生活保護を受給するにあたり、まずしなければいけないのは役所への申請です。

この申請方法は生活保護法の第24条によって一定の事項が記載された書面でしなければならないとされていますが、同時に同じ条文の中で場合によっては書面でなくても良いとされています。

(申請による保護の開始及び変更)
第二四条 保護の開始を申請する者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。ただし、当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない。

場合によっては口頭での申請でも良いというわけです。
ただ書面でもって申請をした場合であってもその申請を福祉事務所が受理してくれなければ生活保護の審査自体が開始されません。逆に言えば申請を受理した以上は審査を開始しなければいけないのです。

そこで役所によっては、様々な理由を付けてこの受理をしない、つまり申請書を受け取らないという「水際作戦」を行っているところもまだまだ存在します。もちろんそうではない役所もたくさん存在します。

当事務所が生活保護開始申請をサポートする場合、たとえどの都道府県のどの自治体であったとしても、申請は100%受理されます。が、そのあたりはまた別のお話。

今回はそもそも生活保護の申請は一体誰ができるのかという話です。

生活保護開始申請においては、生活保護が必要な人のことを「要保護者」と呼びます。それに対して申請をする人のことは「申請者」と呼びます。この「要保護者」と「申請者」は、同じ人である場合もあれば、それぞれ違う人物である場合もあります。

つまり、実際に生活保護が必要な人「以外」の人が申請人になることもあるのです。

生活保護の申請は誰ができるのか

ではでは、生活保護の申請は本人以外だれが出来るのでしょうか。
これは生活保護法の中で明確に決められています。

(申請保護の原則)
第七条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。

生活保護法 第7条

後段の但し書きの部分をのぞけば、申請が出来るのは

  • 要保護者(本人)

  • その扶養義務者

  • その他の同居の親族

以上の3者です。

要保護者

要保護者については生活保護法第6条の2で定義されています。

(用語の定義)
第六条
2 この法律において「要保護者」とは、現に保護を受けているといないとにかかわらず、保護を必要とする状態にある者をいう。

本人が自分自身で生活保護の開始申請ができるのは当然です。ただ、扶養義務者や同居の親族が全くいない場合に、当の本人が高齢や病気などで自分自身の申請が出来ないと大変です。

そんなときは、生活保護法第7条の後段部分の但し書きにあるように、役所側が職権で保護の開始を決定することも可能です。
当事務所が扱った過去の案件において、実際にこれに該当したケースもありました。

その扶養義務者

要保護者の扶養義務者です。
誰が扶養義務者に該当するかは民法で定義されています。

(同居、協力及び扶助の義務)
第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法・第752条

(扶養義務者)
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

民法・第877条

夫婦、直系血族及び兄弟姉妹が扶養義務者に該当します。次に定義される親族と違い、こちらは同居である必要はありません。

その他の同居の親族

親族がどこまでの範囲なのかも民法で定義されています。

(親族の範囲)
第725条 次に掲げる者は、親族とする。
一 6親等内の血族
二 配偶者
三 3親等内の姻族

民法・第725条

(親族間の扶け合い)
第730条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。

民法・第730条

6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族が該当します。

弁護士でも生活保護の代理申請は不可とされることもある

上述した3者であれば、要保護者の代わりに申請者として生活保護の開始申請をすることが法律でも認められています。

では、その他の者は委任を受けて代理人として生活保護申請をすることは可能なのでしょうか?弁護士等の士業が代理人となることは可能なのでしょうか?

実はこれは明確に定められておらず、解釈によって争いが起こっている部分でもあります。

生活保護の審査において役所の内部規定ともいえる生活保護手帳 別冊問答集の現時点(2018/01)での最新版、別冊問答集2017のP.351では下記のような記載があります。

以下、別冊問答集2017より抜粋

問9-2 代理人による保護の申請
(問)代理人による保護の申請は認められるのか
(答え)民法における代理とは、代理人が、代理権の範囲で、代理人自身の判断でいかなる法律行為をするかを決め、意思表示を行うものとされている。これに対して生活保護の申請は、本人の意思に基づくものであることを大原則としている。このことは、仮に要保護状態にあったとしても生活保護の申請をすることか、しないかの判断を行うのはあくまで本人であるということを意味しており、代理人が判断すべきものではない。また、要保護者本人に十分な意思能力がない場合にあって、急迫した状況にあると認められる場合には法第25条の規定により、実施機関は職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなくてはならないこととなっている。

以上のことから代理人による保護申請はなじまないものと解することができる。

なお、本人が自らの意思で記載した申請書を代理人が持参した場合については、これは代理ではなく、使者として捉えるべきであり、そこで行われた申請は有効になるので留意が必要である。

