遺言・相続ブログ連載第四回目は、元気なうちから財産の管理を信頼できるお子さんなど家族に託し、遺言の機能も実質的に備えるという、大変便利な家族信託という制度について。

まだ新しい制度なので、専門家においても詳しく知る人の少ない「家族信託」について、可能な限りわかりやすい言葉で詳しく解説していきたいと思います。

家族信託という新しい制度

小泉元首相が規制緩和に取り組んだことで、平成19年に信託法という法律が改正されて、それまでは信託銀行しか利用できなかった信託を、一般の人も利用できるようになりました。

大手銀行でも遺言や相続の無料相談会が行われていて、安心感があるように思えますが、金融機関の専門は商事信託(資産をプロに預けて運用してもらうこと)で、あくまでも金融機関に営利メリットがあることが前提になってきます。

家族信託は新しい制度なので、税理士、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家でも、家族信託について詳しく知らないケースが多々あります。

遺言については扱っている専門家が多いのですが、家族信託についての説明や提案がないままに進めてしまうと、遺言ではできないことは諦めるしかなくなってしまいます。

遺言と家族信託の違い

遺言では不可能で、家族信託では可能なこと、具体的にご紹介しましょう。

①私の死後、私の資産を相続した家族の死後の私の資産のゆくえが気になる

私が死んだ後、残された妻には自分の資産を相続してもらって構わないけれど、妻が死んだ後に疎遠だった妻の兄弟には私の資産を持っていかれたくない、というケース。

夫婦の間に子供がいなければ、夫から妻に引き継がれた資産は、妻亡き後は妻の親兄弟に相続権が発生します。

遺言では、「私」の希望は叶えることができません。なぜなら、遺言はあくまでも「私」が亡くなった時点の遺産承継にしか、効力を持たないからです。

つまり、私が死んで、さらにその先に妻が死んだときのことまで遺言に書いても、効力は発生しません。

でも、家族信託の場合は、「私」が他界したあと、妻が他界したあとのことまで、「私の資産」に関する指定が可能なのです。たとえば、妻亡き後は夫婦が住んでいた家を、前妻の子に相続させたり、自分の兄弟に相続させるということができるのです。

②親が認知症になった後の不動産の売却や賃貸ができるのか気になる

平成27年1月からは相続税の基礎控除が引き下げられたことから、基礎控除は5000万円から3000万円に、法定相続人1人あたりの控除額は1000万円から600万円になりました。子ども二人が相続人の親御さんの場合、原則4200万円以上の資産があると相続税がかかるということになります。

厚生労働省の発表によると、認知症高齢者の数は2025年には約700万人と試算されています。これは、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症になるという推計でもあります。

相続税対策で親御さんの不動産売却や賃貸による資産運用を考える40~60代の方が多いですが、親御さんがいざ認知症になってからだと、不動産会社から後見人をつけるよう言われてしまう可能性があるのです。

認知症になると、本人の意思確認が必要とされる不動産の売却、抵当権設定、預金の引き出し、有価証券の売却などもできなくなる可能性があります。でも、後見制度は前回のブログでも書いたように、ご本人の財産を守ることが目的なので、不動産を売却して投資したり、賃貸に出すということは難しくなってしまいます。

でも、遺言は生前の認知症になったときのために使うことはできません。ここで、死後の相続時だけでなく、老後に備えて信頼できる家族に財産管理を託すことのできる、家族信託の出番です。

親御さんが委託者となって、自分の資産(不動産や現金など)を息子さんに預ける信託契約を行うことで、息子さんは受託者となります。信託された親御さんの財産から発生する利益(たとえば不動産の賃料や売却金など)を親御さんが生きている間は親御さんが受け取る、親御さん亡き後は別の人が受け取る、という指定もできます。

この、信託財産から発生する利益や売却益を受け取る権利のある人(受益権のある人)のことを、受益者と呼びます。

家族だけでは自分が生きている間に他人にだまされて資産を使い込まれないか心配、という場合は、信託監督人という家族以外の第三者をあらかじめ指定してつけることもできます。

後見のように、裁判官に見ず知らずの弁護士や行政書士を後見人に指定されるのではなく、自分であらかじめ専門家を選ぶことができるというわけです。弁護士の先生も、税理士の先生も、人柄から経験、能力まで本当に色々です。

財産管理を任せられた家族も、親御さんがあらかじめ「この専門家なら任せられる!」という人を見極めて信託監督人に指定しておくことで、安心感にもつながります。

また、委託者である親御さんが財産を託した、受益者である息子さんが自営業者などで将来的に破産の可能性もある場合、家族信託においては受託者が破産しても「倒産隔離機能」があるため委託者の財産は守られるのです。

③自分が死んだ後、不動産を共有で相続する子どもたちや兄弟が揉めないか心配

不動産を共有で相続すると、いざ売却や建て替えをしたいというとき、共有者全員の承諾が必要になります。共有者の一人でも、認知症になったりして意思判断ができなくなると、不動産の処分をしたくてもできなくなってしまいます。

