「弁護士JP生活保護連載」第5回記事 令和7年3月2日
「弁護士JP生活保護連載」第5回記事3月2日(日)
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→30代シングルマザー「息子の高校“入学金”が払えない」“高校授業料無償化”の落とし穴…母子が行政の“たらい回し”の果て「生活保護」選んだ理由 | 弁護士JPニュース
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→30代シングルマザー「息子の高校“入学金”が払えない」“高校授業料無償化”の落とし穴…母子が行政の“たらい回し”の果て「生活保護」選んだ理由(弁護士JPニュース) – Yahoo!ニュース
各種許認可、遺言相続、犯罪被害、お子さんの学校のいじめに起因する警察への被害届や告訴の相談など、生活保護とは一見関係のない相談から、実は家族などの生活保護が必要だったと気付き、生活保護申請に至るケースもあります。生活保護は自分とは無縁と考えている人も多く、問題に直面したときの選択肢に浮かばないことが往々にしてあります。
一人息子の私立高校の入試が終わり、無事に志望校に合格。「大阪府は、全国に先駆けて低所得世帯は私立高校が無償化されたから大丈夫」と考えていた母子家庭のシングルマザー(仮名:ミサさん)から行政書士事務所に悲痛の相談が先日、ありました。
行政書士に相談をされた発端は「自治体独自の給付金に関する役所の対応について相談したい」というものでしたが、問題の根本をたどると、憲法第25条で保障された最低生活以下の生活を余儀なくされていたことがわかり、結果的に生活保護申請に行きつきました。
「自分と同じように困っている母子家庭があると思うので、事例として公開してほしい」
たってのご希望から、行政対応に関する相談から結果的に生活保護申請に至った経緯と行政の問題点を指摘しました。
ここでは、記事には文字数や内容的に載せられなかったことを、抜粋します。
「給付型奨学金の締切は、すべて終わっている」
これが、当初ミサさんが役所から受けた説明でしたが、実際にはちがいました。
ミサさんの言う通り、行政書士が確認しても、たしかにあやふやな対応で、言っていることが職員、役所によって異なりました。管轄外の部署のことはわからないから、インターネットで制度を自分で調べてほしいとも言われました。これでは、一般の保護者の方が不安になるのも無理はないでしょう。
子どもが入学する高校に、お金の相談をしたくないというのは、親の心理。それでも、大阪府や最寄りの役所からは、学校に相談してくださいと言われ、恥を忍んで学校に連絡をし、「入学金が払えない」ことを伝えるも、学校としては期日までに払ってもらわないと困るとの回答。逆にまた学校からも、「大阪府、役所に相談してください」と言われる始末。
「ただ、恥をかいただけでした。これから入学する子どもに申し訳ない。」
しかし、行政書士が再度、方々の役所に連絡して確認したところ、大阪府内の高校に今年の春進学する非課税・低所得の母子家庭世帯の給付型奨学金は、役所の窓口職員が当初案内していた「もうすべて終了している」という情報は誤りであったことが判明しました。
→大阪府私立高等学校等奨学のための給付金について/大阪府(おおさかふ)ホームページ [Osaka Prefectural Government]
おそらく、令和6年度の受付期間終了を、役所の窓口担当者が誤解して案内したのでしょう。私立高校一年生の給付型奨学金を中学3年生のうちに申請できるわけではなく、これもあくまでも高校入学後、学校を通して申請するものです。そして、該当世帯は高校一年生の冬頃に返済不要の給付型奨学金を受け取れる仕組みなので、やはり事前に必要な入学金や制服代、タブレット端末購入費用などに充てられる給付金や補助金はないということもわかりました。
あるいは、役所の窓口担当者は、既にたしかに令和7年4月に大阪市内の定時制高校等に入学する学生さんの「大阪市」の給付型奨学金の募集が終わっていたことから、受付期間が終了していると伝えたのかもしれません。この大阪市の給付型奨学金は、大阪府の奨学金とは併給できないもので、かつ、大阪府の給付型奨学金の方が金額も大きいため、府内の全日制高校に進学する場合は、やはり「まだ申請受付すら始まっていない」大阪府の給付型奨学金の案内をすべきでした。こうした大阪市と大阪府の給付型奨学金の説明なども、相談した役所からはなかったといいます。
