「弁護士JP生活保護連載」 第12回記事 令和7年4月20日
弁護士JPニュース
→「外国人への生活保護は“判例”で憲法違反」は“悪質なデマ”!? 最高裁は何を判示したか【行政書士解説】
Yahoo!ニュース
「外国人への生活保護は“判例”で憲法違反」は“悪質なデマ”!? 最高裁は何を判示したか【行政書士解説】(弁護士JPニュース)
永住外国人生活保護訴訟と最高裁判決
インターネット上では、外国人が生活保護を受け取ることについて、常に議論が巻き起こっています。
その中でよく目にするのが「外国人が生活保護を利用することは最高裁で違法判決が出ている」といった内容のもの。
これらの言説の元になったのが、2014年(平成26年)の最高裁判決、俗に「永住外国人生活保護訴訟」と呼ばれる判決です。
■永住外国人生活保護訴訟に関する資料
この永住外国人生活保護訴訟の内容に関しては法務省訴訟局の「訴訟重要判例集データベースシステム」( https://shoumudatabasep.moj.go.jp/hanreiSearch/HanreiSearch )で検索して確認する事が可能です。
↑上記サイトで、裁判所名:最高裁第二小法廷、事件番号:平成24年(行ヒ)第45号で検索すると見られる「生活保護開始決定義務づけ等請求上告事件」というPDFファイルがそれです。
また他に公開されているものとしては、中京大学学術情報リポジトリでも資料を閲覧する事が可能となっています。
「在留外国人に対する生活保護法の適用(続)」(https://chukyo-u.repo.nii.ac.jp/record/361/files/10635050102nagao-chukyo-u.pdf)
※このPDFファイル、何故かP.57だけが抜けているので肝心なところが少し不明になっています。
また裁判例として簡潔にまとまったものがこちらのWEBページで閲覧可能です。
・主な裁判例
1 外国人の生活保護受給資格 永住外国人申請却下事件(最高裁平成26年7月18日判決)
http://www.saibanren.org/judgement/index.html
■永住外国人生活保護訴訟の概要
この事件は、永住外国人の方が生活保護申請をして却下されそれについて争われた、という単純なものではなく、もう少し込み入った事情もあるので少し整理したいと思います。
Xさんは1932年に日本で出生し、日本の学校に通いずっと日本で暮らしていました。中国籍であり在留資格「永住者」を持っています。
時系列で整理します。
(1) 1954年(昭和29年)に同じく中国国籍で永住者の夫Aさんと結婚
(2) 1978年(昭和53年)頃、夫Aさんが体調を崩し仕事が出来なくなった為、その後は夫AさんとAさんの義父が所有していた駐車場及び建物の賃貸収入で生活
(3) 2004年(平成16年)頃、夫Aさんは認知症のため入院
(4) 2006年(平成18年)頃から夫Aさんの弟BさんがXさんの家へ引越ししてきて同居開始。
(5) 同居以降、Xさんは、夫Aさんの弟Bさんより暴力・暴言等を受けるようになり預金通帳や印鑑を取り上げられたうえ、家を追い出される。
(6) Xさんは住む場所がなくなったので仕方なく社会的入院(治療や退院を目的とする事なく長期入院し続ける状態)をする。
(7) 入院費の支払にも困窮したAさんは2008年(平成20年)大分市に対して生活保護受給申請を行う。しかしXさん及び扶養者である夫Aさん名義の預金残高が一定程度あることを理由に却下される。
(8) この生活保護申請が却下された事を不服として、Xさんは大分県知事に対し2009年(平成21年)に行政不服審査法上の審査請求を行う。しかし外国人に対する生活保護は法律上の権利として保障されていないので生活保護申請の却下は「処分」に該当しない、従って審査請求自体が不適法として、「却下」裁決となる。
(9) Xさんは本件却下の回答の取消(取消し訴訟)と保護開始の義務付け(義務付け訴訟)を請求し、そして予備的に保護の給付及び保護を受ける地位の確認を求めて出訴。
(10) 2010年(平成22年)に大分地裁は、大分県の「却下」裁決を取消し、これに対して大分県が控訴しなかったため審査請求は容認される。その他の訴訟は全て却下・棄却。
(11) 2011年(平成23年)10月、4回目の生活保護受給申請にて生活保護法を準用する形で給付開始
(12) 2011年(平成23年)11月、福岡高裁にて永住外国人も生活保護の受給権があるとする判決が言い渡される。
(13) 2014年7月、最高裁にて「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権はない」「外国人は行政による事実上の保護対象にとどまり、法に基づく受給権は持たない」とする判決が言い渡される。
この(13)で出された判決が、上述した最高裁第二小法廷平成24年(行ヒ)第45号の判決であり、「外国人の生活保護受給は違法」という意見の根拠となっているものです。
■考察
少し気になったのは、一番最初に生活保護受給申請をした際の却下理由((7)の部分)です。
この時は外国籍である事は却下事由とはなっておらず、Xさん及び扶養者である夫Aさん名義の預金残高があるという事が却下事由になっていました。
資産が一定程度ある為に却下というのは、却下の理由としてはおかしくありません。
しかしXさんの場合、上記(5)に記載しているように夫Aさんの弟Bさんに通帳や印鑑を奪われている状態です。この通帳は、唯一の収入である賃貸収入の振込先であった為、奪われた事によりその収益を引き出す事が出来なくなっており、実質無収入状態でした。
