「弁護士JP生活保護連載」第7回記事 令和7年3月16日

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“安い家”に引っ越さなくても「生活保護」は受けられる? 生活困窮した場合の「住まい」に関する“重大な誤解”とは【行政書士解説】 | 弁護士JPニュース

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“安い家”に引っ越さなくても「生活保護」は受けられる? 生活困窮した場合の「住まい」に関する“重大な誤解”とは【行政書士解説】(弁護士JPニュース) – Yahoo!ニュース

・脱サラ後は自営業だったから、年金が少ない。仕事が順調だったときはよかったが、年と共に収入が減少。医療費や生活費で、貯金も底を尽いた。子どもはおらず、老夫婦二人で生活保護を受けたい。

・これまで無年金、低年金の親に経済援助をしてきたものの、自分も定年間近で、自分自身の老後が心配なので親への仕送りを続けられない。

・親が生活苦。でも、自分も結婚や出産で自分の家庭を守る生活で精いっぱい、親に生活保護を受けてもらいたい。

日々行政書士事務所に寄せられる、こうした生活保護が必要な方の相談と同じくらい多いといって過言でないのが、生活困窮に伴う住居、引越しに関する相談です。たしかに、生活保護法令を実際に適用するうえでの具体的指針である実施要領や問答集を見ても、この家賃や引越しに関する項目は専門用語も多く、一般の方にはわかりにくい内容です。

生活保護制度は個々の多様な生活に密接に絡む制度なので、すべてを実施要領等で規定できるものでもありません。また、インターネットで「生活保護 引越」と検索をしても、公的機関の情報は殆ど出てきませんから、正しい情報を得られず困ってしまうのです。

ネット上に誤った情報も見受けられるので、今回は生活保護と引越しに関する最新の情報を、過去の事例や、よくある相談のケースと共に解説しました。

ここからは、記事には文字数等の都合で掲載しきれなかった情報を載せています。

■最新の生活保護法における住宅扶助(家賃等)の上限額

生活保護費は大別すると、生活費に充てる「生活扶助費」と家賃等に充てる「住宅扶助費」の2つの柱で主に成り立っています。生活扶助も住宅扶助も、世帯ごとに、年齢や居住地域等により細かく算出されますが、住宅扶助費には上限額があります。この上限額は、世帯構成員の年齢や健康状態、地域によって異なります。

現在の各都道府県(市)の住宅扶助費の上限額(特別基準額)は、平成27年7月1日から適用されており、新たに中核市になった自治体を除き基本的に変動はありません。

東京23区で特段障害などもお持ちでない一人暮らしの方の家賃の上限は、53,700円です。同様に、健常者の一人暮らしの生活保護世帯の家賃上限は、横浜市で52,000円、大阪市で40,000円です。世帯人数が増えれば、2人世帯、3~5人世帯、6人世帯、7人以上の別で上限額も上がります。住居等の床面積が極端に狭い場合(1人世帯で専有面積の床面積が15㎡以下)や、障害をお持ちの方の世帯などは、別の限度額の設定があります。

住宅扶助の上限額を超える家賃額や、家賃に含まれない管理費、共益費、水道代などは、生活扶助として支給される生活保護費など、住宅扶助以外のお金をやりくりして補うことができます。生活保護費を何に使うかは、基本的に個人の自由だからです。ただし、家賃があまりに高く、やり繰りしても支払うことができないほど高額である場合は、さすがに毎月の生活が成り立たなくなりますから、引越しが必要でしょう。ただ、この場合でも、家賃が高すぎるからという理由だけで生活保護申請を躊躇うことはないのです。私がこれまでにサポートをしてきたケースでも、家賃が20万円を超えるような高額物件に現に居住しながらも、資産も収入もなく多額の借金を背負いもはや新たな借り入れもできないなど、引越し費用を自力で捻出できず、生活保護申請をした方もいます。この場合は、ひとまず生活保護申請をして、個々の状況に応じて役所と相談しながら進めていけばいいのです。

■高額家賃物件に住む生活保護の相談者に「まず引越しをしてから申請」促す背景

住宅扶助の上限額をオーバーしていても、その金額が僅かだったり、生活費を節約しても今の物件に居住したいと考え、家賃の実費と役所が支給できる住宅扶助との差額を自分の最低生活費(厚生労働大臣の定める基準による金額)から捻出できる方であれば、保護申請後も引越しは不要です。