この生活保護手帳別冊問答集2017は、平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保護問答集について」を基に、作成されているものです。
すなわち、厚生労働省の見解がそのまま記載されていると考えて問題ありません。

その中で明確に「以上のことから代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」と記載されています。言葉通りに理解すると、生活保護法第7条で定められた3者以外が要保護者に代理して申請を行うことは認めない方針である、という意味合いが強いと言えるでしょう。

しかしそれでは弁護士であったとしても代理申請が出来ないことになってしまいます。
これにつきましては同年平成21年に奈良弁護士会より反対意見が表明されています。
生活保護申請の代理に関する会長声明 | 奈良弁護士会

少し抜き出します。

厚生労働省が本年3月に策定した生活保護問答集(以下、「問答集」という)では、「代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」との見解が表明されている。この問答集は、生活保護行政の運用の方針等を示すものとして取り扱われており、今後、全国各地の実施機関において、弁護士による代理申請を受付けない、あるいは弁護士を申請者の代理人として認めないとの対応がなされる可能性がある。

しかし、上記のような見解は不当であり、当会は到底これを容認することはできない。厚生労働省は、直ちに問答集における上記見解を削除すべきである。

また、各実施機関は、今後も、申請者から委任を受けた弁護士を申請者の代理人として認め、そのように取り扱うべきである。厚生労働省が本年3月に策定した生活保護問答集(以下、「問答集」という)では、「代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」との見解が表明されている。この問答集は、生活保護行政の運用の方針等を示すものとして取り扱われており、今後、全国各地の実施機関において、弁護士による代理申請を受付けない、あるいは弁護士を申請者の代理人として認めないとの対応がなされる可能性がある。

しかし、上記のような見解は不当であり、当会は到底これを容認することはできない。厚生労働省は、直ちに問答集における上記見解を削除すべきである。

また、各実施機関は、今後も、申請者から委任を受けた弁護士を申請者の代理人として認め、そのように取り扱うべきである。

生活保護の代理申請に関しては、弁護士であれば代理できるともできないとも言えます。

では現場ではどういった状況になっているのでしょうか。実際のところは弁護士が本人の申請に同行する、というケースがほとんどです。代理申請ではなくあくまで本人申請であり、それに弁護士が付き添っているという形です。

少し特殊な特定行政書士の制度

当事務所においては、そもそも行政書士事務所であり、弁護士のように本人の代理で申請をするのはどうかという問題自体が発生しません。その部分についてはクリアした形で生活保護の申請をサポートしています。

ただ、ひとつの条件が発生した場合に、申請人の代理人として役所へ行政不服申立てを行うことができます。その条件とは「当事務所の行政書士が代理作成した申請書での申請が却下された」場合です。

平成26年に行政書士法が改正され、特定行政書士という制度ができました。この制度により、日本行政書士連合会が実施する研修を修了し考査に合格した行政書士は、特定行政書士と呼ばれ、自身が作成した申請書が役所に却下された際には、申請者本人に代理し、役所に不服申立てができるようになったのです。

特定行政書士法定研修|日本行政書士会連合会

当事務所に所属する行政書士は、全員この「特定行政書士」の資格を保有しています。すなわち、当事務所が代理作成した生活保護開始申請書が却下された場合には、本人の代理人として役所に対し不服申立てを行うことが可能です。

身内の方からの依頼も非常に多い

さてこれまで述べたように、法律上明確に要保護者以外で生活保護の申請ができるのは、要保護者の扶養義務者・その他の同居の親族です。
当事務所において、生活に困窮している本人から直接のご依頼ももちろん多いですが、その身内の方からの依頼も非常に多いです。

本人が入院中であったり、また認知症や高齢などで自身で生活保護の申請ができない場合、ご身内の方が申請者となって申請をするケースはたくさんありました。

例えば岩手県に住む人が、九州に住んでいる弟に生活保護を受給させるために申請人となって申請したケース。

例えば、宮崎に住む弟が同じ市内で別居している統合失調症を抱えた姉のために生活保護の申請人になったケース。

例えば、茨城県に住む娘さんがグループホームに入居している認知症の父のために申請人になった案件。

例えば、埼玉県に住む長女が離れて暮らす両親と病気を抱えた妹のために申請人になって生活保護申請を申し立てた事例。

これらの事例以外にも、これまで生活に困窮している本人の生活を支えてきたご両親、娘さん、息子さん、ご兄弟からの申請をサポートしてきた案件が数えきれないほどあります。

何らかの事情により本人による申請手続きが全くできない場合でも、身内や親族の方からの申請により保護開始に至ることは可能です。似たような状況で悩まれている方は是非ご相談下さい。

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