国際契約書の基本と作成実務

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所の設立当初は、一般の方が主にこのホームページのブログを読んで下さっていましたが、最近は行政書士、司法書士、弁護士、税理士といった同業・他士業の先生方でも閲覧者が増えてきました。

「行政書士合格を目指して試験勉強していた頃から、ブログを読んでいました!」
と、行政書士登録したばかりの先生からお声がけ頂くことも。

行政書士の業務範囲は非常に幅広く、その種類は数千ともいわれます。そのため、行政書士登録したものの、仕事の進め方に戸惑う新人さんも少なくありません。


横浜に出張した際の早朝の写真です。横浜の同業の先生にぜひご挨拶をとお声がけ頂いたものの、この日は埼玉、東京でも仕事をし、翌日は大阪で仕事なので日帰りでした。
全国の信頼できる同業・他士業の先生と繋がりを構築しているので、ご相談をお伺いした上で、その先の手続きなど事案に応じ専門の先生を行政書士法人ひとみ綜合法務事務所からご紹介させて頂くことも可能です(ご紹介料などは一切頂きません)。

今回のブログでは、2020年4月に施行された民法(債権法)改正によるポイントを含め、国際OEM契約書の基礎知識(幅広く一般の方にも役立つ内容)と国際OEM契約書の作成実務(契約書を自力作成されたい一般の方だけでなく同業の先生の実務の参考にもなるよう、実際の契約書導入部分から本文条項も多く例示して解説しています。)をまとめました。

1.ビジネスにおける契約とは

契約とは、そもそも何でしょうか。法的にいえば、当事者の一方の申込みの意思表示を他方当事者が承諾の意思表示をすることで成立する、法律行為のことを指します。

民法第522条
1.契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

※参考まで平成29年民法改正前の第522条

1.前条第1項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく相手方に対して、その延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
2.申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第1項の期間内に到達したものとみなす。

契約は申し込みと承諾によって成立するという基本原理が、平成29年民法改正によってこのように明記されるようになりました。

日本社会においては、契約の成立とは当事者間の合意によるものであり(諾成契約)、契約自由の原則により口頭でも書面でも契約は成立します。そして契約成立すると法的な拘束力が生じるのですが、ビジネスにおいては交渉の結果の合意(Agreement)は法的に適切な契約書を作成し、紛争を未然に防止することで無益なコストの発生を予防します。


以前、約束の時間に現れないスタッフを待っていたときの私の怖い表情をこっそり撮影されてしまいました。集合時間や待ち合わせについては、当事者間の意思の合致はあっても、そのことにより成立する法律行為(権利義務の発生・変更・消滅を生じさせる行為)はありません。単なる約束については、法的効果の変動を伴わないので契約とは当然異なり、約束の履行を裁判所が強制することもできません(豆知識)。

2.国際ビジネスにおける契約書の重要性と文化の違い

企業のグローバル化が進行し、かつてより顕著だった日本と欧米先進国の大手企業同士の自動車、医療、コンピュータ通信、バイオテクノロジーといった先端技術分野のみならず、中堅、中小企業間、アジア諸国との間でも資本、生産、販売、技術面での国際事業、業務提携が増加し、手続きが比較的簡単で投下資本も少なく、リスクも低い国際OEM契約に関する行政書士法人ひとみ綜合法務事務所へのお問い合わせも多くなっています。

国際OEM契約を含む国際業務提携についてご相談されるお客様からよく聞かれるのは、国際ビジネス契約における文化、法律の相違です。

西洋においては、契約書は拘束的契約(Binding Contract)として考え、英米法の法原則には口頭証拠排除の原則(Parol Evidence Rule)があります。この原則では、当事者間で最終的に契約書提携した後は、契約前の交渉中の口約束や、契約書以前の書面合意事項があっても、最終契約書の内容は覆すことができません。

常に、最終契約書の内容がビジネスにおいて優先されるため、英文国際契約書では通常、次のような完全合意条項(Entire Agreement Clause)が規定されます。

