PTAはナニサマ?
前回→鈴木久美子(2)
7.PTA役員はナニサマ?
かれこれ1ヶ月経って、暑さもだいぶ和らいだ頃、パワフルなママ友・鈴木さんからランチの誘いがあった。
9月1日の避難訓練後の教育委員会へのエアコン直談判に続き、なんとまたしても、鈴木さんは行動を起こしていたという。
「私ね、夏場の子どもたちの教室環境について、保護者がどう考えているか、アンケート調査を行えないかって、思い切ってPTA役員の人たちに提案したの。
ホントはさ、子どもを熱中症から守るためエアコン設置の署名活動しましょう!とか、最初から言いたかったところだけど、民主主義的にちゃんとアンケートを取って意見収集したうえで、子どものために親たち皆で何ができるか話し合って、っていうプロセスは踏むべきだと思って。」
高揚した様子で早口にまくしたてる鈴木さんには、少し気持ちが引いてしまうところもあるのが正直なところだ(今日は学校横の小さな喫茶店なので声のトーンも落としてほしかった。
役所や消防署警察署といった行政機関が立ち並び、銀行など民間企業もあり、それに住宅地でもある特殊な地域だけに、昼時のお店はどこもにぎわっていた)。私は自分の声をできるだけ落として、話を合わせた。

「鈴木さんの行動力は、すごいですね。私も実は、ちょっと思ってたんですよ。
防災訓練の後も、しばらくずっと暑かったじゃないですか、登下校中に熱中症にならないか心配だし、汗だくで学校にようやくたどり着いても、あの暑さでは子供がかわいそうで・・・。
行政が小学校にエアコンをつけてくれないなら、何かPTAで子どものためにできないのかなって。結局思っていただけで、秋になっちゃったんですけどね・・・。
で、そのアンケートはいつやるんですか?」
「それがさ~、聞いてよ~。全部、却下されちゃったの。ダメだって。」
「えっ、何でですか?アンケートをしたら、絶対みなさん暑さ対策が必要だって書きますよ。そうしたら、教育委員会も動いてくれるんじゃないですか?」
「そう思うでしょ?でもね、全然取り合ってくれなかったのよ。
役員の人たちの場もね、女性がホステスみたいに飲み物を男性役員たちに給仕したり、何だか異様な雰囲気だったよ。
最初はね、教頭先生に頼みに行ったの。
暑さのアンケートさせてもらえませんか?って。そしたら、そういうことはPTAでできると思いますよ、女性のPTA副会長さんが今学校に来てるから紹介しますよって。
そのPTA副会長、すっごい厚化粧でね、あ、これは余談だけどさ。
大阪のマダムとおばちゃんの、ちょうど中間っていう印象。
そのPTA副会長オバサンが、自分がPTA会長や役員の皆さんに会議で意見しておきますね~って上から目線で偉そうに言ったんだけど、人を介すのじゃなくて、誤解のないように私は直接他の皆さんともお話したいですって言ったのね。
そしたら、すっごいその副会長怒っちゃって、さんざん嫌みを言われてさ。皆さん、いきなり知らない人が来たらびっくりするわ、とか。
でもさぁ、同じ保護者なわけでしょう。このオバサン、何を言ってるんだろう?と思って。そのPTAの会議はいつやってるんですか?って聞いたら、1ヶ月に1回だというのね。
じゃあ、私がそのPTA役員会に参加して意見させてもらえませんか?と言ったんだけど~・・・。」
「けど?」
「役員以外は参加できませんから!って。その女性の副会長がぴしゃり。」
「えっなんでですか?PTAの役員会ってそんなに特別なものなんですか?」
「そう思うよね、やっぱり?私もさっぱり理解できなかったよ。でもね、結局教頭先生に頼んだら、出席させてもらえたの。それで意見をしてみたら、PTA副会長が言った通りでさ、
『東京から来たよそ者のくせに意見するな』
って、男性役員に面と向かって言われちゃって。ただただ、びっくりよ!こう、椅子にのけぞって、偉そうな感じで座ってて。私は敬語で話をするんだけど、Gパンはいたオジサンに、べらんめえ口調で返されちゃって。」
「・・・それはそうですよね・・・そんな、東京から来たよそ者って、ひどい。普通、そんなこと言いませんよね?周りの方はどんな反応だったんですか?」
