「弁護士JP生活保護連載」 第19回記事 令和7年6月8日
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→“元ホステス”の行政書士が語る…「夜職」の人々が“生活保護”へ流れる「構造的問題」とは

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→“元ホステス”の行政書士が語る…「夜職」の人々が“生活保護”へ流れる「構造的問題」とは(弁護士JPニュース)

下記は、原稿そのものを公開していますので、弁護士JP/ヤフーニュース記事と内容が若干異なります。(編集校正前なので、読みづらい個所はご容赦ください。)
札幌・すすきの、新宿・歌舞伎町、大阪・北新地・・・ネオンが瞬く街では、多くの人がホステス、ホスト、性風俗など、風俗営業法の枠組み、いわゆる夜職で働いています。そして、いわゆる旧赤線地帯と呼ばれる、戦前から警察で遊郭などの風俗営業が認められ、GHQによる1946年の公娼廃止命令から1958年の売春防止法までの間も、ほぼ公認で売春が行われていた地域では、今も料亭などと名目上は飲食店に転向しながらも、密かに性風俗営業を継続している実態があります。
華やかに見える光の裏側で、そこで生きる人たちは、孤独や不安定な収入、社会的偏見と日々向き合い、高齢化、生活困窮といった問題と隣り合わせです。生活保護制度について十分に理解していない人は、困窮に直面した際、日払いや週払いなど「即金」をうたう夜の仕事に流れやすくなります。特に借金の返済や家賃の支払いに急を要する場合、そうした求人広告に強く引き寄せられる傾向があります。
昼間の仕事は月給制が基本で、応募から採用、実際に働き始めてから給与が振り込まれるまでに時間がかかります。その間、生活費が賄えない状況では、すぐに現金を得られる仕事は選択肢として現実味を帯びてきます。
夜の仕事に就くことで生活リズムが昼夜逆転し、その状態が長期化することで、昼間の仕事に戻ることが難しくなるケースも見られます。

10万円を一晩で手にすれば、1万円を稼ぐ努力が馬鹿らしく感じるようになる━そんな風に金銭感覚が狂ってしまうと、生活保護に至っても、支給額を見て「これでは生活できない」と嘆くようになります。生活保護制度は、必要なときに支えてくれる命綱。でも、金銭感覚が過去の高収入に引きずられたままだと、「足りないから借金」「収入申告をせずこっそり働く」などと自ら破滅的な選択をすることにもなりかねません。
本記事では、夜の街で働く人たちが抱える自責の念と葛藤、中高年を迎える中で直面するシビアな現実、生活保護申請だけでなく受給後の足かせとなる金銭感覚など、日本社会が直視すべき日の当たりにくい問題にスポットを当てて解説します。

水商売でも募集採用における年齢制限は禁止されている
水商売や性風俗業が正当な職歴とみなされにくい背景には、こうした業界の求人や雇用形態には法的問題が孕んでいる点が挙げられます。
「20~35歳くらいまで」などの年齢要件が掲げられているスナックやクラブホステス、性風俗従業者の求人広告を見たことがありませんか。本来、労働者の募集・採用に当たって、年齢制限を設けることはできません。
労働施策総合推進法では、事業主に対し、募集・採用において年齢を理由とした制限を設けることを禁止しています。これは義務化されており、年齢に関係なく応募できる機会を確保できることを目的としています。求人票には年齢不問としながら、実際には年齢を理由に応募を断ったり、書類選考や面接で年齢を理由に採否を判断することも違法です。
形式的に求人票を年齢不問にすれば許されるのではなく、応募者を年齢で判断しないということが必要です。本人の希望と関係なく、一定年齢以上はパートタイムにするなど、雇用形態や職種などを年齢によって変えることもできません。
※労働施策総合推進法は、努力義務だったものが2018年に義務化されました。違反した場合には、行政指導の対象となり得ます。
高年齢者雇用安定法第20条では、求人の際に「やむを得ない理由」がある場合に限り、年齢制限を設けることができると定められています。
ただし、その理由が認められるには、厚生労働省令で定められた方法により、求職者に対してその理由を明示しなければなりません。
なお、「やむを得ない理由」として認められるケースはごく限られており、例えば「イベントコンパニオンとして30歳以下を募集する」といった理由は、例外としては認められません。
少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、働く意欲ある人が年齢にかかわらず能力を発揮して社会で活躍できるよう法整備が進められています。水商売や風俗業では、こうした国の施策に則った対応をしていないところが多く、職業差別や偏見の要因となっているだけでなく、不安定な雇用環境のために中高齢期に入ると収入が減少し生活困窮しやすいのです。若い男女の心身を疲弊させ、まるで使い捨てのように、一定年齢に達し指名客が減ると「明日から来なくていいです」と容赦なくクビにする店舗もあります。

