「弁護士JP生活保護連載」 第54回記事 令和8年5月11日

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「生活保護を受けさせてやるから、養育費を請求するな」元夫の身勝手な要求を跳ね返したシングルマザー…よりどころとなった“法の原則”とは

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「生活保護を受けさせてやるから、養育費を請求するな」元夫の身勝手な要求を跳ね返したシングルマザー…よりどころとなった“法の原則”とは

前々回の連載記事「相続と生活保護」には大きな反響がありました。今回は、離婚、養育費に関して生活保護制度を悪用したり、あるいは誤解ゆえ正当な権利を行使できない人がいる問題について、書きました。

ヤフーニュース記事、弁護士JP記事になっている編集記事は、客観的ではるかに読みやすいのですが、あえて弊所HPには行政書士が執筆した元原稿を公開しています。

「生活保護を受けさせるから養育費は払わない」身勝手な配偶者の提案を跳ね返し怒りをバネに自活したシングルマザー

「弁護士が役所に同行して生活保護を受けられるように手配するから、養育費も婚姻費用も請求しないでほしい」

離婚、別居の話合いの渦中で、配偶者からこのような言葉を投げかけられたというケースが、頻発しています。

「妻子と離婚する予定ですが、とても母子で生活できそうにないので生活保護を受けさせてやれないか」
また、こんな相談が、行政書士事務所には定期的に寄せられてきました。

一見すると「離婚相手の今後の生活を心配して、行政の手続きまで手配してくれている」と、良いように解釈できるかもしれません。しかしこれは無責任で、法知識を持たない配偶者が精神的に追い詰められ弱っているところに、正当に受け取るべき婚姻費用や養育費を放棄させ、あわよくばその利益を間接的にかすめ取ろうとする狡猾な手口である場合もあります。立場の弱い配偶者を言葉巧みに生活保護に誘導し、本来自らが負うべき経済的責任を不当に免れたいがためだけというケースも散見されます 。

今回は、離婚や別居の場面で横行する「生活保護の不当な利用を前提とした権利放棄の強要」に対して、泣き寝入りせず、自分と子どもの身を守るための正しい法的知識について解説します。

兵糧攻めに負けず、毅然とした対応で正当な権利を勝ち取った事例

冒頭の発言を受けたのは、妊娠発覚後に夫の不貞行為が発覚し、別居することになったシングルマザーの女性でした。一生添い遂げ子どもの成長を共に見守るつもりだったパートナーに裏切られ、深い悲しみと今後の生活への不安。精神的に最も脆弱になっているタイミングでした。

「今は、妊娠中の検診費用も無料だったり、少子化社会において妊婦が社会から守られるようになってきたと思います。ただ、当時はまだ、お金がなくて検診に一度も行けないまま救急車で運ばれた先で出産、というニュースもされていました。私も、検診費用がないのにお金をもらえず、本当に困っていました。結果的に、大きくなっていくお腹を隠して、日払いのアルバイトなどをしてなんとか乗り切りました・・・。」

彼女は藁にもすがる思いでいくつか公的な相談窓口に足を運んだものの、どこへ行ってもマニュアル通りの対応や、「まずはご夫婦で話し合って」「夫婦喧嘩は犬も食わない」などといった意味のない説教や、暖簾に腕押しの言葉ばかり。法的な知識もない妊婦は、孤立無援の状況に陥りました。

しかし、絶望のどん底にいた彼女を立ち上がらせたのは、他でもない夫への強烈な「怒り」でした。
「何が『役所に同行して生活保護を受けさせてくれる弁護士を紹介する』だ。妻とこれから生まれる我が子をゴミのように捨てておいて、自分だけ責任逃れをするなんて許せない。ばかにするな。」

その怒りと、母親としての意地が、生き抜くための爆発的なエネルギーへと変わったのです。彼女はそこから、驚くべき行動力を発揮します。

まずは、大きくなっていくお腹をゆったりとした服で必死に隠し、身体への負担が少なく、かつ時間の融通が利く日払いのアルバイトの面接を片っ端から受けました。そして臨月が近づき外で働くことがいよいよ難しくなると、今度は単価が安くても在宅でできる業務委託の仕事をかき集め、大きなお腹を抱えながらパソコンに向かいました。

さらに、無料で使えるSNSを最強の武器として駆使しました。自身の置かれた過酷な状況を発信し続けたところ、見ず知らずの心ある人々から「これ、うちの子が使っていたものですが役立ててください」と、ベビーベッドや大量の衣類、育児用品のお下がりが次々と届くようになったのです。

誰の助けも得られない、妊娠・産後で思うように働くこともできない中で、自分の知恵と汗、そしてSNS越しの善意を頼りに、彼女は孤独の中での出産を挟む最も過酷な日々をサバイブしました。この壮絶な自活の経験こそが、「私は一人でもこの子を守り抜く」という揺るぎない自信に繋がったといいます。

彼女は、男性からの「慰謝料・養育費をあきらめ生活保護への誘導」という身勝手な申し出を一蹴し、自ら家庭裁判所に「婚姻費用分担調停」を申し立てました。その結果、若い頃に飛び出した実家に戻り、親族との関係を再構築。住み慣れた土地で安心して暮らしながら、会社員である夫から月12万円の婚姻費用を受け取れることになりました。経済的な不安に追われることなく、慰謝料と養育費の協議に落ち着いて臨むことができたのです。