【本契約は、本契約の対象事項につき、本契約当事者間の完全、唯一の合意構成を為し、以前の口頭ないし書面による合意、約束、了解事項に優先するものとする。】

交渉事項はすべて最終契約書に統合されたと認識されるため、日本国内の契約書によく見られる、下記のようないわゆる「誠実交渉条項」は国際契約書には通常盛り込めません。

【本契約に規定のない事項、または本契約から誤解や問題が発生したときは、信義、誠実の原則の下で、交渉、解決する。】

とはいえ、行政書士の実務上は、お客様のご要望(日本企業側)で、次のような英文を国際ビジネスの契約書に盛り込むことは少なくありません。

In the event that any controversy or claim shall arise between the Parties under, out of, in connection with, or relating to this Agreement, the parties shall make good faith efforts to settle the dispute.
(本契約に定めのない事項が生じたとき、または本契約各条項の解釈について疑義が生じたときは、双方誠意をもって協議し、これを解決する)

こうした規定があると、契約成立後でも状況次第で再交渉ができると考えられ、英米法上の口頭証拠排除の原則と矛盾します。ゆえに、西洋文化の契約概念においては、このような誠実交渉条項は拘束的契約としての解釈に疑問が残るとされるものの、日本と中国などアジア諸国同士の国際契約においては双方がこうした表現を好むケースも過去多々ありました。

国際ビジネス交渉では各契約条件を注意深く理解し、最終締結された契約書が重要な役割を持つことに留意すべきです。


いつもお世話になっている弁護士の先生から、師走のご挨拶に伺いますとご連絡頂いたものの、コロナ禍において極力対面接触を避けていることから心苦しくも辞退申し上げ、行政書士が法律事務所に出向いて短時間で現在の提携業務に必要なお打ち合わせを行いました。帰り際、大阪の百貨店ではどこも行列のハラダのラスクをお土産にと頂き、榎田先生が天王寺オフィスまで差し入れで届けて下さいました。


こちらは、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所天王寺オフィス近くでいつも行列の人気チョコレートショップ『なかたに亭』。
大阪のパティシエの登竜門的お店だそうで、遠方からもお客さんが来られます。

お歳暮をお送り下さった協力・提携関係にある士業の先生や業者様には、ささやかな感謝の気持ちとして、なかたに亭のチョコレートを返礼させて頂きました。

3.OEMとは?

OEMとは、Original Equipment Manufacturing あるいは Original Equipment Manufacture の略語。Equipment=製品、manufacture=製造、日本語ではOEMのことを「相手先ブランドによる製造生産」などと訳します。自社製品の製造を自ら行わず、他者に製造、加工、供給を委託する取引を指します。

大企業に限らず、食品、医療・化粧品、アパレル、家具家電など広範囲の分野でOEMは活用されています。

グローバル社会において、企業の国際化、海外展開の第一歩は、製品の輸出。この輸出には、メーカー等企業が自社名義で通関手続き、決済等を行う直接輸出と、国内の商社や代理店などを通して行う間接輸出、直接輸出と間接輸出の併用もあります。

企業が海外に生産拠点、販売拠点を設置しての海外展開は、直接投資型。現地に単独で出資して海外現地法人を設置、現地パートナー企業と共同出資して海外に現地法人を設立、企業が海外現地法人に資本参加して国際化事業を展開、これらも全て直接投資。ただ、直接投資には、海外事業の人材確保、現地での顧客開拓、現地労働の管理、生産コスト、現地法への対応、事業再編時の撤退問題など、大きなリスクや負担が伴うため、中小企業にとっては荷が重いもの。

中小・中堅企業が海外展開する際の主軸の1つになるのが、国際的業務提携。これは契約による業務提携で、企業規模が小さいほど、海外直接投資により海外拠点を設けて事業運営するよりも投下資本は圧倒的に少なく済ますことが可能。