ここで普通考えつくのは、Xさん自身が通帳を別途再発行して印鑑も変えればいいのでは?という事なのですが、実はそれが出来ない事情がありました。
ここに関して詳しい話は、上記の訴訟重要判例集データベースシステムで閲覧できる「生活保護開始決定義務づけ等請求上告事件PDFファイル」の後半部分で確認できます。
簡単にまとめます。
・Xさん名義の通帳は税金対策上開設されており、実質は夫Aさんの賃貸収入が振り込まれている
・夫の弟Bさんは、平成18年に夫Aさんより預金等の資産全ての管理を任されており、そのためXさん名義の通帳の占有がBさんに移転している(とBさんは主張)
・この賃貸収入の内訳の一つはAさんの亡くなった義父名義の土地(駐車場)を賃貸している収入であり、亡き義父の相続財産を形成している
・この預金の内容のもう一つは、夫Aさん所有の貸家の賃料が入金されたものであるがその敷地は亡義父名義であるので他の相続人と利害が対立する可能性がある。
・亡義父名義の土地(駐車場)と夫A名義の家屋の敷地となっている亡義父名義の土地は、相続人A・B・Fの3人の話合いにより分割取得済み(とBさんは主張、名義は亡義父のまま)
・亡義父の遺産分割については、相続関係当事者に外国居住者がいるため、遺産分割調停を申し立てているが、解決の目処がたっていない。
・扶養者である夫Aさんの預貯金からXさんの生活費を支出しようとすると、Aさんの収入は相続財産の一部であり他の相続人であるBさんらへ大して不当利得返還義務あるいは損害賠償義務が生じる可能性があるため支払ができない。
以上のような事情により、Xさん名義の預貯金・扶養者である夫Aさん名義の預貯金があっても生活費としては全く使えない状態でした。
上述した時系列の(7)で2008年(平成20年)に生活保護申請を行った際には、Xさんに同行した支援センター関係者よりこれらの事情を説明し記録してもらったにも関わらず、資産調査によりXさんおよび扶養者Aさん名義の預金残高が相当額ある事を理由に申請は却下されました。
もし、こういった案件を当事務所で取り扱うことになった場合、外国人に対する生活保護がどうなのかという事を争点とするより、この状況で無資産無収入ではないと認定された点を争点にすると思います。
もちろん、通知(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知)により外国人も生活保護に準ずる取り扱いを受けられるという行政措置がある事が前提の話です。
実際、最終的に最高裁にて判決が出るより先にXさんは生活保護(に準ずる扱い)の開始決定がされました。おそらく、この無資産無収入である事が確定したのかクリアされたのではないかと思われます。
名目上本人名義の資産があったとしても、実際に本人がそれを自由に処分できないのであれば実質的に本人の財産とは呼べないので、これは当然の話です。
■最高裁の判決について
この事件においては、
・一審判決(大分地裁、平成21年(行ウ)第9号 平成22年10月18日判決)
外国人である原告(Xさん)に生活保護法の適用はなく、保護申請却下処分の取消しを求める部分及び保護開始の義務づけを求める部分は不適法却下、その余の請求については棄却
・二審判決(福岡高裁、 平成22年(行コ)第38号 平成23年11月15日判決)
当該外国人がした生活保護申請を行政庁が却下する行為は、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」に該当すると判断し、同申請を却下した処分を取り消し。
大分市が上告。
・最高裁(第二小法廷平成24年(行ヒ)第45号 平成26年7月18日判決)
二審判決の大分市敗訴部分を破棄し原告の主張を退ける。
最高裁の判決の要旨を引用します(上記、生活保護開始決定義務づけ等請求上告事件PDFファイルより)
————–
旧生活保護法は,その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し,現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。
その後,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。また,昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知(以下「本件通知」という。)は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても,そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はない。
これらのこと等によれば,外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり,生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく,同法に基づく受給権を有しない。そうすると本件却下処分は,生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって,適法である。
————–
ここに登場する「昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知」は下記のページで読むことが出来ます。
