約束はなかったことに
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7.約束はなかったことに
2011年の4月、娘の愛子は3年生になった。
鈴木さんの娘さんの美香ちゃんは明るく聡明な子で、昨年2年生の頃は隣のクラスだったにもかかわらず、愛子とすっかり仲良くなっていた。だから、今年は偶然にも一緒のクラスになったことを愛子はこの上なく喜んでいた。
そして鈴木さんが待ちに待っていた、PTA総会の日が来た。
鈴木さんに誘われて、私も参加した。

鈴木さんは、
「半年間長かったけど、ようやく聞いてもらえるんだ」
と、意気揚々としていた。
しかし現実は、こちらの思惑とは全く違う方向へと進んだ。
PTA総会の中で、最初から最後までアンケートに関して触れられる事はなかった。
総会は淡々と進められ、鈴木さんとPTA役員らとの約束であった、「暑さ対策のアンケートをするための紙代とインク代とプリンターの印刷稼働電気代の支出の是非」を問うという、複雑だけれども単純な、金額的には小さなことだけれども鈴木さんにとっては大きな約束が果たされることはなかったのだ。
このままでは、我慢して半年間待っていた意味がない。
このまま終わらせてはいけない。
約束が違う。
総会が終わるや否や、鈴木さんはPTA役員の男性1人に声をかけた。
「あのぅ、アンケートの紙代支出の是非を問う、っていう件はどうなったんでしょうか?」
しかし帰ってきた言葉は
「はあ?そんな約束してへんけど‼」
PTA役員の人たちは顔を見合わせて、鈴木さんを馬鹿にしたように高笑いをしていた。
傍から見ている私も不愉快な気分になるほどの。
鈴木さんが言っていた、異様な雰囲気というのは、これだったのか。
納得できない気持ち、理不尽という言葉で頭が一杯になる。
鈴木さんの悔しい気持ちが手に取るようにわかる。
この場で、鈴木さんは一人で戦っていた。誰も味方はいない。
味方になれるのは自分だけ。
でも、出来なかった。
今後のことも考えると、鈴木さんのように意見することは憚られた。
集団から浮くのが怖くなった。
そんな黙って見ているしかない自分を苦々しく、またお友達の鈴木さんに堂々と味方してあげることができず、申し訳ない気持ちに襲われた。
鈴木さんは、落胆とも怒りとも取れるような、何とも言えない表情を浮かべていた。
半年間待っていた鈴木さんにしてみれば、裏切られた気持ちになって当然だったろう。私も、大の大人が嘘をつくなんて信じられず、何だか現実感がなかった。
鈴木さんは(黙っていただけだが、私も一緒に)、教頭先生にも話をしに行ったが、
「PTAのことは、私に言われても・・・」
と、逃げるように去って行ってしまった。
こうして何も得ないままPTA総会は終了した。
その帰り、私と鈴木さんは子どもたちも連れて、私の家でお茶をすることにした。
3年生で一緒のクラスになった愛子と美香ちゃんは、学校がない日も一緒にいられるのが楽しいのか、いつも以上にきゃあきゃあと騒いでいた。
「ママたち、大事なお話するからね。しばらく2人静かに遊んでいてね。」
子ども部屋の扉を閉め、和室に案内すると、鈴木さんは思い詰めたように切り出した。
※この連載は実話を元にしたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