ことコロナ禍においては、海外事業の再編や撤退などの問題が生じた大企業も少なくありませんが、そうした場合に直接投資により設立した海外拠点からの撤退には時間、費用、手続き面で多くの負担を要します。一方で、契約による業務提携の見直しや撤退は、契約書の条件変更、解約、終了手続きなどで済ますことができます。よって、国際的業務提携は中小・中堅企業が海外展開する手段としては低リスク低コストなのです。

もちろん、デメリットもあります。主な課題としては、提携先企業の技術力、生産能力、市場での競争力、契約遵守など業務提携契約の確実性の問題、特許、著作権、営業秘密など知的財産の取り扱いの問題が挙げられます。

そのため、こうした問題が起きないよう、事前に予防措置を取っておく、すなわち契約書を作成して取り決めておくべき事項を明確に合意しておくことが大切です。

4.国際OEM契約書導入部

国際OEM契約には、次の2パターンがあります。

①海外メーカーにOEM製品の製造、加工を委託する場合(アウトバウンド型)

②海外から日本メーカーがOEM製品の製造、加工の委託を受ける場合(インバウンド型)

委託者か受託者かの立場によっても利害の違いがあり、契約内容も変わってきます。ここでは、インバウンド型OEM契約を前提として例文を挙げて解説します。

4-1.表題

OEM Manufacturing and Supply Agreement
OEM Agreement

このように、国際OEM契約の契約形態が一目で分かるような英文表記が一般的です。表題自体に法的効果はありません。

4-2.前文

THIS Original Equipment Manufacturer (OEM) Agreement is made by and between HITOMI Technology Co., Ltd., a Japanese corporation, having its registered office at (company’s address) (hereinafter referred to as HITOMI), and ENOKIDA Co., Ltd., Chinese corporation, having its registered office at (company’s Chinese address) (hereinafter referred to as ENO).
登記された事務所を(住所地)に有する日本法人であるひとみテクノロジー株式会社(以下HITOMIと称する)と(住所地)に登記された事務所を有する中国法人の榎田株式会社(以下ENOと称する)との間に締結された本契約は、以下のことを証する。

WHEREAS, ENO wishes to manufacture the products bearing ENO’s trademarks which ENO will purchase and sell, distribute the said products in the world.
ENOは、HITOMIがENOの商標を附した製品を製造し、ENOがその製品を購入し全世界で販売することを希望する。

WHEREAS, HITOMI represents to ENO that it has sufficient and requisite expertise and capabilities to manufacture and supply the said products to ENO.
HITOMIはかかる製品を製造、ENOに供給する十分な専門性および能力を保持することを表明する。

WHEREAS, HITOMI and ENO desire to enter into OEM Manufacturing and Supply Agreement under the terms and conditions hereinafter set forth.
HITOMIとENOは、本契約に記載される条件に基づき、OEM製造、供給契約を締結することを希望する。

NOW, THEREFORE, in consideration of the premised and the mutual covenants hereinafter set forth, the parties hereto agree as follows:
よって、前述の事項および本契約に規定の相互の約束を約因として、本契約当事者は以下の通り合意する。

この例文のように、OEM契約書の前文(導入部)では一般的に、
①契約日(通常は契約当事者が最後に契約書に署名した日が契約の始期)
②当事者に関する事項(法人の場合は登記された正式名称)
③説明条項(当事者の事業内容の紹介、契約に至った背景、契約の目的など)
④本文への繋ぎの文言(NOW THEREOFは慣用句)

が記載されます。

in consideration of は「約因として」という意味で、英文国際契約書の決まり文句です。この約因の存在こそ法的拘束性のある契約(contract)の成立要件であり、この慣用句はそれを表明する文言というわけです。ただ、慣用的に使用はされていても必須の記載文言というわけではありません。The parties hereto agree as follows. (契約当事者は以下の通り合意する)などといった記載でも大丈夫です。

5.国際OEM契約書本文主要条項ごと

5-1.定義

Definitions
定義

For the purpose of this Agreement, the following words as used in this Agreement shall have the following meanings.
本契約の目的に際し、契約書中に使用される下記用語は、以下の意味を有する。

