「弁護士JP生活保護連載」 第15回記事 令和7年5月11日

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“クスリ漬け”にされた挙げ句「生活保護」受給のケースも…精神疾患者が“食い物”にされる背景にある「構造的問題」とは

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“クスリ漬け”にされた挙げ句「生活保護」受給のケースも…精神疾患者が“食い物”にされる背景にある「構造的問題」とは

日々生活保護の相談を受けていると、心の病や精神的な苦痛に苛まれ、仕事はおろか日常生活さえままならなくなってしまった若い世代が多い――そんな現代社会の問題に、気付かされます。

『うつ病は甘え。働こうと思えば働ける。』
これを言われると一番辛いという声を、生活保護を受けながら通院治療している方からよく聞いてきました。でも、私自身も、こうした思いが以前なかったかといえば嘘になります。

行政書士になって様々なケースに直面し、今では過去の自らの浅はかな認識を猛省しています。すべてが医学的に解明されるわけではなく、原因不明の不調に悩まされている方は少なくありません。子宮内膜症は若い女性がなりやすいと言われていますが、40代半ばを過ぎてもうつ病によるストレス過多が遠因と思われる子宮の異常で極度の貧血、ヘモグロビン値は低空飛行。いつ起こるかわからない大量出血に怯えながら仕事をしていたものの、ついに職場の床に血液が広がり、退職した女性。何度、健康診断をしても異常は見つからないのに、突然脈拍が上がり、動悸でうずくまり動けなくなってしまう男性。心の病が悪化すると、身体にも影響が表れやすくなります。

心の病や生活保護は甘えという偏見から、個人の問題ではなく社会全体が向き合うべき課題という認識、理解への転換。健康な人が心の病を患うことのない、障害や病気の有無にかかわらず自分らしく働ける、あたたかない配慮ある健全な社会の醸成に繋がることを願ってこの記事を書きました。

注:行政書士事務所HPに掲載のこちらのページでは、ヤフーニュースや弁護士JPニュース公開の記事よりも文字数が多い、校正前の元原稿を公開しています。

働いていた会社が労働保険に未加入で障害年金を受けられなかった50代男性

行政書士になって間もない頃、大阪市内の心療内科から相談を受けました。精神疾患により働けないほどの病状のため、障害手帳2級を保持。しかし、障害年金の受給要件を満たさず生活困窮している患者がいる。今後も通院が継続できるように、話を聞いて生活保護のサポートをしてあげてほしいというものでした。

両親共に早くに亡くなり、住み込みで正社員職で働いていた男性には、頼れる親族もいませんでした。上司や同僚による暴言や不正行為の指示などに耐え兼ね、出社できないほどに追い詰められ、会社を退職。引越費用もなく知人宅に居候するも、もういい加減出て行ってほしいと言われてしまいました。気力を振り絞り、失業保険を利用しようとハローワークに出向いたところ、雇用保険に入っていないことが発覚。

本来、パートでもアルバイトでも、一人でも労働者を雇うと、会社は労働保険に入る義務があります。労働保険とは、業務や通勤による負傷や死亡などの際に保険給付を行う労働者災害補償保険と、いわゆる失業保険などの給付を行う雇用保険を総称したものです。労働保険は、政府が管理運営する強制的な保険であり、事業主は労働保険料を納める法的義務があります。

保険料の支払が負担になることから労働保険の加入手続きを行わない事業主も存在したため、自主的な加入を行わず勧奨によっても加入しない事業主については、職権により加入手続きを行い、労働保険料をさかのぼって徴収、合わせて追徴金も徴収できるようになりました。また、労災事故の場合は事業主が加入手続きをしていなかったとしても、労働者に保険給付は行われます。

ただ、男性は在職中に病院にかかっておらず、労災申請には当てはまりませんでした。失業等給付や育児等給付の雇用保険の保険料は、全額事業主負担の労災保険とちがって、労働者も保険料を折半負担します。男性は毎月の給与からこの雇用保険料が天引きされていたにもかかわらず、会社が雇用保険の加入手続きをしていなかったために失業保険の対象外となってしまったのです。平成22年10月1日からは、雇用保険料が給与から天引きされていた事実が確認できれば、遡っての加入が認められるようになりました。ただし、平成22年10月1日より前に離職した人は救済の対象となりません。