「今まで何をしてきたのか?」問われることへの不安
景気が良かったバブル期前後に、水商売の世界に軽い気持ちで入り、都会のクラブやスナックでホステスを続けてきた女性が年を重ね、親族の介護といった家庭の問題や年齢に伴う体調不良により昼の仕事に転換しようとしてもうまくいかず、生活保護申請に至るケースは珍しくありません。
「転職しようと思っても、履歴書に何も書けない。」
これまで夜職をしてきたことへの後ろめたさ、逆にプライドもあったりと、昼の仕事の経歴書に何を書いていいかわからない。
「今までどんな仕事をしてきたんですか?」
面接でこの質問をされたとき、言葉に詰まるといった独特の葛藤は、生活保護申請への躊躇いにも繋がります。
ホステス、ホスト、風俗など、夜の商売は、「正当な職歴」として見なされにくく、職業差別や偏見も根強くあります。夜の仕事を、接客業や営業と同視しようとする人もいますが、見た目の若さや性的魅力を売りにした「再現性のない商品」としての価値による収入源という厳しい現実の側面も否めません。実際に営業力や会話術が磨かれたとしても、一般的に企業が求めるのは、汎用性あるスキルです。それが欠如したまま30代、40代になると、選べる仕事は著しく限られてしまいます。
そして、過去のキャリアとして評価されにくいことは、昼職への転職のハードルとなるだけでなく、生活保護申請への心理的ハードルにもなり得ます。

役所でも待ち受けるハードル
実際、行政書士事務所に相談に訪れた水商売出身者や日々の糧のためやむなく水商売に従事しているものの一日も早く足を洗いたいという方々(LGBTの方の割合も多いので、男女の区別はしません)は、行政書士に相談する前に自分で役所に行ってみたけれど、見下すような心無い対応を受けたという苦い経験を経た人が少なくありません。
「これまで、どうやって生活してきたんですか?」
「働いていたのに税金や保険料は滞納ですか?」
「貯蓄はないんですか?」
こうした質問を実際にされても、戸惑うことは何もないのです。そもそも、どんな仕事をしてきたかは生活保護の受給の可否に影響はありません。過去の話したくないことまで全て洗いざらい話さなければいけないなどということも、当然ありません。そして、生活困窮して生活保護申請をするのですから、申請時点で税金や保険料が滞納となっていることは何ら不自然ではなく、むしろ困窮度合いの深刻さを示すものです。真面目な日本人気質ゆえ、どんなに生活が苦しくても税金や保険料を支払っている人もいますが、それはそれで無問題です。あれやこれやと心配して、ネットで検索して、あれを準備しないと保護申請できないとか、これを聞かれるのは困るとか個人の感想レベルの誤った情報に翻弄され、困窮状態で一日も早く申請をすれば楽になれるのに、自分を苦しめてしまう傾向は水商売出身の方に限った話ではありません。