国際OEM契約においては、定義付けをすべき用語が多いため契約書本文冒頭にまとめて定義規定が設けられることが多いです。

定義規定の目的は契約書の文言解釈に争いが生じるのを未然に防ぐためなので、製品、仕様書、図面、商標といった概念を明確に特定しておくことが重要です。

最初にまとめて用語を定義することで、契約書中の反復表現を回避して読みやすい契約書にすることができます。

定義規定は出来る限り詳細にすべきなので、契約書に附表として添付して、契約書の一部とすることもあります。

5-2.基本事項

HITOMI agrees to manufacture the Products bearing the Trademark according to the Products Specifications and supply the Products to ENO and ENO shall purchase and take delivery of the Products from HITOMI subject to the terms and conditions hereof.
本契約に定める条件に基づき、HITOMIは製品仕様書に従い商標を附した製品の製造およびENOに供給することに合意し、一方ENOはかかる製品のHITOMIからの購入および引き取りに合意する。

OEM契約の目的は、委託者(ここではENO社)が受託者(日本企業のHITOMI社)に対して、OEM製品の製造や加工を委託することにあります。導入部、定義付けの後の基本条項では、契約の基本目的、内容を明確に確認します。この基本条項を基に本文の諸条件が合意され、規定されることになります。

この例文では、売買契約型のOEM契約を前提としています。国際OEM契約の形態は実際の取引により異なりますが、一般的には

①例文のような原材料、完成品を有償供給する売買型

②原料や資材の売買の形式を取らずに無償で供給を受け生産を請け負う(委託者が無償供給した原材料や設備等は受託者の占有となり、所有権は委託者に帰属。受託者は善管注意義務を負担。委託者は対価として加工賃を受託者に支払う。)請負型、役務提供型OEM契約(中国では来料加工と呼ばれています)

ほかにも様々なバリエーションで、実務上の国際OEM契約は行われています。

②の場合の基本条項の例文も挙げておきます。

ENO hereby consigns HITOMI to produce and deliver the Products and HITOMI accepts such consignment, subject to the terms and conditions hereinafter set forth.
ENOはHITOMIに対し、本契約書規定の条件に則り、製品製造と引き渡しを委託し、HITOMIはかかる委託を受任する。

5-3.受託者の義務の定め

HITOMI shall manufacture the Products in strict accordance with the Product Specifications bearing the Trademark and sell, supply all Products solely to ENO and ENO shall purchase and take delivery of them from HITOMI.
HITOMIは製品仕様に忠実に従い、商標を附した製品を製造および全製品をENOにのみ限定して販売、供給するものとする。ENOはHITOMIからその製品を購入し、引き取る。

国際OEM契約においては、製品の品質管理と保証の前提として、製品仕様書に厳格に基づいて製造し委託者に供給することを受託者に義務付ける規定を設けることが一般的です。

上記文言は、受託者が製品仕様書に従って製造することを義務付け、また委託者へ全量供給する義務を負うことを確認する内容です。

5-4.委託者の権利

ENO may enter into an agreement with any other manufacturer, entity than HITOMI for the manufacturer and supply of the Products or any products competitive to the Products.
ENOは当該製品またはそれと競合する製品の製造、供給につきHITOMI以外の製造者、企業とも契約を締結することができる。

5-3.記載の受託者の義務に加え、委託者の権利として明確にしておくべきこともあります。

受託者が製造加工する製品は全量を独占的に委託者より供給されて、委託者が全量を購入するのが一般的なOEM契約です。その際、委託者がその製品や類似あるいは競合する製品を第三者に別に製造加工を委託することに拘束を設けるか否か、これはよく問題になります。
上の例文は、第三者と委託者が別の製造加工の委託契約ができる権利を明確にしています。

5-5.発注

ENO shall place orders for the Products with HITOMI by e-mail setting for the items, quantities per item and delivery instruction, etc. HITOMI shall notify ENO of its acceptance and confirmation by email.
ENOはメールにより、製品名、数量、引き渡し指示などを記載した製品注文をHITOMIに対して行う。HITOMIはメールにより、承諾と確認をENOに通知する。

