前回→エアコン設置を求める行政訴訟

第2章  PTAの金の闇

1.町内会のおじさん

愛子が3年生になってから、目まぐるしく日々は過ぎていった。夏休みは鈴木さんの娘の美香ちゃんとプールへ出かけて、真っ黒に日焼けした。

娘の愛子は、9歳らしく、伸び伸びと充実した日々を送っていた。

2学期の初日は例のごとく、防災訓練だった。

1年前のこの日、異様な暑さだった教室の廊下は、今年は全ての窓が解放され、風通しが良かった。

そして、教室には釣り型扇風機が何台も設置されて、くるくると回っていた。

うちの小学校はエアコン設置こそまだだったが(大阪市内の小中学校は順番にエアコン設置工事が始められていたが、古い校舎は安全対策上先に耐震対策をしなければいけなかったらしい)、後ろに前に何台も扇風機が設置され、同じく忙しく首を振っていたので、夏場の教室環境は相当に改善されていた。

鈴木さんが大阪市相手にあの窮状を訴えてくれた結果だと思うと(なにしろ、校長会が10年以上訴えても大阪市は何もしなかったのに、鈴木さんが昨年教育委員会や市に対して働きかけ、わずか1年でこの変化だ)、感謝の気持ちがこみあげてきた。

同時に、自分は裁判まで起こすことはできない、という冷静な感情もあった。

というより、冷静にならざるを得なかった。

なぜなら、鈴木さんと一緒に授業参観で廊下を歩いていると、ひそひそと他のママさんたちが遠巻きに、中にはあからさまに悪口を言う人も少なくなかったのだ。

鈴木さんの娘、美香ちゃんは同じ3年生の学年だけでなく、他学年の児童からもいじめを受けているようで、かわいそうだと愛子が家で漏らすようになった。

「今日美香ちゃん、お母さんに買ってもらったばかりの綺麗なスニーカーを履いてきたのに、男子たちがサッカーボールの代わりに蹴って遊んでたから真っ黒になってた」

「5年生の子たちから、鈴木美香って子と仲良くしないほうがいいよ、お母さんが悪いことする人なんだよって言われた。」

「美香ちゃんが触るものは汚いから、美香ちゃんのテスト用紙は回収したくないって係の子が言って、みんな笑ってた。」

人間不思議なもので、毎日こんなことを聞かされていると、そう驚かなくなってくるのだ。

そして、心配するのは申し訳ないけれども、他人の子よりも自分の子がいじめられないか、ということだった。

内心、少し美香ちゃんと学校では距離を取ったらいいのに、と思うも、そんな意地悪なことを優しくまっすぐに育ってもらいたい大事な娘の愛子に教えたくはなかった。

私の心は葛藤していた。

それにしても、PTA役員の人たちの一存でアンケートをしなかったり、そもそも約束を果たさなかったり。PTA会員の要望に対して、あからさまに「嘘」をつくということは、一応学校に付随するボランティア団体の在り方として、疑問を感じていた。

PTAっていったい何なの?何のためにあるの?

そんな疑問が頭に何度もこだましていた。これまで何度も顔を出しては消えた感情が、またふつふつと沸き起こってきた。

そんな折、妙な話を耳にしたのだ。同じ小学校にお孫さんを通わせる地域の酒屋さんに回覧板を回しに行ったときのことだった。

「なあ、小川さん。ちょっとした頼みがあんねんけど。小学校の行事の度に、うちらの町内会でお祝い金を包んで学校に渡してんねん、それも、もう何年もやってるんや。市会議員など他の人たちもやってるから、嫌でもわしらだけやめるわけにもいかへんしなぁ。

それに小学校は生徒数も多くて、PTA会費も多いんちゃう?ほんで、こんなお祝い金まで入るのに、スリッパはボロボロやろ?学校の掃除の備品なんかもオンボロやろ?うちのかあちゃんが、前にぼやいてたわ。ほうきなんか、先が開いてしもうて、使いもんにならんやらしいわ。

一体PTAのお金はどうやって使われているんか、ちょと悪いけど聞いてもらわれへんか。」

と、言われたのだ。酒屋さんは気の良い方で、私は顔を合わせる度にしょっちゅう世間話をしていた。だから、私には頼みやすかったんだろう。いつも疑問に思っていたことを私に託したんだろうけれど・・・。

そうはいっても、こんな頼まれごとは荷が重いな、と正直感じていた。そこで、行動力のある鈴木さんに、このことを相談することにしたのだ。

続き→どんぶりPTA会計(1)

※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。