いじめ暴力事件(2)
前回→いじめ暴力事件(2)
8.いじめ暴力事件(2)
「美香ちゃんのお母さんが悪いことしてるって、森本くんたちが言いふらしてるよ。」
愛子が教えてくれた。
「でも、私、言ったんだ。美香ちゃんのお母さんは優しいよって。何も間違ったことなんてしてないよって。そうだよね、ママ?」
「え~まあ、それはそうなんだけど・・・。そんな意地悪なことを言ってくるなんて、こわいね。美香ちゃんも、あんまり変なこと言うといじめられちゃうかもしれないし、気をつけてね。」
「小学校PTA役員さんが、鈴木さんってゆうお母さんは頭がおかしいんちゃうかと言ってたで。一体どんな人なんやろ?」
「事実無根の変なチラシをばら撒いたんやって?」
「書道教室でも、小学校PTA役員さんを中心に鈴木さんゆうお母さんの悪口で持ち切りやねん。ひどいモンスターペアレントらしいで。怖いなぁ、そんな人がおるなんて」
などという話が、校区を越え、どうやって知ったんだろうと驚くような筋からも聞こえてくるようになった。
それだけではなかった。インターネット上でも、匿名掲示板などで鈴木さんの悪口が展開されていた。一PTA関係者が嫌がらせを自供自認してしまったことから、今度は気をつけているのか、法の眼をくぐるかの如く、個人名は書かれていなかった。
これでは警察に相談したところで、動いてもらえない。
鈴木さんはこれまでと変わらず、陰口は気にしないで堂々としているように見えたが、困ったことにその大人達の悪口を聞いた子どもから、鈴木さんの娘の美香ちゃんに対するいじめもエスカレートしていったのだ。
子どもは、大人ほどましてや鈴木さんほどタフではない。
そして、正直に言うと、私はもはや鈴木さんと距離を置きたいと考えるようになっていた。
ひどい話だが、あまりにも鈴木さんに関するひどい陰口が近所に回り過ぎていて、こわくなったのだ。
私の元夫の職場への嫌がらせ電話はピタッとなくなったものの(おそらく、謝罪したPTA関係者が関係者らにうちが離婚までしたことや、離婚して他人になった以上何かあれば警察が動くことを伝えたのだと思う)、なんでうちの家庭がこんなことになってしまったんだという怒りの矛先が、時に鈴木さんに向かってしまうことも多々あった。
面と向かって言えるわけはないのだが、私の心の中で。
鈴木さんは明るく、正義感が強い優しい人だった。でも、今ではもう、鈴木さんのことを知らない人まで、聞きかじりの陰口をあたかもよく知っているかのように言っていたのだ。
「警察にPTA役員さんを訴えた怖い人」
「変な思想のチラシを配る人」
「何度も学校に乗り込んでくるクレーマー」
「娘も唾をクラスメートに吐きかけたり、変な子らしい」
美香ちゃんは成績優秀で、明るく優しい子で、お母さんの鈴木さんそっくりだった。でも、美香ちゃんは今ではクラスのいじめの恰好のターゲットになっていた。
何しろ、加害児童らの親も大人のいじめに加担しているのだから、タチが悪かった。本来子どもの道を正すべき親たちが、大人の集団いじめの加害者に転じていることにさえ、気づいていないのだ。
私は、PTAの不正を追及したばかりに、大人のいじめに遭っている鈴木さんが不憫でしかたなかった。そもそもPTAの会計について調べてほしいと頼んだ、自分の軽はずみな行動がいけなかったんだとも思っていた。
でも、再び(元)夫の職場に電話をかけられたり、大事な娘の愛子がいじめられるといった恐ろしいことだけは、自分の家族の身に起こらないよう、避けなければいけないと思ったのだ。
そして、ある日、意を決して、鈴木さんにメールをした。
「ごめんなさい。鈴木さんは全く悪くないのだけれど、私も夫の職場へPTA関係者から嫌がらせをされて、離婚まで余儀なくされました。娘の愛子は守らなければいけません。今後、しばらくは、せめてこの状況が落ち着くまでは、鈴木さんとお会いすることはできないです。本当にごめんなさい。」
鈴木さんからは、しばらくして短いメールの返信があった。
「わかりました。ごめんなさいね。今まで友達でいてくれて、ありがとう。」
苦々しい気持ちが残ったが、家族を守るためには仕方ないのだと、気持ちを切り替えようと思った。
平成24年12月5日水曜日午後6時頃、美香ちゃんは、学校近くで背後から同級生の男子児童から頭を殴られるといった暴力行為を受けて怪我をした。
当初周囲には大人、子ども複数がいて目撃していたが、その暴力をとがめたのはたった1人の大人だけであとは笑って傍観していたか、見て見ぬふりをしていたかだったという。
愛子と美香ちゃんと同じ小学校の男児に加え、他校の男子児童も一緒になって、「美香のエキス」「きもい」等言って、美香ちゃんをからかっていた。
そして、一人の児童がプラスチックのケースで殴ろうとしてきたため、美香ちゃんは何度かよけた。
しかし、あろうことが男子児童は途中で、「自分のケースで殴ると美香のエキスがついて汚いから」と、友達の私物プラスチックを勝手に持ち出し、それで後ろから美香ちゃんの頭を殴ったという。
大きな音がしたため、一人の大人が驚いて顔を上げて男子児童に注意をした。美香ちゃんは頭に大きなたんこぶが出来たと言って泣き、愛子が慰めたという・・・。
この事件以後、美香ちゃんは学校に来なくなった。
→続く
※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。