前回→どんぶりPTA会計(1)

どんぶりPTA会計(2)

おかしいと思ったことはおかしいと言う。
間違っていることは間違っていると言う。

周りの目を気にせず、正しいと思う行動を堂々とする鈴木さん相手に、小学校の校長先生たちも途端に不安になったのではと考えると、不謹慎にも笑いだしそうになってしまった。

と、同時に、鈴木さんに余計なことを頼んでしまったことを申し訳なく思った。

(・・・本当は、私が町内会のおじさんから、小学校の行事で町内会費からPTAに渡したお金がどうなってるか調べてきてほしいと頼まれた。

正しいことをしているのに、そのせいで反感を買って、娘さんまでいじめに遭って。

保護者間でも悪口を言われ、小学校の学年の壁を越えて児童からもいじめを受けている鈴木さん親子。

かわいい娘の愛子をいじめから守るためとはいえ、少し鈴木さんと距離を置きたいと思いながら面倒な頼みごとだけして利用して、私は最低だ。PTA会計を見せてほしいなんて学校に言って、あの怖いPTAの人達に知られたら今度は自分たち親子がいじめのターゲットにされるような気がして不安だった。)

コピーはダメで、会議室でだけ見ていいと言われたため、真面目な鈴木さんは会議室で何時間もかけて数年分のPTA会計帳簿を閲覧してきてくれた。

時々教頭先生や他の教職員が、不安そうに部屋をのぞき込み、鈴木さんに声を掛けてきたそうだ。

コピーもできないのだから、ちらっと見てすぐに帰ると踏んだのだろう。

それなのに、予想に反して鈴木さんは何時間も会議室から出てこないものだから、さぞ管理職の先生方は不安におののいていたと思う。

朝9時に会議室に入り、午後2時まで缶詰状態での数字とにらめっこの作業は、さすがの鈴木さんも疲れたようだ。

鈴木さんはそんなことを口には出さなかったが、大きな白目に赤い血管の走行がくっきり見えていた。

「コピーはダメだっていうから、全部ノートに書き留めてきたわよ~!」

「さ、さすが鈴木さん!!」

「もちろんよ。でも、殴り書きだから字が読みずらいかも。ごめんね。なにしろ、大量だったからさ~。」

たしかに、ノートはところどころ暗号のようになっていて、わからないところもあった。

鈴木さんに説明してもらいながら、一緒に会計の詳細を探っていった。
すると、すぐにおかしな収支が見つかった。

「小川さんから話を聞いたときから、変だと思っていたの。町内会や市議会議員からのお祝い金ってね、寄付金になるのよ。私の母親は横浜の公立小学校で長年教員をしていたんだけど、近年では公立小学校では寄付金は禁止しているはずなの。それに、寄付金は学校ではなく、行政庁に帰属するものであるという判例も出ているんだから。」

「えっそうだったんですか?じゃあ、うちの町内会が毎年持っていってたっていう、あのお祝い金って本当はダメなことなのに、うちの小学校のPTAは受け取っていたっていうことですか?それを小学校も黙認していたんだ。

ていうか、そもそも鈴木さん、どうして判例とかそんなに詳しいんですか?海外にいらっしゃるご主人が弁護士とか?

そうそう、この地域は医者と弁護士がこぞって家やマンションを買うみたいですよね。鈴木さんのご主人は、どんなお仕事されているの?

あ、うちはしがないサラリーマンですよ。一応ボーナスは年2回3桁で出るから何とかやってるけど、ボーナスがなかったらとてもとても、この地域に住めるような経済力じゃないんですよ。家も35年ローンで、もうカツカツなの。」

「そう・・・この辺りは大阪市内でも特に地価が高いエリアだからね。うちの話は・・・うーん。また、今度話すね。」

思い切って話を振ったから、この機会に話してもらえるのかと思いきや、やっぱり家のことは話したがらない鈴木さん。

片親とか、生活保護を受けているんじゃないかとか、色々噂が耳に入ってくるので、私は内心気になっていた。

中には、夜の商売をしてるなんていう噂もあって、そういう世界はいかがわしい感じがして、噂話を聞くだけでも嫌な気分になったものだ。

ひどいことを言う人がいるなと、私もPTAの偉い人に睨まれたら、根も葉もない噂を立てられるんじゃないかと不安になった。

早く話題を変えたいのか、鈴木さんは間髪入れずに話を続けた。

「でね、その町内会や議員が学校に持っていった寄付金は、実はPTAの収入にはならなくて、学校のお財布に入っていたみたい。

うちの小学校では行事に参加した来賓者の多くから、寄付金を一人当たり3千円~1万円、毎回貰っていたみたいよ。もう、何年もね。

遡れる限り全部閲覧したけど、寄付金とかお祝い金の記録は全くなし。それで、教頭先生に聞いてみたら、学校の裁量でその寄付金は支出していたようなの。

校長室の本棚にある、真新しい漫画本、たくさんあるの知ってる?あれもPTAが名目上受け取ったはずの、お祝い金から学校が購入したんだって。記録は何も残っていないと。」

「校長室に漫画本、たくさんありますよね。教育漫画とかじゃなくて、普通の綺麗な新しい漫画本、小学校にこんなにあるんだって驚きました。
じゃあ、小学校は本来もらってはいけないお金を毎年行事の度に市議会議員や町内会からもらって、漫画本とか買うのに勝手に使っていたってことなんですか?
そして、その証拠も隠滅?でも、町内会のおじさんはPTAにお金を渡してたって思ってたみたいですけどね。」

「もうねーその辺り、ごちゃごちゃだよね。お金のことが、公立小学校でこんなに曖昧でいいの?って私もびっくりしてる。こんないい加減な会計、関東の小学校では、あり得ないこと。でもね、まだまだ、驚くのはこれからなの。」

続き→どんぶりPTA会計(3)

※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。