売買取引契約の締結方式には、メールやFAXなど通信手段を利用したもののほか、一定の標準書式を使用しての発注受注をする方式など様々ですが、例文はメールによる発注方式の場合の文言です。

個別売買契約成立過程において、受託者が委託者の注文を理由なく拒絶できるとなれば、委託者が不利益を被ります。
また、委託者が注文して受託者が回答しない場合も想定できるため、そのような事態に備えた規定を設けることも多々あります。

HITOMI shall confirm acceptance or refusal of the order by ENO within 3 days of the receipt of such order provided that HITOMI shall not refuse the order by ENO without due cause.
HITOMIは注文を受けてから3日以内にその注文を承諾するか拒絶するかを確認するものとする。ただし、HITOMIは注文を正当な理由なく拒絶できないものとする。

5-6.危険負担

The risk of loss and damages of the Products shall pass to ENO from HITOMI when the Products shall have been loaded on the vessel at the leading port in each shipment.
製品の滅失、損傷の危険は、製品が各船積の積出港で本船に置かれたときに、HITOMIからENOに移転するものとする。

危険負担は、英語ではrisk of lossと訳します。売買契約成立後に契約の目的物であるOEM製品が、当事者の責めによらない何らかの事情で滅失、損傷した場合に、その損失をどの時点で売主、買主が負うかという問題です。

国際物品売買契約ではインコタームズ(Incoterms)規則のFCA、CIP、FOB、CIFなどの定型貿易条件を当事者間合意に基づいて仕様するのが一般的です。FCA、CIPの場合、危険は当該物品を最初の運送人に交付したときに危険は売主から買主に移転しますが、FOB、CIF条件下では、危険は積出港の本船上で貨物を引き渡したときに売主から買主に移転します。
上の例文は、後者のFOB、CIF条件に対応した危険負担条項です。

5-7.所有権移転

The title of the Products shall pass to ENO from HITOMI when the Products shall have been loaded on the vessel at the loading port in each shipment.
物品所有権は、製品が各船積の積出港で本船に置かれた際に、HITOMIからENOに移転する。

所有権移転については、ウィーン売買条約、インコタームズ規則にも規約が設けられておらず、原則として当事者の意思によるとされます。そのため、当事者間合意で所有権移転は定めることになり、契約書には所有権移転に関する規定が通常設けられます。例文は、所有権移転が危険負担と共に移転する場合の規定です。

The title of to the Products delivered under this contract shall not pass from HITOMI to ENO until the payment of the prices of the Products has been fully completed.
本契約により引き渡された製品の所有権は、製品代価の支払いが完全履行されるまでは、HITOMIからENOに移転しない。

代金支払いがされるまでは、物品所有権を留保する規定が設けられるのが一般的です。

5-8.製品保証条項

HITOMI warrants that the Products shall be free from defects in material and workmanship and be in conformity to the Specifications provided by HITOMI and shall be merchantable and fit for the intended purpose of ENO.
HITOMIは、製品が材質、出来栄えに瑕疵なくENOが提供する仕様書に合致し、商品価値があり、ENOが意図する目的に適合することを保証する。

In the event that ENO should find any defects or non-conformity of the Products at any time during the warranty period as set forth, ENO shall give notice in writing to HITOMI specifying the nature of such defects or non-conformity of the Products as soon as possible.
ENOが保証期間中に製品の瑕疵または不適合を発見した場合、ENOは製品の瑕疵または不適合の内容を書面により可能な限り早期にHITOMIに通知する。

個別売買取引契約においては、売主は物品の品質、種類、数量について契約に適合する物品を買主に引き渡す義務を負います。

物品適合性については、改正民法(令和2年4月1日施行)では、従来の瑕疵担保責任という言葉は使用せず、契約の尊重が最重視され、『契約不適合』という用語が使用されるようになりました。

