女性行政書士が作る良い契約書

女性行政書士の三木ひとみです。今日は、万人に役立つ知識といって過言ではない、契約と実際の契約書の作成について、この契約書作成を報酬を受けて業務として行う街の法律家の立場でわかりやすく書きたいと思います。


行政書士法人ひとみ綜合法務事務所の事務スタッフの原さんと武田くんです。

「相手から見せられた契約書の内容が理解できない」
「弁護士が作った契約書の内容を相手に説明できない」
「個人間の売買で、お金を払ってもらえない」
「ホームページ作成に着手したのに、相手からキャンセルの連絡があった」

これらは、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所が実際に受けた相談の一部です。契約、契約書といったものが、いかに一般の人にとっても身近な悩みの種になることを、業務を通して実感する日々です。

皆が当たり前のように携帯電話を持ち、スマートフォン(インターネット)で世界と繋がれる現代。IT技術の進歩によって、新しい契約の形も増えています。民法で契約の主要な形態は定められていますが、現実取引では法律の定めだけでは対応できないものもあります。

1.契約の基本

国家試験である行政書士試験においても、必須の内容です。
契約は、申込と承諾により成立します。申込むだけでは契約は成立せず、双方の意思表示が合致して初めて契約成立です。

書面でも口頭でも、契約はできます(定期借地権の契約、特定商取引法で定められた消費者契約、不動産取引その他の法律で書面契約が義務付けられているものなどを例外として)。

近年は、インターネット経由で契約を交わす場面も増えてきました。紙の契約書にサインしていないからといって、「契約していない」ということにはならないので、頭の片隅に置いておくといいでしょう。どんな形態であっても、契約の定義に該当すれば、契約は成立します。

そして、その契約の内容や形式は、原則自由に設定できます。これを、「契約自由の原則」といいます。これは憲法第13条(すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)に由来する原則です。

たとえば、メールやLINEの次のようなやり取りも契約行為です。
「オーダーメイドで2万円の手作りのアクセサリーを作るので、まず1万円を着手金としてお振込みください。お振込みいただいた費用は、すでに作成に着手しているので返金はできません。完成、引き渡し時に残りの1万円もお支払いをお願いします。」
「わかりました。着手金は振り込んだので、よろしくお願いいたします。」

契約の効果として、何らかの権利または義務が当事者に発生します。契約の内容によって、権利だけを得られる場合、権利と義務の両方が発生する場合、さまざまです。


行政書士法人ひとみ綜合法務事務所の代表行政書士榎田啓先生です。何となく貫録を感じる写真ですが、誰より温厚で誠実な先生です。国立大学を卒業後は金融機関に勤務した経験から、成人直後の若者がマルチ取引の勧誘などの消費者トラブルに巻き込まれたり、若い女性は特に脱毛エステ契約の勧誘により多額の負債を背負ってしまったケースを見てきたといいます。

かくいう女性行政書士の私も、大学在学中に失恋のショックから渋谷駅周辺をフラフラ歩いていた20歳の頃、美容室のアンケートですと呼び止められ入った雑居ビルでいつの間にか化粧品のローンを組んでしまっていたことがありました。
21カ月、5万円を越えるエステティックサービスの契約を締結した場合は、契約書面を受け取った日から起算して8日間はクーリングオフができます。また、それ以降も止めたい場合は中途解約ができるのです。

2.契約書の基本

当事者間で合意された契約内容を文書にしたものが、契約書です。口約束と違って、取引の実態をきちんと反映した書面(紙でなくても、メールのやり取りで明確に残しておけばそれでもいいでしょう)があれば、安心して進めることができます。担当者が変更になるなど、将来的にお互いがどういう約束をしたのか、双方の認識が食い違ったときにトラブルを防いでくれます。

とはいえ、契約書を作っておけば必ずしも紛争を防げるわけではなく、お互いの合意内容が正しく契約書に反映されていなければ、逆に契約トラブルになりかねません。ひどい契約書というのは、実際に多々世の中に存在します。

良い契約書というのは、取引の実態を正確に表現し、双方が容易に理解できる正確さとわかりやすさが両立した契約書です。ネット上には契約書のひな形も無料で沢山載っていますが、実際には契約書のひな形通りにはいかないので、条文1つ1つを実態に合わせて変更する必要があります。

申込書、借用書、示談書、覚書など多様な名称で作成されますので、
「契約書と書いてないから、正式な契約書ではない」
という主張は通りません。合意した内容が書かれていて、契約当事者間の署名捺印があれば、それは契約書です。
相手から何らかの書面にサインを求められたときは、見出しに捉われず、文書の中身をしっかり読んで理解してからサインすべきか判断することが重要です。