楽して稼げる仕事などないということ
「一晩で10万」
「週3日勤務で月収50万」
SNSや動画配信サイトでは、風俗やホスト、ホステス、パパ活などによる「即金収入」を謳い文句にして、若い男女を夜の世界に引き入れようとする誘惑があふれています。でも、そうした一時的な稼ぎは、逆に将来を投げ捨てるようなことになりかねません。
短期的に見れば、風俗やホストなどで高収入を得ることができても、多くの若者はその代償となる悪影響を想定していません。キャリアや信用に傷がつくだけでなく、目に見えない精神的ダメージ、心の病を抱えることになる可能性が高いのです。
「みんなやっているから」
「性を買う人がいるから、売る人がいる」
このように互いの傷をなめ合い、自己肯定につなげようとするのですが、心のダメージは知らずに蓄積されていきます。
また、日本では時代が逆戻りしたかのような梅毒感染など、性感染症の広がりも危惧されています。性病にかかって風俗の仕事ができなくなって、それまで日銭として得ていた「高収入」が途絶えても、何の保障もありません。それは、風俗業従事者が「労働者」ではなく「個人事業主」として扱われがちな実態があるためです。それに伴い、労災や社会保険の適用外といった現象が起こるのです。
通常、労働者が仕事中に負傷した場合は、3日目までは使用者が労働者に対し休業補償として1日につき平均賃金の60%を支払ってくれます。4日目以降は給与の約6割と賞与の約2割が労災保険の給付として、最長1年半受給できます。さらに療養開始後1年半経過しても、その負傷や疾病が治っていない場合で傷病等級に該当する程度の障害がある場合は、傷病補償年金が支給されます。
風俗嬢やホステスは、労働者ではなく個人事業主と通常みなされ、この手厚い労災の対象者とならないのです。実態として「指揮命令関係」「労務提供の継続性」「報酬の一方的決定」などの要素を充たせば、実質的に労働者と判断され、労災保険の対象となる可能性があるとはいえ、形式的な個人事業主が業務実態によって労働者性が認められるには高いハードルがあります。
日本では、労働者の病気や怪我には手厚い保障があります。こうした基本的な知識があれば、目先の高報酬につられ労災の対象外の仕事に従事することの危うさ、リスク、脆弱性がわかるのですが、若いうちは誰しも知識が浅く、学校で習わない社会保障制度などは知らないものです。
長年水商売や性産業に真面目に従事してきたのに、その業務柄の精神的負担の大きさによりうつ病を患って睡眠障害によりまともに仕事ができなくなってしまった人からの相談も多数受けてきました。社会保険も労働保険も未加入で、失業給付も厚生年金も適用外で最後のセーフティーネット生活保護に頼らざるを得ないケースが多いのが現実です。