ただ、家賃があまりにも高額で、住宅扶助のみならず最低生活費そのものを家賃だけで上回るような高額物件の場合はどうでしょうか。それでも、資産、収入、経済援助などを勘案し、最低生活が確保されていなければ、生活保護は受けられます。ただ、役所は、その人が生活保護決定すれば、すぐにでも引越し費用を支給しなければいけなくなります。一般的に、上限額を大幅に超えていれば(生活費を含めた最低生活費以上の高額の家賃の場合など)、滞納の問題も発生するので、すぐにも引越し費用を支給して引越しをする必要があるでしょう。もちろん、引越し先を決めるのは、本人ですから、役所が勝手に決めて進めることはできません。そのために、個別の対応が多々必要になってきます。つまり、役所にとっては、急を要する仕事が増えることになるわけです。また、こうした引越し費用は金額も大きいため、生活保護申請をしたばかりの人にすぐに多額の支給をすることには慎重にならざるを得ず、難しい判断を短期間で迫られる業務です。残念なことですが、言葉巧みに生活困窮を装った不正申請、不正受給も実際にありますから、真に困窮し引越し費用が必要なのかを役所は調査する必要があるのです。

とはいえ、引越し費用は必要であれば生活保護制度上、保護決定の時期にかかわらず支給されるべきものです。役所のマンパワーや懐事情に遠慮して、現に生活困窮している人が申請を躊躇う必要もなければ、申請を回避させるような水際作戦を講じることも本来あってはならないことです。

■住居がない人、退去を促されている人からの相談も多い

コロナ禍で特に多かったのが、住み込みのアルバイトなど、非正規職の方が職と同時に住まいも失い、たちまち困窮状態になってしまったケースです。

コロナ禍に、NHKの記者の方から、急増した生活保護申請の取材を受けたことがあります。その際にも、この話をしたところ、「今時、会社の寮や住み込みの仕事の人なんて、そんなにいるんですか」と驚かれたことが印象深く残っています。一般的には想像し難いかもしれませんが、特に幼少期に親の虐待などで児童養護施設で育った方など、社会に出ると同時に住み込みの職ばかり渡り歩いてきたという人は少なくありません。
また、一時的に収入が途絶え、住んでいた賃貸物件の家賃を滞納してしまい、退去を迫られるといった事態は誰にでも起こり得ます。引越し費用が捻出できず、住宅付きの職を探し、それ以後は自分名義の住まいはなく仕事に付随する住まいで生活してきたという人もいます。福利厚生として、企業が住まいを用意しているケースもあります。仕事が順調であれば、住宅費の負担も少なく労働者にとってのメリットもあるでしょう。しかしながら、非正規職での雇止め、会社の経営難、健康上の問題などから仕事を失うと、途端に住まいも失ってしまいます。まとまった引越し費用もなく、すぐにも退去を迫られ、切羽詰まった状況の方からの相談は、コロナ禍に関わらず常態としてありました。

この場合、行政書士がまず助言することは「資産収入が尽きているのであれば、一刻も早く生活保護申請をすること」です。なぜなら、実際に寝泊まりしている住居を出てしまえば、途端にホームレスになってしまうからです。もちろん、ホームレスの方も生活保護申請はできるのですが、その場合は、通常のホームレスに対する保護の適用の例にならい、保護施設など共同生活でプライバシーの確保が容易ではない環境に一定期間身を置くことになることが多いのです。

真に困窮状態であれば、そうした保護施設において衣食住が保障されることで、「助かった、ありがたい」と感じる人もいます。実際、行政書士の私も20代前半の頃、居住していた賃貸住宅をストーカーに知られてしまい、住まいを突如失ってシェルターに母子で入所したことがあります。食事や風呂トイレは共有でしたが、暖かく清潔な布団と、毎日シャワーが浴びられ、食事を無料でさせてもらえる環境に心底安堵したものです。また、同様の境遇の他の母子家庭との交流、母親の私だけでなく3歳の娘にとっても話し相手、遊び相手がいる環境は、疲弊した母子の精神の回復の面でも助けられました。そうした施設に滞在しながら、保護申請をして、保護決定が2週間~30日程度でなされた暁には、独立した住居、賃貸住宅等への転居費用の支給申請が可能です。