たとえば、見積書を渡されて、
「この金額で依頼されるのであれば、署名捺印してください」
と言われて署名捺印すれば、これも契約書となります。

手書きの借用書をその場で作成、
「5万円借りました。令和3年12月1日までに返済します」
と記載して、印鑑がないからサインをした場合も、契約書となり得ます。なぜか?それは、合意内容が文書になっており、申込と承諾がなされているからです。印鑑が押されていなくても、署名があれば契約書となります。

契約当事者がそれぞれ署名捺印して、2者間の契約なら2通作成してそれぞれ1通ずつ保管する、書面の契約書が主流です。そして、近年急増している契約締結方法が、電子契約。身近なところでは、ドメインの取得やサーバをレンタルする場合には、電子契約が行われています。

3.契約の種類

3-1.典型契約と非典型契約

契約についての基本ルールは、民法に定められています。民法第549条以下に明記された13の類型に該当しているものを、典型契約といいます。13の類型に該当しないものを、非典型契約といいます。

典型契約一覧

①贈与:当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる(第549条)。

②売買:当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第555条)。

③交換:当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる(第586条)。

④消費貸借:当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる(第587条)。

⑤使用貸借:当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる(第593条)。

⑥賃貸借:当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第601条)。

⑦雇用:当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方これに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる(第623条)。

⑧請負:当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第632条)。

⑨委任:当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる(第643条)。

⑩寄託(きたく):当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる(第657条)。

⑪組合:各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる(第667条)。

⑫終身定期券:当事者の一方が、自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって、その効力を生ずる(第689条)。

⑬和解:当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる(第695条)。

非典型契約には、出版契約やリース契約、芸能プロダクション所属契約、技術開発提携契約などがあります。売買契約と請負契約の混合型である製造供給契約など、複数の典型契約の要素が含まれていたり、典型契約とその他の契約が混合する場合も、非典型契約です。民法だけでは世の中の商取引に対応できないので、商法をはじめ他の法律でも沢山の取り決めがあり、判例でも新たな契約のルールが作られています。

3-2.有償契約と無償契約

契約当事者が互いに対価の給付義務を持つ契約が、有償契約。契約当事者が互いに対価の給付義務を持たない契約が、無償契約です。

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所も、約2年間ほど、大阪市生野区のお客様(新人行政書士だった私が飛込営業をして知り合った社長様)の事務所を無料で相談場所として提供してもらう、使用賃借契約という無償契約を口頭でさせて頂いていた時期があり、とても感謝しています。この使用貸借契約は、賃貸借契約と違って、対価の授受が行われません。

3-3.双務契約・片務契約

契約当事者が互いに債権を持ち、債務を負っている契約を双務契約といいます。現実の企業間取引の大半が、この双務契約です。

売買契約は、売り手が代金を得るという債権を持ち、商品を納入する義務を負います。買い手はその逆で、代金を支払う義務と商品を受け取る権利を有します。これは双務契約の典型です。

贈与は、対象物を相手方に引渡しする義務を負うのは贈与者だけで、受贈者は何の義務も持たないため(ただし負担付贈与を除きます)、契約当事者の片方だけが相手方に債務を負う片務契約です。

3-4.要物契約・諾成契約

合意だけでなく、目的物の交付がなされて成立する契約を、要物契約といいます。金銭消費賃借契約(お金の貸し借り)が要物契約の典型です。お金が交付されて初めて、契約が有効に成立します。

一方、諾成契約は契約当事者の合意だけで成立します。


令和3年2月3日、大阪地方裁判所堺支部において行政書士の私、三木ひとみが原告の損害賠償(慰謝料)請求事件の証拠調べ(尋問)が行われ、平日にもかかわらず沢山の人が傍聴に来てくれました。コロナ禍で席数を減らした法廷だったこともあり、満席で後から駆け付けてくれた行政書士の先生は傍聴を断念したそうで、裁判終了まで廊下の椅子で待っていて下さいました。

被告行政書士の傍聴に来られたのは、2名だけだったようです。色々思うこと、書きたいことはありますが、自粛したいと思います。(裁判は公開なので、書くことはできるのですが。)

傍聴に来てくださった、行政書士法人ひとみ綜合法務事務所が日頃から懇意、お世話になっている行政書士、大学教授の方々と裁判後の一コマです。

ほかにも現在2件の損害賠償(慰謝料)請求事件を、大阪府行政書士会および三重県行政書士会の行政書士相手に、私が被害を受けた原告として提訴しています。いずれも、SNS上における誹謗中傷の書き込みを行政書士である私個人への名誉棄損として刑事告訴、受理された案件です。