生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について(◆昭和29年05月08日社発第382号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta1609&dataType=1&pageNo=1
この通知の冒頭を引用します
——————
生活保護法(以下単に「法」という。)第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと
——————
■最高裁の判決で外国人への生活保護は違法とされたのか
時折SNS等で見かける「外国人への生活保護は違法である」という言説の元になっているのがこの2014年(平成26年)の最高裁判決です。
外国人への生活保護開始決定が違法であるのであれば、永住外国人は生活保護制度を利用出来ない事になります。
判決では本当にそのような事を述べているのでしょうか?
判決の要旨において下記のように述べられています。
—————-
現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。
—————-
現行の生活保護法において、法の対象となるのは「日本国民」であると明記されており、外国人は含まれておりません。
さらに
—————
その後,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。
—————
と続きます。
ここだけ読むと、外国人は生活保護法の対象ではなく、さらにそれを一定の範囲の外国人に適用・準用するという拡大される法改正も行われていない、となっています。
しかし後半のこのあたりから少し意味合いが変わります。
—————-
また,昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知(以下「本件通知」という。)は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても,そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はない。
これらのこと等によれば,外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり,生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく,同法に基づく受給権を有しない。
—————–
まとめると、
・生活保護法の対象に外国人は含まれない
・本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって適法
・社発第382号厚生省社会局長通知により行政措置として外国人への生活保護が実施されてきた
・外国人は行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る
以上となります。
「外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」の部分は、その後に「にとどまり」となっているので、なんとなく否定的な意味合いに見えがちですがそうではなく、外国人が「行政措置により事実上の保護の対象になり得る」部分はこの判決の中でも認められているのです。
最高裁において争われたのは、「外国人の生活保護法による保護の適用を求める申請に対する却下決定」が適法かどうかです。
「社発第382号厚生省社会局長通知よる行政措置として外国人への生活保護の実施」が適法か違法かは一切争われておりません。
「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」という文言が述べられている事から、この最高裁の判決の要旨においては、行政庁の通達等に基づく行政措置は適法と認められているという解釈の方が正しいのではないかと考えられます。
ここで冒頭に戻ります。
「外国人が生活保護制度を利用する事は最高裁で違法判決が出ている」という解釈は正しいのでしょうか?
最高裁の判決の要旨において、外国人は生活保護法の対象ではないとされています。
最高裁の判決の要旨において、外国人は事実上の保護の対象となり得るとされています。
これを読んだ上で、外国人の生活保護利用は違法とした判決?言葉が難しいところです。
■まとめ
この話は、そもそもが「外国人だから生活保護申請が却下された」という話ではありません。却下自体は、資産収入があると見なされたからです。
ただそれに対して保護開始の義務付け(義務付け訴訟)の請求、保護を受ける地位の確認等が行われた結果、そもそも外国人が生活保護を申請却下された際に行政不服審査法に基づく審査請求が出来るのか?そもそも外国人に生活保護法の適用があるのか?が争われることになったという流れがあります。
そして現実の話として現在においても、昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知を元に、「要件を満たした」外国人に対して生活保護と同等の制度が適用されています。
繰り返しますが、この「社発第382号厚生省社会局長通知により行政措置としての外国人への生活保護実施」が違法か適法かについて裁判で争われた事実はありません。
春キャベツのパスタ
ほうれん草と豚肉の常夜鍋。貧血になりやすい女性におすすめ鉄分豊富なメニュー。
たまには吉野家・・・肉増量とはいえ、これで千円超え!物価高を実感します。
節約、簡単、美味しい!日本のカレールーは海外でも大人気だそうですよ。