生活保護の制度運用上の誤りに巻き込まれました。市は、「措置」入所であるユリさんに対し、「契約」入所の場合に支給されるべき「介護施設入所者基本生活費」を、約1年間にわたり誤って支給し続けました。そして約1年後、市は自らの過ちに気づくと、過去に遡り、すでに支給済みの約41万円全額の返還を本人に命じたのです。

この事案が深刻であるのは、保護費の受給と管理が、裁判所によって選任された成年後見人(弁護士)の関与のもとで行われていた点です。法律の専門家である後見人は、市からの「支給決定」という行政処分を信頼し、その適法性を前提として金銭管理を行っていました。行政側が一方的にその決定を「間違いだった」と覆すことは、専門家(弁護士)の信頼をも裏切る、行政の重大な瑕疵といえるでしょう。

事の発端は、ユリさんが「措置入所」により、自分の意思に反して特別養護老人ホーム(特養)に強制的に入所させられたことに始まります。その後、本人や家族の意思とうらはらに、生活保護の受給が開始されました。施設入所以前は、家族が扶養し、最低限度の文化的な生活は守られていたのです。
生活保護制度において、この「措置」による入所者への保護のあり方は、通常の「契約」による入所者とは異なります。市の主張の背景には、生活保護の「保護の補足性の原理」(法第4条第1項)があります。これは、生活保護は、他の法律(この場合は老人福祉法)による扶助を優先し、それでも足りない部分を補う、という原則です。

市は「措置」入所であるユリさんに対し、「契約」入所の場合に支給されるべき「介護施設入所者基本生活費」(月額31,070円)を、約1年間にわたり「誤って」支給し続けました。そして約1年後、市は自らの過ちに気づくと、この基本生活費の支給を突如停止。そればかりか、過去に遡り、すでに支給済みの約41万円全額の返還を本人に命じたのです。

この間、ユリさんの金銭管理は成年後見人(弁護士)が担っていました。後見人は、市からの「支給決定」という行政処分を信頼し、その適法性を前提として、ユリさんの生活維持のためにその金銭を管理・支出していました。市の決定が「瑕疵」あるものだったとすれば、それは後見人の責任ではなく、全面的に行政側の過失によるものと考えられます。

消えた41万円は浪費だったのか?

市が「誤支給」だとして返還を命じた約41万円は、貯蓄されたり、浪費されたりしたわけではありません。それらは、ユリさんの生活に必要不可欠な出費に充てられていました。レシートはすべて後見人らにより保管されており、その使途は以下の通りです。

・ヨーグルト代、理美容代など
これは、生活扶助(法第12条第1項第一号)「衣食その他日常生活の需要」に該当します。これらは「措置」ではカバーされず、最低限の生活維持に不可欠な費用です。

・後見事務費(交通費、郵送費等)
後見事務そのものの費用は対象外ですが、行政の指導等に基づく「移送(交通費)」等は生活扶助の対象です。

・介護保険料
生活保護受給者の介護保険料は、法律上の納付義務がある費用であり、市が本来「介護保険料加算」として正しく支給していれば、返還額はこれほど巨額にはならなかったはずです。

市が「誤支給」と断じ返還を求めた金銭は、実際には「最低限度の生活」(法第3条)を維持するために使われていました。既に必要出費に充てられ、「ない」ものをどう支払えというのでしょうか。

事例②過ちを認めながらも請求を続ける理不尽(タクヤさんのケース)

大阪在住のタクヤさんは、平成25年3月、50万円ほどの高額の返還金を突如、請求されました。これは、私が行政書士になって間もない2017年に相談を受け、現在も尚、当時の請求額のまま請求が継続しているケースです。行政の過失が明らかであるにもかかわらず、受給者に責任転嫁した結果、こうした不可思議な事象が起きているのです。けして珍しいことではありません。

特筆すべきは、この件に関して当時の福祉事務所長は書面にて『返還請求に関し、受給者本人には責任はなく福祉事務所担当者の錯誤により本来の受給額を過分に支給したため、返還請求させていただくことになり申し訳なく思っております』という、明確な謝罪と過失を認める通知文が出されている点です。

行政が「担当者の錯誤(ミス)」であり「本人に責任はない」と公式に認めているにもかかわらず、現実には返還請求自体は撤回されず、タクヤさんは長年にわたり、請求書を定期的に受領しています。しかし、毎月の最低生活費で生活保護費は消えてしまうため、支払いができないことを行政に伝えており、返済が一切されないまま請求書の送付だけが何年も続いています。生活保護費は減額も停止もされておらず、ただ機械的に、毎年請求書が公費で送られ続けるという奇妙な現象は、全国で起きています。

