PTA会長ってえらいの?(2)
3.PTA会長ってえらいの?(2)
「何も地元の居酒屋に夜中に二人で来なくたって、梅田や難波に行けばいいのにね~」
「この前も学校祭の屋台で私とミキママが手伝おうとしたらさ~、自分の男に何するの?的な感じで、こう、間に入ってこようとするのあの人。」
それにしても、母親同士の陰口は留まるところを知らない。今度は、PTA男女役員同士の不倫の噂に花を咲かせている。
給食試食会の残飯を許せず私と協力して完食した宮田さんは、こういった母親同士の陰口大会には一切加わらなかった。
「やれる人がやればいいと思うの、PTA活動は。」
と言っていた。
ふくよかな昭和のお母さんといった風貌の宮田さんは、裕福でおしゃれにお金をかけられる専業主婦が、このご時世でも珍しく多い土地柄の(ここ一帯は、医師や弁護士がこぞって土地やマンションを買う、いわゆる高級住宅地だった。しかし、大阪は不思議である。この天王寺区のすぐ隣は、隠れ逃亡被疑者が多いことで有名な西成区と、在住外国人率が高く犯罪率も高いとされる生野区なのだから。一つ路地を行くだけで、がらりと街の雰囲気が変わるのだ。)他のお母さん方からはどこか距離を置かれていたようだが、私は好感を抱いた。
そして、こういう大らかな、誰に対しても対応が変わらない、人の好い人がPTA会長になるべきだとも思った。
ただ、子どもの学年が異なるため、宮田さんとは給食試食会以後は話す機会は残念ながらあまりなかった。
それでも、地元のスーパーの食料品コーナーやレジで私を見かけると、必ず宮田さんは
「お!小川さーん!今日の夕食はなに?」
などと言って、気軽に声をかけてくれた。
県外からやってきたばかりの孤独な子育て母の私の心を、時折お日様のように現れては、温めてくれる存在だった。
乳飲み子の下の子のおむつ替え、吐いたミルクの後始末やらで毎日はあっという間。
それでも、律義な私は下の子をベビーカーに乗せ、天気の悪い日はだっこ紐でくくり、PTAの活動がある日には必ず学校へ時間通りに出向いた。
入学式の4月から、5月の運動会までは瞬く間に過ぎた。
運動会予行練習では、毎回PTA会長が話をする時間が設けられていて、まるで学校管理職さながらに話をする。
子どもの頃から、私も目にしていた、いわば慣れ親しんだ光景ではあった。しかし、だんだんと、なぜ?どうして?そんな疑問がフツフツと湧き上がってくるようになったのだ。

疑問が生じる暇があったのは、PTA会長の話が冗長で、毎度毎度の話を聞かねばならない時間が退屈で苦痛そのものだったことにも起因したかもしれない。
せめて短時間で話をまとめる力量を持ち合わせた人が、PTA会長として適任だろうと思ったものだ。
私の方がまだスピーチは上手いかもしれない、などと思って空を仰いだ。息子の体重は日に日に重くなり、肩に食い込むだっこ紐の痛いこと・・・まだ終わらないのか!!
学校からの便りだと思って配られたプリントをよくよく見ると、PTA会長の名前が印字された文書であることも多かった。
子育て奮闘の中がんばってPTAの活動に関わりながらも、実は学校とPTAの関係は、よくわからない。
説明もなかったし、お母さん同士もそういう話には及ばなかった。
ただ、日常の愚痴や天気の話(から洗濯の乾きの話、柔軟剤の話へ及ぶのが常)、旦那との情事の頻度の話など(これが実に小学校母の話のネタの頻度的に多いことには男性は驚くのではないか)たわいのない話ばかりだった。
そして私は、つくづくPTAとはよくわからない組織だと、感じるようになっていった。
「ママ、私のクラスにいる森本君のお父さんってPTA会長なんだって!すごくない?」
「どうしてすごいの?校長先生や教頭先生とはちがって、ママやパパと同じ保護者の一人なんだよ?」
「え~、本当?でもみんな、PTA会長がお父さんなんてすごい!かっこいい!って言ってたよ。先生だって、この前森本君のお父さんが来たとき、お客さんにするみたいに丁寧に挨拶してたよ。運動会とかでも、ママたちは一日中立ってなきゃいけないけど、森本君のお父さんにはテントとか椅子も用意されてるもん。いろいろな行事を先生たちと見学したりしてるし。あっ、もしかして生徒会長みたいな感じ?じゃあ、選挙もあるんでしょ?パパも立候補してよ!私もみんなにすごいって言われたい!」
私は、半ばあきれ顔で答えた。
「パパは、毎日仕事で忙しいでしょ?それじゃあ、愛子ちゃん。ママにPTA会長になってほしい?」
「えー、女の人は会長になれないんじゃないの?だって東京の学校でも男の人がPTA会長で、女の人がPTA会長になったとこ見たことないもん。やっぱりパパがなるしかないよ~。」
「そんなわけないでしょう。昔は違ったけど、少なくとも今は、男女平等なんだよ。女の人もPTA会長になりたかったら立候補していいんだよ。たぶんね・・・。」
「じゃあ、何でいつも男の人が会長なの?」
「なんでだろうねえ。女の人は家事とか子育てで忙しいんじゃない?」
そうなのだ。私もいつも同じ疑問を抱いていた。普段さまざまな行事の手伝いをするのはお母さんたち。それなのに、会長はなぜ男性ばかりなのだろう。
男性が会長である必要性が、どこにあるのだろうか。その理由を探せども探せども、迷宮入りしてしまう。名探偵コナンでも見つけられないだろう。
続き→2010年猛暑の夏
※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