ただ、一時的にでもそうした共同生活の施設に入れない心身の状態の方も少なくありません。うつ病や対人恐怖症など、心の病により仕事の継続ができず、生活困窮に至る方も増えています。そのため、独立した住居で寝泊まりしている間に、保護申請をすぐにすることが重要なのです。役所にも「退職に伴い、この住居は早急に退去しなければならない。病状から集団生活の施設などへの入所が一時的にでも困難なので、生活保護決定後すみやかに転居費用を支給してほしい」と申請段階から伝えれば、臨機応変に対応してくれるものです。緊急性が高い場合など、申請と同時に、引越費用を役所が出す場合の上限額や、費用支給に当たり不動産会社や引越し業者から入手し提出が必要な見積もりなどの説明をしてもらうこともあります。

注意すべきことは、保護申請をする前に、自力で引越しをした場合、先に支払った費用を役所が出してくれることは基本的にないということです。生活保護申請をし、資産収入が一定以下で、最低生活の確保がされていないことから保護決定となれば、家賃が高額であったり、退去を余儀なくされているなど事情に応じて、引越し費用の申請ができます。この場合も、事前に見積もりを不動産会社や引越し業者からもらい、役所に提出するなど必要な手順があります。その見積もり上限額は、住んでいる地域や世帯構成によって金額が異なるので、都度役所に確認しながら正当なプロセスで進める必要があります。引越し費用がないからと、誰かからお金をもらったり、金融機関などから先走って借りてしまった場合は、そうした費用は基本的に役所からの支給対象となりません。

引越しにまつわる悲惨なケースを行政書士として沢山見てきたので、入学や就職に伴う転居の多いこの季節、今回どうしてもこのテーマで記事を書きたいと思った次第です。

なんといっても、一番の心残り、後悔が私自身の過去にあるということもあります。20年以上前のこと。ストーカー被害により、まだ未就学の小さかった娘と二人、東京の避難シェルターに入りました。真新しい施設、衛生的で、基本的に30日間という短期間、同じように心身に傷を負った母子と共にお互いを思いやっての共同生活。子ども同士はすぐに仲良くなり、キャッキャキャッキャと沢山用意されたおもちゃ、絵本で楽しそう・・・母親同士もお互いの苦労話とこれからの生活を案じ、励まし合い、滞在した2ヶ月でずいぶん元気になれました。

でも、私は当時、そのシェルターにいながらにして生活保護申請→保護決定→引越し費用の支給申請→生活保護を受けながらの安心できる母子での生活環境を確保できたはずなのに、それができないまま、施設に入所するために転職したばかりの新しい仕事も失い(通勤は認められておらず、シェルター入所のことも他言できないというルールを頑なに守り)、DVの加害者にいつまた襲われるかもしれないという恐怖で就職活動も難しい、行く当てもない中、施設の退所期間だからと居場所を追われました。その後は、綱渡りの生活が数年続きました。

かつての私のように路頭に迷うことなく、生活保護制度を正しく理解し、生活を立て直してほしい、恵まれた先進国日本に生きている安心を実感してほしい、その一心で行政書士として生活保護行政に日々携わっています。この貴重な生活保護連載という機会を通して、今後も一記事でも役立つ内容を発信できればと思います。弱い立場の方の声は、とても小さく、大きな声にかき消されてしまいがちです。行政書士がスピーカーの役割となって、発信できればと思います。

昨年、弊所の原優美がスイスジュネーブで開催された国連女性差別撤廃委員会にご一緒したジャーナリストのみわよしこさんが来阪されました。

バリアフリーの大阪梅田のお店は広々、ビュッフェを楽しみました。

自宅不在時も、カメラでペットの様子をリアルタイムで確認できて安心。

生活保護行政、障害福祉、科学技術分野、メディア業界と他分野に精通され、世界を飛び回る、知見の広い、みわよしこさんのお話からは、毎回学ばせて頂くことが沢山あります。

お互い仕事後、みわさんは当日新幹線でお帰りになる前の平日の短い時間でしたが、大変有意義なひとときでした。

来週は、誰もが知る大手企業が関わる偽装請負の被害に遭いながらも法的救済がされないまま、長期にわたる強いストレスと経済的困窮、給与未払いにより心身の健康を脅かされて生活保護に至った北海道在住、40歳女性のお話です。

法律があるのに、犯罪被害に遭った人が、なぜ救済されないのか?資力のない人の弁護士費用を支援する法テラスがあるのに、なぜ弁護士が見つからないのか?既存のメディアに報じられにくい、この問題にスポットライトを当てます。