平日は毎日夜遅くまで相談のお客様が来られるので、連続ドラマはもう久しく見ていませんでした。が、今期のフジテレビ系列のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』は、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所にもっとも多い生活保護相談に関する内容ということだったので、毎回録画して見ることにしました。

誤解を招くような表現も

初回放送の第一話から、現実のケースワーカー、役所対応との違いやそもそも根本の法的解釈の誤解などツッコミどころがありすぎて、そういう意味では、(非現実的で)「面白かった」かもしれません。

ただ、生活保護を受給されている方、そのご家族の不安をあおるような役所の場面、世の生活保護に対する誤解を一層招くような表現もあったので、そこは制作放映側の問題だと思います。

たとえば、東区役所の生活課に配属された新人公務員の上司役の発言。
「困っているからといって素直に聞いていたら、お金がいくらあっても足りません。」

生活に困っているという、切実かつデリケートな悩みを抱え、勇気を出して役所に相談に行こうとしている方がこのドラマのシーンを見て、果たしてどう感じるでしょうか。

自殺をしてしまった生活保護受給者について、ドラマの中で女性公務員役の女性が放った内容はこちら。
「月13万円の生活保護費は国民の税金だったんだから、それが減ってよかった」

血税で生活する市民はいなくなってよかったと、全体の奉仕者であるべき公務員が仕事中に公共の場で発言するシーン。フィクションだからといって、影響を受けやすい子どもも多く視聴する21時台の全国テレビで流して良い内容とは思えません。

事実と間違いが入り交じっているシーンの数々

ケースワーカーによる家庭訪問や就労指導など、妙に生活保護行政のリアリティを感じさせるだけに、深刻な誤解を招くのではと心配になった場面もありました。

「念のため冷蔵庫見せて下さい!」
22歳の新人ケースワーカー役のヒロインが、家庭訪問先の生活保護受給者の男性の冷蔵庫を勝手に開けて中身を確認するシーン。

裁判所の令状を提示する警察官でもない、若い公務員によって勝手に家の中の物を触られる。嫌がっているのに冷蔵庫や棚の中を調べられる。

このようなプライバシーの侵害は、本来あり得ないことです。しかしながら、実際にこのような不適切な対応をするケースワーカーがいることは、私ども行政書士法人ひとみ綜合法務事務所はお客様のご相談を通じて、また家庭訪問同席した際に目撃しています。
※このような場合は、当行政書士法人ひとみ綜合法務事務所は管轄福祉事務所長に対して、書面抗議し、書面回答と是正を即時求めます。

全国ネットのテレビドラマでこうした一部のケースワーカーの問題ある行動をあたかも通常行われているかのように放送することで、不安になるのは生活保護受給者とそのご家族でしょう。

さらに、生活に困ってこれから生活保護を受けようとする方も、あんな風に家の中に若い公務員が入ってきて無断で家具家電に触られるのではと考えたら、申請を躊躇する方もいるでしょう。

実際、私が毎日生活保護相談を受ける中で、家庭訪問で役所の方がどこまでする権限があるのかという質問をされる方の割合は非常に多いのです。

家の中をぐるりを見渡し、
「部屋を見たところ、特に高価な買い物をしているわけでもないですね」
と上から目線で話す若手ケースワーカー。

「やめてください、やめてください!」
叫ぶ生活保護受給者の方を無視し、勝手に冷蔵庫を開けて中を確認するというケースワーカーの不適切な行動を何らの注釈もせずテレビ放送することで、世間の生活保護に対する偏見を一層助長する懸念があります。

また、誠実に職務をこなしているケースワーカーにも火の粉がかかるのではないかと、同情してしまいます。

行政指導に関する勘違い

現実と乖離する問題山積みのドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」の極めつけが、最後のシーン。

就職活動をしていないと役所が判断した生活保護受給者の方に対して、新人ケースワーカーが生活保護を打ち切る指示書を出したと上司に報告するのです。

最近〇〇さん就職活動していないようだけど、どうなっているんだ?と尋ねた上司に対して、
「これ以上行政指導に従わないなら、生活保護を打ち切ります、と指示書を出しました。」
と新人ケースワーカーが返答。生活保護は打ち切られて当然、と語調を強める上司。

そもそも行政指導とは、任意の協力を求めるものです。公務員がこの指導に従うことを市民の方に対して、強要強制する権利はありません。

誤った認識が広まらないように

また、実際に生活困窮している方が就職活動をしていないという理由だけで生活保護を打ち切られるなど、私ども行政書士法人ひとみ綜合法務事務所からすれば「ありえない」行政の暴走です。

ただ、実際このようなケースワーカーの言動が本当に「ありえないのか?」と聞かれれば、そうではない現実もあります。

ドラマの中では当然のように描かれている問題あるケースワーカーの言動によって苦しめられている生活保護受給者の方からの相談が、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所には全国から多数寄せられています。

生活保護を描くこの新作ドラマは、社会問題の解決を目指すのではなく、逆に問題をより深刻に根深いものにしてしまうのではないかと危惧せずにいられません。