制度の管轄部署が違うからわからない、と役所に相談に出向いて言われてしまっては、一般市民はなおのこと、どうしたらいいかわからず不安になってしまうでしょう。横断的な説明がないと、たらい回しになった挙句、問題解決に至らず疲弊して諦めてしまうということは、生活保護行政でもありがちです。
この図表が非常にわかりやすいので、ご覧ください。この説明を役所の窓口でなされなかったことが不思議です。ミサさんは、とにかく相談する部署ごとに、その部署で扱っている制度のことしかわからないと言われ、横断的な説明や案内がされなかったといいます。
役所に相談をした人が、たらい回しにされ、正確な情報を得ることができず、問題が解決しないまま、行政書士事務所に相談に来るというケースは、このケースに限りません。
また、制度設計自体にも問題があると思わざるを得ず、授業料を実質無償化しても、私立高校に入学するための制服代や諸経費が数十万円単位で必要になる低所得世帯への配慮がなされていません。まるで、絵に描いた餅のような制度です。
大阪府は、国に先駆けて「私立高校無償化」を打ち出したことは評価できますが、ただ、せっかくの制度も、親が病気など事情を抱え低所得、非課税世帯のお子さんが期待を持ったのに入学金や制服代が賄えず淡い夢となってしまっては、逆に酷ではないでしょうか。
また、母子家庭、非課税世帯、生活保護など、家庭の事情を、他の児童生徒がいる学校で子どもがやり取りしなければいけないことに心を痛める保護者の方からの相談も多数受けてきました。子どもに肩身の狭い思いをさせたくないと、生活保護受給していることを、ケースワーカーの理解も得て未成年のお子さんには伝えていないという家庭も少なくありません。制度を使うのは生身の人間ですから、プライバシーへの細やかな配慮も欠かせないものです。
◆一時的に生活保護に頼るという選択肢
障害厚生年金2級の年金のみが収入源である、シングルマザーのミサさんが取った選択肢は、こうです。まず、私立高校の入学金は例外なく期日までに支払わなければ入学そのものが認められないことを確認したため、やむなく学生時代の友人から100万円を借りて入学金、諸経費、初年度の授業料の支払に充てることに。友人からの借り入れと100万ほどの学校への支払いをすぐに済ませ、即、生活保護申請です。
家賃も月額10万円以上と高額で、障害年金だけでは、これまでも生活が苦しかったのです。障害年金の分は生活保護費が減額になるとはいえ、国が定める母子2人の最低生活費には満たない障害年金の額であれば、最低生活費と障害年金との差額を生活保護費で受給することができます。そして、障害等級2級のため生活費と家賃の加算もあります。
信頼一つで100万もの大金を貸してくれる知人に借りたお金は、返済しないわけにはいきません。借金を多額に背負った方は、生活保護申請後あるいは同時期に、法テラスを介して実質無料で自己破産をする方法もありますが、自己破産しなければ生活保護を受けられないわけでもありません。(この誤解もよくあり、借金を抱え生活苦でも自己破産できないと生活保護を受けられないと思い込んでいるケースがあります。自己破産等しなければ生活保護を受けられないこともなければ、借金や税金滞納があるから生活保護を受けられないということもありません。)
『生活保護申請前』に借りたお金を、『生活保護費』から返済することは可能です。生活保護費をやりくりして、何にどう使うかは、基本的に自由だからです。ただ、注意しなければいけないことは、生活保護費でやりくりができずに、お金を借りたり、もらったりすると、それは収入扱いとなり、生活保護費が減額されます。生活保護受給中に、お金を借りたりもらったりして、収入申告をしなければ、不正受給となり遡って保護費の返還を求められるだけでなく、刑事罰の対象になることもあります。
もちろん、本来、生活保護申請前にお金を借りるべきではないですし、お金を借りるほど生活困窮しているのであれば生活保護申請をまずすべきです。でも、このケースでは、借りるよりほか、選択肢はなかったでしょう。私立高校無償化の情報を見て、母子家庭でも私学に行けると思い、第一志望校に合格した15歳の少年が私立高校入学を諦めるべきだったとは思えません。私立高校無償化の制度が絵に描いた餅ではなくなるためには、入学金や制服など私立高校の入学準備に必要な費用の支援制度の確立が必要です。経済格差による貧困の連鎖、教育格差、子どもが夢を諦めなくて済むように、実用的な制度になることを願います。
生前、行政書士と親交の深かった女性経営者の方のご主人から、大切な形見のベストをお贈りいただきました。
末永く大切にさせていただきます。