在職中に保険料を払っていたのに、失業給付を受けられない!男性の不運は、それだけに留まりませんでした。健康保険料、厚生年金保険料といった社会保険料まで給与から天引きされていても、年金事務所からは記録がないと言われたのです。そのために、うつ病で障害手帳2級を認定されても、障害年金を受給することができません。年金事務所からは、弁護士に相談するよう告げられました。しかし、既に会社は倒産しており法的な責任追及も難しいと法テラスの弁護士相談でも匙を投げられる始末。男性は社会不信で絶望し、その頃からさらに精神的不調が大きくなったといいます。

無事に生活保護は受けられたものの・・・

仕事を辞め、失業保険も会社の手続き不備と倒産により受けられず、借金をして一人暮らしを始めた男性は、無気力で食事を用意することもできなくなりコンビニでおにぎりなどを買って命を繋いでいました。ところが、ある日コンビニへ行くと、声が出なくなっていることに気付きました。これは大変だと心療内科を受診したことが、通院のきっかけでした。

行政書士が役所へ同行し、事実経緯をすべて説明し、無職、無収入、無資産の男性はすぐに生活保護が決定しました。ところが、無事に生活保護受給はできたものの、役所の職員からは不穏なことを言われます。

『あの心療内科には行かないほうがいい』

必要以上に薬を大量に処方するという悪評がある病院で、福祉事業所はその病院に通院している生活保護受給者には病院を変えるよう助言しているということがわかりました。行政書士がそのことを、言葉を選びながら心療内科に伝えると、激怒され、行政書士がいらぬことを吹き込んだなと逆恨みされ、関係は解消に至りました。

その後も、コロナ禍で地元の飲食店などの給付金電子申請確認のサポートの際など、『あの病院に通っている人は、余計に体調が悪くなった、薬がどんどん増えるという人ばかりだ。薬が減った、治ったという人を聞いたことがない』など耳に入ってくるのは悪評ばかりでした。

ただ、これは『もう、その病院で処方された余計な薬を飲まなければいい』という単純な話ではないのです。病院経由での行政書士への相談から、生活保護受給に至った男性は、ケースワーカーから家庭訪問の際『余計な薬を出して儲けを優先する病院』だと言われ、怖くなり、薬を飲むのをやめようとしました。すると、突然、痙攣発作を起こし、救急車で運ばれたのです。一度服用を始めた精神薬を自己判断でやめると、とんでもない副作用が起こることがあります。ただ、男性は、『もし、薬を飲んでいない頃に戻れるのなら、薬は飲み始めなかった』といいます。

精神保健福祉法における入院制度の実態と課題

日本では、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、本人の意思によらず入院させることができる「医療保護入院」など、4つの入院形態が定められています。

1.任意入院:本人の同意に基づく入院
2.措置入院/緊急措置入院:自傷他害のおそれがある場合の強制入院
3.医療保護入院:自傷他害のおそれはないが、任意入院が困難な場合に家族等の同意で入院
4.応急入院:同意が得られないが入院の必要がある緊急時の措置(72時間以内)
このうち、医療保護入院は、精神保健指定医と家族等の同意があれば、入院期間に制限がなく、本人の意思に反して長期間の入院が可能です。そのため、運用においては特に慎重な対応が求められています。
また、精神保健法に基づく「警察官通報制度」では、警察が自傷他害のおそれがある人物を発見した場合、都道府県知事に通報し、速やかに職員による面接や事前調査が行われることが義務づけられています。しかし、現場ではその運用が難しく、実際に迷惑行為を繰り返す精神疾患のある生活保護受給者に対し、警察も福祉もなかなか介入しないという実情があります。