SNS全盛時代、インターネットで誹謗中傷を受けた、名誉棄損をされたというご相談は増えています。いわれのない誹謗中傷や差別には断固とした態度で臨み、ネットの誹謗中傷で人が亡くなるようなことのない世の中になることを願っています。

4.契約の成立

いつの時点で契約が成立するのか、はっきり知らない人も多いでしょう。契約は申込と承諾によって成立するので、承諾のあった時点で有効に契約成立となります。

たとえば、会議が行われただけでは何の契約も成立しませんが、その会議の中で
「今からお話する内容については、秘密厳守です」
「承知しました」
という会話があれば、これは秘密保持契約の成立です。とはいえ、重要な機密事項を話すときは、打合せや会議の前に書面を交わす方が確実です。

1枚1万円の絵画を2枚欲しいとLINE通話で依頼、この時点では申込だけなので契約締結は確定ではありません。画家さんが承諾して初めて、契約成立です。注文しただけでは契約は成立しませんが、注文したLINE通話で、
「わかりました。1万円の絵画を2枚なので、2万円の絵画を明日そちらの住所に発送します」
などの返答を受ければ、承諾があったので契約成立です。ただ、言った言わないのトラブルになりやすいので、メールやLINE文面で注文と確認のやり取りをしておけば、契約の証拠になります。

これまで説明してきたように、契約は申込と承諾によって成立するので、書面でなくても口頭、メール、LINEなど様々な形式で契約は可能です。ただ、相手が契約は成立していないと思い込んでトラブルになるケースもあるので、双方が誤解せず取引を進められるように、契約書を作っておくことで無用な紛争を防ぐことができます。

契約書が契約の成立要件ではありませんが、あいまいな状況による混乱やトラブルを予防するために契約書は存在します。契約書を作成することで、契約が有効に成立したことをお互いが理解し、その契約内容についても明確に共有することができるわけです。契約書の作成が難しい場合やスピーディ確実に物事を進めたい場合は、電子メールやLINE等で契約内容の確認をしておくといいでしょう。

契約内容を書面にするかどうかは、主に次の3つのポイントで考えるといいでしょう。

①法律で義務付けられているか?
→法律で義務付けられている条件に従って書面を作成しなければ、取引自体が有効性を失うケースは問答無用。不動産の所有権登記の際、登記の原因証書として契約書が必要となるようなケースもあります。
また、書面が残っていないと税務署に経費として認められない可能性や、行政手続きの営業許認可を取得するために書面契約書が必要となることもあります。形式的な要件を満たすために、契約内容を書面にすることは行政書士の実務上多くあります。

②トラブル発生の可能性
→相手方が契約内容を理解して合意しているのか、不安がある場合は書面に残しておいた方が安心です。金銭貸付なども、期日までにお金を返してもらえるか口約束では心配ですから、やはり書面にしておくことが大事です。

③権利義務、金額の大小
→金銭の額だけでなく、合意によって何かを作る、調べるといったサービス提供のための何らかの労務に着手したあとにキャンセルされては、貴重な時間を返してほしいという気持ちになるのが人間の性。時は金なり。取引の安全上、瑕疵(欠陥)があったときの対応方法など契約書を作成しなければ取り決めていないことも出てきてしまうので、やはり書面合意しておくことが大切といえます。

5.契約書作成時の注意点

5-1.法律による制限の確認

契約締結の自由、相手方選択の自由、契約内容の自由、契約方法の自由という契約自由の原則の例外があります。そのため、契約書を作成する場合は、進めていこうとする事業に制約があるかどうかを、事前に調べておく必要があります。

主に消費者(取引の相手方)を保護する観点から、販売者側に書面交付などの特別な義務が課されていることがあります。販売者と購入者で知識の格差が大きい商品・サービス、金融商品や不動産販売取引などに関する契約も、法律により制約の対象です。これらの契約書を作成する際は、関係法律についても必ず参照が必要です。

インターネットで、事業の名称、法律、制限などのキーワード検索をすると、一般の人でも調べることができます。法律名がわかったら、行政の担当窓口も調べて、事前に役所に問い合わせると正確な情報収集ができます(インターネット上の情報は真偽不明、不正確なもの、古い情報も入り混じっていることが多々あります)。

契約内容の制限の例として、有効期間を50年以上に設定しなければいけないことが借地借家法によって定められている、定期借地権。
そして、酒類販売やたばこ販売、医療品販売、訴訟代理業務など、免許が必要となるもの。酒類販売(酒販)免許がない人が、勝手に店舗で酒を売ってはいけないということです。