この契約の尊重の考え方は国際社会に対応するもので、契約責任原則の下で物品適合性(conformity of goods)という用語を使用するウィーン売買条約の影響を受けているといわれます。

国際物品売買契約においては、どの国の法が適用されるのかが問題になりますが、日本はウィーン売買条約の加盟国であることから、ウィーン売買契約が法として適用されることが多くあります。ウィーン売買条約の規律に基づけば、売主は契約で定める品質および数量に適合した物品を引き渡さなければならず、その物品に商品性があり、目的に適合していることが要求されます。

ウィーン売買条約の物品適合性に関する規律は、以下の通りです。

CISG第35条1項
売主は契約で定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で収納され、又は包装された物品を引き渡さなければならない。

2項
当事者が別段の合意をした場合を除くほか、物品は次の要件を満たさない限り、契約に適合しないものとする。

(a) 同種の物品が通常使用されるであろう目的に適したものであること。
(b) 契約の締結時に売主に対して明示的又は黙示的に知らされていた特定の目的に適したものであること。
(c) 売主が買主に対して見本又は雛形として示した物品と同じ品質を有するものであること。
(d) 同種の物品にとって通常の方法により、又はこのような方法が無い場合にはその物品の保存又は保護に適した方法により、収納され、又は包装されること。

第2項は当事者間合意による同項排除の根拠規定であり、つまり、上記規定は任意規定であって当事者合意によって変更が可能ということです。

ゆえに、契約当事者にとって、契約書の保証条項(warranty)はきわめて重要な規定になるわけです。保証条項の規定内容は、委託者、受託者双方の利害が対立する部分が多いため、慎重な確認を要します。

5-9.製造物責任

HITOMI shall at its own expense indemnify and hold harmless ENO and the directors, officers and employees of ENO from and against any losses, damages (actual, consequential or indirect), liabilities, fines, penalties, demands, claims, suits or actions and related costs and expenses of any kind for injury to or death of anyone or property damage or any other loss suffered or allegedly suffered by anyone or entity arising out of or otherwise in connection with any defect or alleged defect of Product supplied and sold by ENO to HITOMI under this Agreement, except to the extent such claim is caused by the gross negligence or willful misconduct of ENO.
HITOMIは、個人あるい組織が被った又は被ったと主張されるあらゆる障がい、死亡、財産上の損害ほかあらゆる関連損失に対し、本契約に基づきENOがHITOMIに対して供給、販売した製品のいかなる欠陥または主張される欠陥から生じた関連するすべての損失、損害、責任、罰金、制裁、請求、クレーム、訴訟等の費用について、ENO、取締役、役員、従業員および代理人をHITOMIの負担で補償し、かつ免責するものとする。ただし、ENOの重大な過失または故意の過失が原因の場合を除く。

海外から日本に輸入されるOEM製品については、日本国内で製造物責任問題が発生する可能性があります。日本の製造物責任法において、製造物欠陥(製造物の特性、通常の使用形態、引き渡しの時期その他の事情を考慮の上、通常有すべき安全性を書いていること)により人命、身体、財産に係る被害が生じた場合の製造業者等の責任賠償責任は定められています。

尚、単なる品質の瑕疵は製造物責任法の対象とはなりません。欠陥の類型としては、製造過程で粗悪な材料の混入、製造物組み立ての誤り、仕様通りではない製造方法により安全性を欠く「製造上の欠陥」、設計段階から安全性に欠ける「設計上の欠陥」、事故防止回避のための適切な危険性の表示や情報がない「指示、警告状の欠陥」があります。

日本の製造物責任法の下では、海外に生産委託したOEM製造委託者は、製造物責任の責任主体として欠陥から生じた事故の被害者に対する賠償責任を負います。そのため、OEM製造委託者にとって受託者に対する求償権の契約上の対策は重要です。

例文は、受託者が製造、委託者に供給したOEM製品の欠陥による事故により第三者に損害を与え、製造物責任訴訟を起こされた場合、その賠償責任を受託者が負担するよう求償確保のための明文規定です。