生活保護受給者を入居させている家主さんが、室内でトイレなど設備を破壊されたり、長らく続く騒音により他の入居者が参ってしまい出て行ってしまう状況でも、精神疾患を患う生活保護受給者当事者が任意の退去に応じてくれず、迷惑行為のたびに警察に通報しても駆けつけた警察官が何も介入してくれないといったケースを少なからず目の当たりにしてきました。

不動産会社や家主が迷惑を被っても、現状、生活保護制度において善意で生活保護受給者の方を入居させた不動産会社や家主が被った損害を救済する仕組みはありません。実際、なかなか出て行ってくれない迷惑行為を止められない病を患う生活保護受給者の方に対する裁判を起こし、その弁護士費用も破壊された設備等の修繕費もすべて家主負担となり、もう二度と精神疾患や生活保護受給者の入居はお断りという頑なな対応にならざるを得ないケースもありました。

家主や不動産会社が生活保護受給者の入居を受け入れても、迷惑行為による損害を受けても救済制度がない現状では、結果的に精神疾患や生活保護受給者の入居を拒否する流れが強まってしまうという深刻な問題が生じています。

また、生活保護を受給しながら頻繁に家族や知人にお金の無心に訪れ、迷惑行為を繰り返しながらも警察や福祉事務所も介入に二の足を踏み、被害者側が恐怖を感じながらの生活を余儀なくされているケースもあります。逮捕等に至る刑事犯罪にまで及ぶ一歩手前の状態でありながら、措置入院をなぜさせてもらえないのだと嘆く被害者の方々の悲痛な訴え。

医療の名のもとに人生が破壊されるケースも

一方で、自傷他害や迷惑行為のない人が、家族の判断で「医療保護入院」させられ、その後の人生に大きな影響を受けたケースもあります。
産後の不眠から心療内科を受診した女性は、30分にも満たない診療時間の中で学歴や職歴などおおよそ病状と関係があると思えないような質問をされ、多様な薬を最初から結構な量で処方されました。真面目な女性は、出された薬は症状を改善するために飲まなければいけないと思い込み、安易に処方された精神薬を服用し続けました。最初は一瞬で眠りに落ちたはずの睡眠薬は、徐々に効かなくなりました。次第に症状は悪化し、日常生活も困難になり、寝てばかりの妻に夫が耐えられなくなって最終的に家庭は崩壊。女性は、生活保護の申請に至りました。また、精神科と福祉事業者が連携し、患者を囲い込むようにして過剰な投薬を続け、結果的に患者が薬漬けにされるケースもあります。

「患者を治したいと考える医師は雇わない、薬漬けにすれば製薬会社も儲かり、退院させなくて済む」と豪語するような病院経営者もいました。実際にそうした病院に通院する生活保護受給者を別の病院へ転院させようとした行政書士が、訴訟をちらつかせられたこともありました。
福祉事務所でも「あの病院には行かないように」と、生活保護受給者が助言されるほど評判が悪い病院が営業を続けている現実があります。知らずに訪れた人が不要な投薬によって、長期的に生活を壊されるという構図が合法的に成立してしまっているのです。
こうした背景には、精神医療の制度的課題と、福祉制度との密接なつながりがあり、患者の人権と生活を守るためには、より一層の制度改革と透明性が求められています。

データが示す現実と生活保護制度に求められる精神的支援

経済的な困窮により精神的な余裕を保てない状態が続くと、心のバランスを崩してうつ病を発症するリスクも高まると一般的にいわれます。生活保護受給者の精神疾患の罹患率は、一般の国民よりも高いことが複数の調査でしめされています。

2017年の厚生労働省の調査によると、生活保護受給者の入院患者のうち4割以上が精神疾患を抱えている、あるいはうつ病の診断をうけていると示されています。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&query=%E7%B2%BE%E7%A5%9E&layout=dataset&toukei=00450312&tstat=000001125455&metadata=1&data=1

会計検査院の国会及び内閣に対する報告(2014年)では、生活保護を受給していない人の入院患者のうち、精神及び行動の障害がある人の割合が18.7%であるのに対して、生活保護受給者の入院患者での同割合は47.8%と3倍近く多くなっている事実もあります。
https://report.jbaudit.go.jp/org/h25/ZUIJI1/2013-h25-Z1008-0.htm