法律が定める「生活保持義務」の圧倒的な重さ

本来、法律(民法)は、家族間の扶養について非常に手厚い権利を保障しています。民法877条は直系血族や兄弟姉妹の扶養義務を定めていますが、中でも「夫婦間」や「親の未成年の子に対する扶養」は、「生活保持義務」と呼ばれる極めて強い義務が課されています。これは「自分に余裕があるから援助する」というレベルではなく、「自己の生活を犠牲にしてでも、相手に自分と同程度の生活をさせる義務」という重い責任として捉えられています。

さらに、養育費や婚姻費用を取り決めたにもかかわらず支払わない無責任な親に対しては、法律は厳しい態度で臨みます。一般の借金などで給料を差し押さえる場合、原則として手取り額の4分の1までしか差し押さえることができません。しかし、子の養育費や配偶者の婚姻費用については、保護の必要性が高いため、給料の「2分の1」まで差し押さえの範囲が拡大されています。また、通常の差し押さえとは異なり、未払い分だけでなく将来支払われる予定の分についても継続して差し押さえることが可能な特例も設けられているのです。

「元夫の機嫌を損ねると、養育費をもらえなくなるかもしれない」と、びくびくする必要はないのです。養育費額の合意を文書でしておけば(当事者間の合意文書、審判所、調停調書、公正証書)、強制執行や担保権実行が可能です。養育費額月額8万円×子の人数までは、一般債権者に優先して回収することができる先取特権が付与されますから、優先して弁済を受けることができます(養育費に基づく担保権実行)。

「生活保護があるから払わない」は裁判所も否定している

もちろん、国の生活保護と私人間の扶養義務には、優先劣後の関係があります。生活保護法4条2項は、民法上の扶養義務が生活保護に優先して行われるべきことを定めています。 一方で、公的扶助に優先して親族による扶養が行われることを期待しながらも、扶養義務者に扶養能力のある親族がいても、現実にその援助が行われていない場合には、生活困窮者を救うために生活保護を受給すること自体は妨げられません。

厄介なのは、この「現実に援助がなければ生活保護が受けられる」という実務上の運用を逆手に取り、「自分が扶養を拒否すれば国が生活保護を出してくれるだろう」と都合よく解釈し、本来支払うべき養育費を免れようとする者がいることです。

実際、調停や話し合いの現場では、『あいつが勝手に出て行ったんだから、国に頼ればいいだろ』『俺の給料からこれ以上ふんだくる気か』といった、自身の扶養義務を放棄するような発言が聞かれることも珍しくありません。自らの不貞や非を棚に上げ、配偶者と我が子の生活を公的機関に丸投げして自身の経済的負担を免れようとする、言語道断の論理です。

しかし、司法はこの身勝手な論理を明確に否定しています。 別れた妻と子が生活保護を受給している事案において、名古屋高裁(平成3年12月15日決定)は、生活保護は民法上の扶養義務等に劣後して行われるものであるから、「婚姻費用分担義務を考慮するにあたり、生活保護法による生活保護の受給を抗告人の収入と同視することはできず」、一審の判断は法律解釈を誤ったものであると厳しく指摘しました。別れた妻子が生活保護を受けていることを理由に、元夫が婚姻費用の分担を免れようとした事案において、司法はこれを咎める判断を下したのです。さらに驚くべきことに、養育費を支払う義務者自身が生活保護を受給しているケースにおいても、東京高裁(平成24年8月29日決定)は、親の子に対する扶養義務が「生活保持義務」であることを考慮し、義務者が生活保護のみで生活している状態であっても「養育費の負担を免れることはできない」と判断しています。

福祉事務所も厳しく対応、「安易な合意」の危険性

行政側(福祉事務所)も、こうした責任逃れによる安易な保護の利用には慎重な対応をとっています。生活保護手帳別冊問答集には、離婚していない別居中の世帯から保護申請があった場合、単に別居という理由のみであれば、生活の維持はまず当事者間で解決すべきことを助言し、夫に資力があるときは「婚姻費用の分担に関する調停、審判の申立て等を家庭裁判所に対して行うよう助言」することと明記されています。つまり、行政もまずは法的権利を正当に行使するよう促すのです。

また、当事者間の合意に基づいて生活保護利用者が自らの生活を犠牲にして保護費の大半を権利者に支払うような合意をした場合、保護実施機関は「権利者による経済的搾取が疑われる」として、経済的虐待からの分離などを検討すべきとしています。生活保護はあくまで当事者の最低限度の生活を保障するものであるからです。

安易な同意はしないこと、正しい知識で防衛を

本来であれば、配偶者からの適正な婚姻費用や養育費によって自立した生活が送れたはずの人が、相手方の責任逃れによって生活保護に陥る事態は、ひとつの家庭の不幸に留まりません。
生活保護制度は国民の税金によって支えられる「最後のセーフティネット」であり、支払う能力のある者の個人的な経済的責任を公的負担に肩代わりさせる行為は、制度の趣旨を揺るがすものであり、社会全体に負担を押し付ける看過できない行為なのです。

「代わりに生活保護の手続きをしてやる」という言葉の裏には、あなたから正当な権利を奪い、自身の経済的負担を免れようとする意図が隠されているかもしれません。離婚や別居という極限のストレス状態にあっても、決して相手のペースに乗せられて安易な書面にサインしないことです。まずは弁護士や公的な相談窓口を頼ってください。外部のサポートを得ながら、自らの権利を正しく主張し相手の不当な要求を退けることは、子どもの尊厳を守り、新しい人生を安心して歩み出すための、確かな一歩となるのです。


子どもの日に


母の日には


まだ肌寒い日はきつねうどんを


皿うどん


おうち牛丼


お客様から頂きました