金銭感覚が狂うと幸せの感度が鈍くなる
若者が夜の仕事に引き寄せられてしまうのは、「とにかく早く稼げる」ことが主たる理由です。1日アルバイトをして1万円を得ていた人が、1晩のパパ活で10万円を手にしたとき、労働時間や金銭の感覚が狂っていきます。高額家賃の物件に住み、ブランド物を買い、日頃のストレスを発散すべく飲み歩いたり、エステや占いなど余計な出費が増えたという声はよく聞きます。簡単に稼いだ大金は、あっという間に使ってしまうものです。高額の日銭を稼いでも、社会保険に加入していないため社会人経験に比例して将来もらえる年金が増える仕組みからも外れてしまい、将来残るのは空っぽの貯金通帳と社会的経験スキルと信用の欠如。風俗や夜職に従事する20代の多くは、30代40代では業界を離れ、その後の再就職に困難を抱えています。うつ病や摂食障害、自傷行為などの精神疾患を抱える人も少なくありません。
一度狂った経済感覚、上げてしまった生活レベルを落とすことは容易ではありません。国の定める最低生活費としての生活保護費の金額を聞いて、そんな金額ではとても生活できないと驚くのは、大抵、それまで高収入だった人たちです。
一方で、障害や家族の育児介護などフルタイムで働けない事情を抱えながらも額に汗して食べるため生きるため、真面目に懸命に働いてきた人は、「働かなくてもそんなにもらえるんですか?ありがたいです」と、生活保護費の金額を聞いて感謝される方がほとんどです。生活保護受給に至っても、生活レベルが変わらないどころか、それまで病院にも行けず無理をして働き、辛く苦しい生活を維持してきた人は、生活保護受給により生活水準がむしろ上がる人もいます。
行政書士の私自身もかつて、生活困窮し、役所の水際作戦により生活保護は受けられないと諦め、奨学金など借金を返済しながらシングルマザーとして働いていたときは、一時的とはいえ、国の定める最低生活費、生活保護費以下の生活を余儀なくされました。そのため、生活保護費の金額が低いと言われても、行政書士になった当初はピンとこないのが正直なところでした。こんな少ない生活保護費でどうやって生活すればいいのかと嘆きの相談を受けたとき、私はこういう節約生活でやりくりしましたという話をすることがありますが、これを美談にするつもりは毛頭ありません。ただ、生活保護費で十分生きられる術を得ていると、何があっても安心だという強みにもなります。
そして、生活保護受給に至っても尚、狂った金銭感覚のままだと悲劇を生みます。保護費では足りないからと、借金をしてしまう人もいます。生活保護申請後の借り入れは原則収入扱いですから、借りた分の保護費は返還しなければなりません。生活保護費から返還金など分割でも払えない、もうこんな生活は嫌だとまた風俗の世界に舞い戻る。でも、若くないとお客さんもなかなかつけてもらえず、リピートや指名も少ない。日当保障の千円だけでは生活ができない。結局ヤミ金からも借金を重ねてしまい、住居を追われ、役所に行っても、また隠れて風俗で働くのではないかと疑われて受け付けてもらえないと再び行政書士事務所に相談に来た人もいました。
夜職を選ばざるを得ない社会の歪み
もちろん、すべての若者が「遊ぶ金ほしさ」に夜職に流れるわけではありません。親からの虐待、進学の断念、奨学金返済、就職難による生活苦、こうした現実から、ほかに選択肢がなかったという人もいるでしょう。
就職氷河期世代など、大卒の若者でも普通の仕事で食べていける環境が整っていない時代もありました。非正規雇用の拡大、初任給の低さ、学費の高さ、こうした社会的背景が夜職への入り口になっていることは否定できません。責めるべきは、個人ではなく、社会構造なのです。
生活保護制度は、無差別平等のあたたかい制度です。過去に何があろうと、ペナルティとして生活保護を受けさせないなどということはありません。だからこそ、何かあったら、とにかく役所に相談してほしいのです。相談すべきところ、頼る先を間違えては命とりになります。
最後に——かつて“夜”を生きた一人の街の法律家として
私自身、生活保護以下の暮らしを経験し、夜の仕事に頼った過去もあります。だからこそ、声を大にして伝えたいのです。
生活保護を受給しながら、健全な転職に必要なスキル、社会に必要とされる資格を取得するための支援制度や、職業訓練を受けて、もう一度やり直すことができます。ホステスやホスト、風俗嬢を経て生活保護受給に至っても、その後勉強して介護士、看護師、美容師、消防設備士、測量士等、国家試験に合格し、転職や開業をする人もいます。雇用保険を受給できない人を対象とした、就職に必要な職業スキルや知識を習得するための民間と連携した職業訓練も多彩に用意されています。
手に確かな職があって、健康に留意すれば、年金に頼らなくても自力で収入を得ることができます。在職老齢年金の仕組みで、年金をもらいながら働き、更なる老後に備え年金を増やす方法、あるいは年金の繰下げ受給を選択して、もらえる年金を増やし温存しつつ働けるうちは働き社会に還元するという選択肢もあります。
人生は長いのです。手っ取り早く大金を稼ぐことで、将来の自由を売ることになりかねません。若い人たちには、そのことを真剣に考えてほしいのです。楽に稼げるなどという話には、必ず裏があります。ネットの情報に流されず、無料で相談できる公共機関にアクセスしてください。日本に生まれた人は誰でも、安全に、そして豊かに生きることができます。
今、苦しい人も、未来は変えられます。どうか、大切な心と体を、あぶく銭のために削らないでください。
そして、偏見ではなく、理解を。支配ではなく、支援を。

夏の定番、生春巻き


お昼の定番、きつねうどんと餃子



簡単おいしいの定番、しらす丼