「それがね、他の役員も男性はにやにやして同調しているし、女性は黙って給仕してるだけ。本当に異様な雰囲気だった。まあ、私はそんなこと気にしてないけどね。」
「あっそういえば、鈴木さんは横浜出身なのにね。大阪の人からしたら、横浜も東京も同じなんですね~なんか笑っちゃいますね。そうそう、鈴木さんが大阪弁じゃないから余計に気に食わなかったのかもしれないね。
私も、PTAクラス委員の集まりで、東京の人の言葉はきつく感じることがあるって他のママさんからやんわりと言われたことがあるんですよ。
ところで、うちは主人の転勤で東京から大阪に越してきたんですけど、鈴木さんもご主人のお仕事の関係で横浜から大阪にいらしたの?」
「うーん、うちはちょっと違うんだよね。主人は、子どものパパは、海外で仕事してるから・・・私たち親子は気ままなの。
最初は、河内長野っていうところに住んだんだけど・・・ちょっと方言がきつすぎて・・・なじめなくてね。
大阪市内の治安と教育環境が良いところをネットで調べて、この天王寺が大阪の文教区のようだったから、マンションを買ったの。
あ、娘の美香と二人だけだから、狭いところだけどね。」
ハキハキ話す鈴木さんにしては珍しく、歯切れが悪い話し方だった。
河内長野?あんな田舎になぜ?わざわざ母子で横浜の都会から来るの?
不思議な説明だったけれど、これ以上は聞いてはいけないような気がした。
「そうそう、それで肝心のアンケートは却下されちゃったんですね?」
「うん、そうなの。でね、アンケート調査には印刷代がかかるから、役員だけの判断では行えないんだって言われたの。」
「え~紙代って、あの『わら半紙』ですよね。あんなの安いでしょう?それって、必要経費じゃないんですか?子どものための。」
「私も、そう思ったの。だから、ちょっと食い下がってみたよ。紙を私が寄付すればいいですか?って。そうしたら、今度はインク代がかかるって。」
思わず吹き出してしまった。
「あははは・・・それなら、インク代も用意すればいいんですかねぇ。」
「いやいや、それも言ったんだけどね。プリンターを動かす電気代がかかるって次は言われたのよ。」
しばらく2人で笑いあった。こんな風に、人目を気にせず、大きな声で笑うのは久しぶりだった。
「でもね、私やっぱり納得できなくって。せっかく高いPTA会費を支払っているのに、子どものための暑さ対策を保護者で考えるためのアンケートもできないんですか?ってもう一度聞いたの。」
「すごーい鈴木さん、なかなか強いですね。私なら、東京から来たよそ者のくせにって言われた一言で、怖くて帰っちゃうかも・・・。」
「そうだね~その後もひどかったよ。私、5人くらいの男性に一斉に責められてさ。女性はみんな黙っているだけだし。
でもね、まだ唯一まともそうな男性役員さんが提案してくれたの。納得できないなら、年に一回、春に行われるPTA総会で、暑さ調査のアンケートをするための紙代を捻出してもいいかどうかを、PTA会員の皆さんに聞いてみましょうか?って。」
「へえー・・・まあ、たしかに民主主義的ですけど・・・・半年以上先ですよね。」
「まあ、ね。意味ないじゃん、この猛暑の夏に何もしないのかって私も思った。
でも、その提案は受け入れたよ。印刷代も、たしかに保護者の皆さんが支払う大切なPTA会費だもんね。フェアな提案だと思ったよ。ちゃんとPTA会費を管理してるのかなって。」
「そうなんですね・・・。何だかもどかしいですけど。来年の春に期待しましょう!アンケートをすれば、同じ思いの保護者の方で、何か暑さ対策が考えられるんじゃないですかね。」
そう言いながらも、私はどこか他人事のような気もしていた。子どものために行動できる鈴木さんを尊敬する気持ちはあった。
でも、教育委員会に足を運んだり、PTAの役員会にも出向いて一人で大勢の地元の偉い人たちに対して意見をするとか、私には到底できないことだと思ったし、どこか現実離れしているように思えた。
続き→約束はなかったことに
※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