これも、遺言では死後の自分の資産のことまで指定できません。でも家族信託なら契約なので、不動産の共有者の一人や自分の家族などをあらかじめ受託者としておくことで、共有名義人の誰かが判断能力を失っても、受託者一人の判断で不動産を管理・処分することができるのでトラブルの防止になります。

ほぼ共有を解消できたと同じ状態になるとはいえ、その受託者であり共有名義人の一人の判断で得られた不動産の収益などの利益を共有名義人全員で公平、均等に分ける(受益権を2分の1づつ分けて相続など)、という内容で決めておけば、不公平感もないというわけです。

受託者として財産管理・運用・処分する人に事務報酬として、毎月〇万円支払う、という家族信託の内容にすることもできます。

④障がいのある子が亡くなった後、財産を国庫に納めたくない

一人っ子で障がいのある子が親御さんの遺産を相続した場合、その子が亡くなったときに相続する人がいないとなると、その財産は国庫に納められることになります。

でも、家族信託であれば、一人残されたお子さんの死後の相続先まで指定することができるのです。

完璧な遺言を公正証書で作成しておけば相続対策はばっちり、というわけでは必ずしもないのです。なぜなら、遺言の効果が発揮されるのは、本人一代の死後のみだからです。認知高齢者になったときなど、生前の財産管理には効果がないのです。

家族信託契約には幅広い知識が必要

家族信託の内容は、まさにオーダーメイド設計です。それだけに、コンサルティング力のある専門家に相談することが、重要ともいえます。行政書士法人ひとみ綜合法務事務所では、信託財産に不動産が含まれる場合は提携司法書士に登記依頼します(ご自身で行うことも可能です)。

また、信託契約の場合、受益権の設定の仕方、設定後に受益権が動いた場合に贈与税や相続税が課税されますが、このあたりは提携税理士がわかりやすくお客様に説明します。

家族信託契約の中に不動産がある場合は、登記申請時に評価額に0.4%(土地については来年3月31日まで0.3%)をかけた金額の登録免許税が必要になります。

税金の計算はピンとこない方が多いので、例を挙げて説明します。とても簡単です。

土地1000万円、建物1000万円の不動産を令和2年1月に登記申請する際は、1000万円×0.3%、1000万円×0.4%、合計7万円の登録免許税が必要です。同じことを令和2年4月に行う場合は、8万円の登録免許税が必要というわけです。

2000万円の価値のある不動産というのはなかなか立派な不動産ですが、一般庶民でもローンを組んでマイホームとして手の届く範囲という場合が多いでしょう。

家族信託をして、名義人のお父さんが突然交通事故などで寝たきりになった場合などに備えて、子の判断で不動産処分をできるようにしておく安心感は、登録免許税だけだと7~8万円でできるということです。

家族信託を検討した方がいい人とは?

家族信託は資産家や経営者といったお金持ちに限らず、誰でも気軽に利用できます。家族会議を開いて話し合いをして、それぞれのご家族に合った将来のプランを柔軟に設計することが可能です。

ただ、誰にとっても家族信託が一番良いというわけではなく、遺言だけで事足りるケースもあります。
それでは、どういう方が家族信託を利用すると、メリットがあるのでしょうか。

①配偶者が既に亡くなって元配偶者の財産を相続している方
②相続税がかかる資産をお持ちの方
③子どもがいない方
④障がいを持つお子さんの将来が心配な親御さん
⑤収益物件を所有する方
⑥相続人の中に不仲な人がいる方、相続人同士が仲が悪いケース
⑦事業経営者

上記①~⑦のいずれか1つでも該当する方は、家族信託を一度検討してみる価値はありそうです。

家族信託は便利な新しい可能性を秘めた制度ですが、ただ家族信託を簡単に使えばいい、というものではありません。信頼できる家族間で、とことん話をして、納得できた形を契約にして将来まで保障するのです。

死後だけでなく、生きて元気なうちから活用できて、しかも自分が死んだ後だけでなく二次、三次相続の対策も一気にできる家族信託は、新しい相続対策の選択肢の一つです。

すぐに家族信託を発動させるのではなく、遺言を作成しておいて、ご本人が亡くなった時に信託を発動させる方が良い場合もあります。

遺言公正証書だけではカバー出来ない部分も家族信託で

これまでに行政書士法人ひとみ綜合法務事務所でサポートしたケースで、
「とにかく長男の嫁にだけは財産を残したくない!」
というお姑さんがいらっしゃいました。

公正証書遺言の作成のサポートだけを行政書士法人ひとみ綜合法務事務所でさせていただき、実際に効果が発揮されるのは長男の死後というわけです。

二次相続以降の財産承継先をご本人が決めることができるというのが、家族信託の最大のメリットの一つです。ただし、遺留分がなくなるわけではないので、注意が必要です。

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所では、お客様それぞれの資産、ご希望、家族関係に合わせて、オーダーメイドのプランニング、ご提案をさせていただきます。必要に応じて、ご家庭に出張して、家族会議の司会進行をさせていただくことも多々あります。

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