これらのデータは、生活保護受給者には経済的な支援だけでなく、精神的なサポートが不可欠であることを明確に訴えています。

データだけでは見えないのは、うつ病に苦しみながら、その苦しみを誰にも打ち明けられず、一人で抱え込んでいる人たちの存在です。

生活保護の相談や申請受給の手続き自体が、うつ病を患っていると大きな負担になるものです。複雑な書類作成や面談で過去のことを思い出して話さなければいけないと思うと、さらに精神状態が悪化してしまうという悪循環も起こり得ます。

貧困は、十分な教育を受けられなかったことや、安定した家庭環境に恵まれなかったといった経験が社会的な障壁となり世代を超えて連鎖することがありますが、これは精神的な脆弱性にもいえることです。生活保護申請、受給に至った背景には、積み重なった心の傷が深くかかわっていることが往々にしてあります。単に経済的な支援だけでなく、過去のトラウマや心の傷に寄り添う支援も、必要です。

偏見や差別は生活保護受給者の自立を妨げるだけ

生活保護を受けていると、社会から孤立しがちです。挙句、ネットを見れば、否定的な言葉や偏見に晒され、当事者の自尊心を傷つけ、さらに社会との繋がりを遠ざけてしまう要因にもなります。うつ病を抱える中で、こうした社会的孤立や偏見に直面することは、精神状態のさらなる悪化にも繋がりやすく、うつ病の症状を深刻化させ、回復を遅らせてしまいます。

現在の生活保護の支援体制は、経済的な支援が主で精神的なケアは行き届いていない現状があります。自治体の福祉事務所のケースワーカーは、たいてい多くの案件を抱えており、一人ひとりの精神的な状況に寄り添う時間的余裕がないのです。

また、仕事を見つけるどころか、就職活動さえできる状態にない心の病がある受給者には、ケースワーカーは通常「病院に行ってください」と伝え、病院にも行けない引きこもり状態でも容赦なく受診命令を出すことがあります。しかし、必要なのは本当に投薬、医療行為なのでしょうか。ケースワーカーには、担当している65歳未満の障害などのない生活保護受給者に対しては、就労指導等により自立を後押しするという職責があります。しかし、65歳未満のいわゆる稼働年齢といわれる年代の生活保護受給者の方々が、医師から『就労不可』などと診断をされると、この就労指導等の責務から免れることから、『仕事を探せないなら病院に行ってください』という物言いになりがちなのです。この一律的な傾向は、大きな社会的問題を秘めています。

行政書士事務所には、役所に電話をする勇気がない、来所することもできないという心の病を抱えた人からのSOSのメールがたくさん届きます。コロナ禍において、メールやWEB対応をする役所も増えたとはいえ、電話での対話が困難だからメール対応をしてほしいと求めても、頑として対応しない役所もあります。面と向かっては話しにくいけれど、文字で伝えることであれば、体調が良いときにできるのでありがたい、そういう声をよく聞きます。

そもそも、なぜ心の病を患ってしまったのかと考えると、ほとんどの場合、それは個人ではなく社会の問題です。一度うつ病を発症すると、気持ちとは裏腹に回復は思うようにはいかないことが多いのです。

うつ病のもとを早期に発見し、適切にその要因に対処することで、医療保険を使わずして病気を予防することもできます。生活保護に限らず、心のSOSは見過ごされがちです。働きたいのに働けなくなってしまう人が減るように、そして、一度患った心の病を治し、再び元気に働ける人が増えるように、社会全体が改善のため取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。人はすべて、自分らしく生きる権利を持っているのですから、柔軟で心温かい社会であってほしいと思います。


5月に入っても少し寒かった夜、蒸し鍋に。


ある日の晩ご飯は一口餃子とわかたけ汁


5月5日子どもの日のお昼はキツネうどんと焼き鳥、柏餅


豚肉の西京焼きとポテトサラダ