製造物責任訴訟は契約終了後も発生する可能性があるため、以下のような責任、義務の残存規定を設けておくことも大切です。

The obligations of HITOMI provided for in this Article shall survive the cancellation, termination, rescission or expiration of this Agreement.
本条項に規定するHITOMIの義務は、本契約の解約、満了後も存続する。

6.一般条項

英語ではGeneral ConditionsあるいはGeneral Terms and Conditionsといった名称表記される一般条項は、契約の種類や内容に関わらず設けられる提携条項で、各種契約に共通して用いられます。不可抗力条項、通知条項、譲渡条項、権利不放棄条項、完全合意条項など、内容は概ね定型化されています。紛争処理条項には、準拠法条項と仲裁条項あるいは裁判管轄条項が規定されます。

6-1.不可抗力条項

Neither party shall be liable for a failure to perform any part of this Agreement or for any delay in the performance of any part of this Agreement due to the occurrence of any event of force majeure including but not limited to war, civil war, riots, epidemics and revolutions, typhoon, storms, cyclones, earthquakes, tidal waves, floods, destruction by lighting, explosions, fires, destruction of machines of factories and of any kind of installations, boycotts, strikes and lock-outs, industrial disturbances, shortage of power supply, fuel or other energy, restrictions or prohibitions imposed by government or local government such as exportation or importation prohibition, embargoes, currency restrictions, etc., or any other impediment beyond the control of such party.
当事者双方とも、他方当事者に対し、かかる不履行または履行遅滞が戦争、内覧、暴動、疫病、革命、台風、暴風雨、サイクロン、地震、津波、洪水、雷、爆発、火災による破壊、工場の機械ほか施設の破壊、ボイコット、ストライキ、封鎖、産業災害、電力、燃料ほかエネルギーの不足、政府、地方政府により課される湯輸入の禁止、制限、通貨規制等、またかかる当事者の支配を超える事態の場合は、責任を負わないものとする。

不可応力条項とは、当事者の責任を超える不測の事態により契約上の義務の履行が不可能となった場合の、履行不能の当事者を免責する条項のことをいいます。不可抗力条項では、何をもって不可抗力事態とするか、また免責の適用を受ける内容を詳細に列挙します。

6-2.通知条項

Any and all notices called for hereunder shall be in writing and be given by registered mail or international courier or e-mail to be followed by registered mail or international courier to the parties at their respective office first above written or to any address of which a party notifies the other of its changed address hereunder. Notices mentioned above shall be deemed to be received and made effective when dispatched.
本契約により要求される全ての通知は、当事者宛てに書留郵便、国際宅急便、またはe-mailで冒頭記載の各当事者の事務所または本条項に基づき他方当事者に住所変更通知した住所宛てになされるものとする。本契約に基づく通知は、発信されたときに受領され、効力が発生するものとする。

通知条項には、契約の一方が相手方に契約に基づく通知、要請等をする場合の手段を規定します。契約の終了通知など、重要事項の通知はこの条項に基づき通知をします。通知条項では通常、手段、宛先、効力の発生時期などが記載されます。

6-3.譲渡制限

Either party shall not assign or transfer this Agreement or any right, interest or duty hereunder without the other party’s prior written consent.
当事者はいずれも、他方当事者の事前の書面合意がない限り、本契約、付随する権利、権益あるいは義務を譲渡、移転してはならない。

譲渡制限とは、契約当事者の一方が契約上の地位や権利を第三者に譲渡することを制限する規定です。長期継続的取引の場合は信頼関係が重要なことは言うまでもなく、契約上との結果として権利や地位が第三者に譲渡継承されることは、双方に重大な影響を与える可能性があるため、この規定が設けられることが多いのです。