このケースで行政が取るべき「法的な正解」それは、返還免除の適用

市は、自らの過ちが発覚した時点で、機械的、冷徹に全額返還を命じるのではなく、法が定める正しい手続きを踏むべきでした。
生活保護法は、保護の実施機関(市)に対し、返還額を決定する際に裁量(判断の余地)を与えています。返還を求めることが「当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合」や、金銭が「自立更生のためのやむを得ない用途にあてられた額」(浪費ではない、生活維持に必要な費用)であると認められる場合は、法第63条に基づきその額を免除(控除)することも可能です。

ユリさんのケースは、理美容代や介護保険料といった必要不可欠な費用に使われたことが明らかであり、その返還を強いることは、受給者の自立を著しく阻害する免除規定の典型例でした。また、タクヤさんのケースのように行政が全面的に過失を認めている場合も同様です。行政は、法第63条および法第80条の趣旨を踏まえ、速やかに「返還免除」の決定を下すべきだったといえます。

高額な法第63条に基づく費用返還債権(または法第78条に基づく費用徴収債権)の回収は、地方公共団体の一般債権として、被保護者の生活維持に必要な保護費を侵害しない方法で、通常の民事手続等に従って行うべきであり、保護費からの直接的な天引き(相殺)は避けるべきとされています。残念ながら、行政の錯誤による場合であっても、徴収権限自体は生じます。しかし、行政の過失が原因である場合、その徴収は、被保護者の自立助長を阻害しないよう極力抑制的かつ慎重に行うべきです。

ユリさんの事例のように、行政の重大な過失が原因であり、かつ金銭が生活維持に必須な使途に充てられている場合、行政はまず法第63条の裁量免除を最大限に適用し、債権額を最小限に留めるべきです。その上で、残る債権の回収に際しても、債務者の生活状況を常に把握し、保護費を財源とした納付(法第58条違反)を事実上強いることがないよう配慮が求められます。

事例③生活実態を無視した過酷な徴収計画(シングルマザー由希子さんのケース)

返還請求そのものの理不尽さに加え、その「徴収方法」が受給者の生活実態を無視して行われるケースも後を絶ちません。

大阪在住の由希子さんは、平成29年1月付けで約10万円の返還請求をうけました。さらに、同年夏には、担当ケースワーカーより、「翌月は5万の返還支払いになります」と口頭で通告されました。由希子さんは、食べ盛りで食費のかさむ男児二人を養育しており、このような高額徴収が強行されれば、最低生活費が保障されず、家族三人の憲法で保障された最低限度の生活が守られなくなることは明白でした。

生活保護受給世帯、特に子育て世帯に対して、月額5万円もの返還を求めることは、実質的に「生活するな」と言っているに等しい暴挙です。自身の暮らしを守るため、由希子さんは行政書士事務所に相談に来られ、受給期間中の支払免除と口座振替による強制天引きの停止を強く要望せざるを得ませんでした。

泣き寝入りを強いられる受給者と「司法アクセスの壁」

行政側に問題があるにもかかわらず、なぜ受給者は不当な返還命令に苦しめられるのでしょうか。行政書士が現場で見るのは、圧倒的な「司法アクセスの壁」です。

生活保護受給者が法テラス(日本司法支援センター)を利用して弁護士に相談しても、「行政が決めたことだから、無理でしょう、あきらめるしかない」といった返答で、受任を拒まれたという話は、残念ながら頻繁に耳にします。

生活保護の事案は、労力に見合う報酬(利益)が得られにくいため、手間暇と費用を天秤にかけ、受任を渋る専門家は少なくありません。結果として、資力も人脈もない受給者は、法的にどれだけ理不尽な問題に直面しても「泣き寝入り」するしかない実態があるのは、紛れもない悲しい現実です。
ユリさんの件は、国会議員を介して厚生労働省に確認が行われていますが、こうした「裏ルート」のような政治的な繋がりがなければ、行政の過ちが正されないという現状は、法の下の平等の観点からも極めて深刻な問題です。

事例④不当な収入認定と保護費の不法な徴収(アンザイさん老夫婦のケース)