6-4.権利不放棄条項

No failure by any party to insist upon the strict performance of any covenant, duty, agreement or condition of this Agreement or to exercise any right or remedy consequent upon a breach thereof shall constitute a waiver of such breach or any other covenant, agreement, condition.
本契約の規定事項、債務、合意または条件の厳格な履行を主張すること、または契約違反に伴う権利または救済を行使、要求しないことが、違反または他の規定、合意、条件を放棄するものではない。

一見してわかりにくい内容ですが、non-waiver clauseという標題が用いられる権利不放棄条項の例文です。一方当事者が契約違反をした場合で、相手方はその違反を指摘して権利行使しない場合や遅れた場合でも、契約による権利行使を妨げるものではないことを確認する規定です。

6-5.完全合意条項

This Agreement constitutes the entire and complete agreement among the parties concerning the subject matter of this Agreement and supersedes all prior agreements. There are no representations, inducements, promises or agreements, oral or otherwise among the parties not embodied in this Agreement.
本契約は、対象事項に関する当事者間の唯一完全なる合意を構成する。これは、他のすべての事前合意にも優先する。本契約書に含まれない、口頭または他方式の当事者間のいかなる表示、誘引、約束または合意も存在しない。

本ブログの冒頭でも触れましたが、最終契約書というのは契約の成立に至るまでの契約交渉が積み重ねられたものです。最終契約書が契約当事者の意思を解釈する唯一の根拠であって、最終合意以前の口頭約束などに当然優先することを明確にする規定が、完全合意条項です。Merger clauseとも呼ばれます。

英米法の法則に、Parol Evidence Ruleいわゆる口頭証拠排除の原則というものがあり、これは最終契約書に調印すれば契約書と異なる証拠を用いても契約書に反する内容は証明されないという法則です。そのため、通常は英文国際契約書においては完全合意条項が規定されます。

6-6.紛争処理条項

This Agreement shall be governed and construed by and under the laws of Japan.

本契約は日本法により解釈され、支配されるものとする。

これは、国際契約書に規定される一般的な準拠法条項です。事業所が国境を越えて異なる国に所在する当事者間の取引となる国際取引では、法的問題が発生したときにどちらの国の法律を適用するのかという問題があります。

法の抵触については、国際私法ルールによって適用される法律を指定します。そして、指定された法が日本法であれば、準拠法は日本法になり、日本の国際私法は平成19年施行の『法の適用に関する通則法』です。

貿易取引契約等の国際契約の準拠法については、ほとんどの国が当事者の意思に任せる当事者自治の原則を採用しています。日本法でも、『法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による』と定められています(法の適用に関する通則法第7条「当事者による準拠法の選択」)。

7.契約書を作成・起案することは交渉の主導権掌握につながる

OEM契約の取引内容は、実に多岐多様で、ここまで挙げた項目や例文はごく一部です。委託者側、受託者側の立場、利害によって、契約条件の内容は相当に異なりますし、そうした相違が交渉によって合意され、契約書に署名されることになるわけです。

契約書案を先に作成する当事者が契約交渉の主導権を握るといえます。契約の目的、自社の優位性を保つ契約条件などをより明確に認識したうえで草案を作る側が交渉において有利な立場になることは、自明の理でしょう。そのため、契約書の起案は相手に任せるのではなく、自らあるいは信頼できる専門家に相談して先行することが望ましいといえます。

国際取引においては、契約の自由の原則を制限する国家、公益を目的とした公法的規制(独占禁止法、下請取引法、関税法、輸出入取引法など)があります。この公法的規制は原則強行法規として、違反する条件や規定は無効となります。そのため、契約書の作成においては、起案する各条項が関連する公法的規制に違反していないかの点検が必要です。また、公法的規制の多くは違反に対する罰則規定もあるので、契約当事者双方の公法的規制には十分留意しなければいけません。

国際OEM契約は、国境を越えた複数の法律が関連するので、準拠法の選択、紛争解決手段の選択等の問題もありますから、国内取引以上に契約書が重要な役割を担います。国際OEM契約はあくまでも基本契約として作成され、別に秘密保持契約、技術ライセンス契約、共同開発契約などが交わされることも多くあります。