次の事例は、誤支給による返還命令ではなく、「収入認定」を誤り、受給者の生活費を実質的に不法に徴収したケースです。

大阪在住の、とある老夫婦は、生活苦から負った多額の借金(約400万円)を抱えていました。なんとか生活保護を受けられるようになったときには、借金で首が回らない状態でした。遠方に住む娘さんは、仕送りなど扶養はできないものの、親が生活保護受給前に負った借金は信義則上、自分が返さなければいけないと思い込み、親の生活保護受給決定後に毎月の返済を肩代わりして払っていました。これを知った役所は、この娘による「親の借金返済の肩代わり金」を「収入」と認定したのです。そして、老夫婦の生活保護費から毎月数万円を一方的に減額・天引きして支給していました。

法的な問題点:二重の誤り

1. 不当な収入認定
そもそも、老夫婦は直接の経済援助を受けたわけではありません。生活保護受給者が保護費からは到底返せない、やむを得ず生活苦から背負った多額の借金を抱えている場合、法テラス制度を利用することで、自己負担なく法の専門家である弁護士に依頼し、自己破産手続きをすることができます。その重要な事実を知らせることなく、責任感から遠方の娘が親の代わりに返していた借金を行政が「収入」と認定し、高齢の親の保護費から天引きしていたことは、法解釈の重大な誤りであったといえます。

2. 保護費の不法な相殺(実質的な差押禁止の原則違反)
行政が本人の同意なく、保護費から返還金や徴収金を差し引いた金額を支給することは、生活保護法第58条の「差押禁止の原則」の趣旨を侵害します。

生活保護法 第58条(差押禁止)
被保護者は、既に給与を受けた保護金品及びこれを受ける権利を差し押さえられることがない。

生活保護費は、その月の「最低限度の生活」を保障するための最後の砦であり、過去のいかなる債務(たとえそれが行政に対するものであっても)のために差し押さえ、市民の生存権を脅かすことは許されません。保護費を減額して支給する行為は、事実上、保護費を相殺徴収しているに等しく、法の理念に反しています。

この事例では、行政書士による指摘で即座に天引きが止まり、老夫婦は法テラスを利用して自己破産し、娘さんも親が生活苦から背負ってしまった過去の借金返済の負担から解放されました。しかし、娘さんが声をあげなければ、不当な減額が続いていたことでしょう。

法の理念と行政の責務

取り上げた事例は氷山の一角に過ぎません。行政の誤りによって生じた返還命令や徴収の問題で悩み苦しんでいる人達は、全国にいます。

ユリさんのケースにおいては、裁判所が選任した弁護士である成年後見人が関与する中で、行政が支給額決定を誤ったという重大な過失(瑕疵)が根本原因です。にもかかわらず返還を求められた約41万円は、浪費されたのではなく、「最低限度の生活」を営むため不可欠な費用に充てられていました 。また、由希子さんのように子育て中の世帯に対して生活を破壊するような返還額を迫るケース、タクヤさんのように行政が過失を認めながらも請求を頑なに取り下げない同様のケースは多数存在します。これらは、返還を強いることが「当該世帯の自立を著しく阻害する」として、法第63条に基づく免除規定の典型例に該当するものといえます。

また、生活保護法第77条の2に基づく強制徴収は、返還金が「保護の実施機関の責めに帰すべき事由」、すなわち行政の過失によって生じたものであれば、法的に適用することはできません。不当な収入認定や、「将来の保護費から天引きする」といった行為は、憲法25条の理念を具現化した生活保護法第58条「差押禁止の原則」を実質的に踏みにじる、極めて問題のある手法です。同様の相談は、全国から寄せられてきました。

行政の裁量権の適切な行使は、精密な天秤を扱うようなものです。最低生活の保障という重さを守りつつ、発生した債務を公平に測るためには、法の定める免除規定という調整錘を慎重に使う必要があります。行政の過失による負担を市民に一方的に負わせることは、この天秤の均衡を著しく崩す行為に他なりません。


チーズも投入します。


トマト鍋の〆のリゾット


令和7年12月6日土曜日、年一回の恒例行事を開催しました。


一見して華やかに見えても、それぞれに悲しみや、様々なものを背負っています。


『一人の人間が「生きた証」として何を遺せるか。お金であればそれはそれで意味がある形となるでしょう。アルフレッド・ノーベルやアンドリュー・カーネギーのように。またキュリー夫人やナイチンゲール、上村松園など、後々の世の憧れとなる足跡を残せる人もいます。けれど、どんな人にも「生きた証」は遺せると思っています。
その人が何を望み、何を遺そうとしたか、そこにその人の「人間の値打ち」が現れるのではないかと考えています。古希を過ぎて、そんなことを考えるようになりました。私としては、貴方が私を必要としていたらいいなぁと思っています。貴方の人生の勝利に私が貢献できるとしたら、それは私の勝利の証とも言えると思っています。』

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所の、明石の母より