また、業務内容、商品・サービスの種類によって、法律による契約形式の制限を受けることがあります。事業者と消費者間の契約で、消費者への説明義務を課すものは、法律による形式制限が多く見られます。主なものとして、建設工事の契約なら建設業法(一括下請け原則禁止、ただしあらかじめ書面で発注者から合意を得ていれば可能など)、中古品買取の契約なら古物営業法(買い取りに際して相手方の住所、氏名、職業および年齢を確認するなど、本人確認が必須など)が挙げられます。

5-2.合意した内容が明確に表現されているか

言った、言わないのトラブルを防ぐために契約書を作成するのに、口頭で取り決めたことが実際に契約書に書かれていなければ、不幸な結果を生み出してしまいます。また、
「とりあえず、今日はサインするだけで大丈夫です。正式な契約書ではありませんから。」
などと言われて何かを購入する書面にサインをしてしまうと、そこに書かれていることに合意したことになってしまいます。録音でもしていない限り、証拠としては書面しか残っていないからです。

とりあえず、書面だけ作っておこう、とりあえずサインだけはしておくか、といった安易な考えは大変危険だということです。必ず記載内容を理解、納得した上で契約書には記入しましょう。

5-3.契約解除条項の確認

契約書を作成する側の意図が見えるのが、契約解除条項といわれます。自分の側から解除できるのか、相手方からは簡単に解除できるのか、実際の条項はこのようなものがあります。

第〇条【契約解除】
甲及び乙は、相手方が本契約の各条項に違反したとき、相手方に書面または電子メールで通知することにより、本契約を解除することができる。

上記の内容であれば、甲と乙が対等な関係ですが、下記のような内容なら乙には約定解除権がないという一方的な条項になります。

第〇条【契約解除】
甲は、乙が本契約の各条項に違反したとき、乙に書面または電子メールで通知することにより、本契約を解除することができる。

相手が作ってきた契約書を見せられたときは、
「自分から契約解除できるのか、その場合はどのようにすれば契約解除できるのか」
ということに注意を払って、確認するといいでしょう。
特に企業間同士の契約においては、契約解除の条項を対等にするよう交渉することが非常に重要です。

5-4.損害賠償条項

何らかのトラブルが起きたとき、この損害賠償の問題が浮上します。損害賠償の規定は通常、「債務不履行」「契約解除」の項目付近に記載されます。契約書の各条項に違反した場合に損害賠償できるのか、どんな場合にどんなペナルティが課せられるのか、契約書上でどのように定められているかを確認することが大切です。

また、契約書を作成するときに、自分に有利になるようにしたいと考えてしまうと、一方的な内容な契約書になってしまい、相手を怒らせてしまい契約不成立になったり、「こんなこと聞いていない、知らなかった」というトラブルにもなりかねません。ビジネスは駆け引きとはいえ、双方合意があることはもちろん、相手のことも配慮した内容、文面が望ましいでしょう。

6.契約書の作成

行政書士として契約書を業務として作成するに際し、どのように作業を進めているかをご紹介します。契約書を一度も作ったことのない人でも、この手順に従って進めていけば作成できますよ。
契約当事者双方が満足できる指針を作ることで、契約締結もスムーズに進みます。自らの要求ばかり記載するのではなく、お互いにとって良い契約書を作る姿勢が大切です。

6-1 契約書の構成~条項の組み合わせ

契約書に必要な条項をピックアップします。似たパターンの契約のひな型(テンプレート)を使うと便利ですが、取引の実態に近いひな型が見つからなければ1から組み立てていきます。
契約内容に従って作成される主要な条項には、次のようなものがあります。

①目的:契約を締結する目的

契約に対する双方の合意できる一つの方向性を示す指標を、契約書の目的条項に記載します。よく使う文言に、次のようなものがあります。

・乙は、甲の販売代理店として、甲の製造する商品(以下「本商品」とする)の販売を行い、甲の経営理念を尊重して相互の利益確保のため協力して本件商品の販路拡大に努めるものとする。

・本契約は、甲乙相互が発展するために、新製品・新技術の開発を甲および乙が平穏に協力して推進していくことを目的とする。

この目的条項は書いても書かなくても、取引条件には影響しないものですが、当事者の理念が反映される部分なので継続的取引基本契約書などでは「相互の利益を確保し、信義誠実に本契約を履行し、公正な取引関係を維持することを目的とする」といった文言を入れることは多々あります。

②定義:反復して使用する言葉や、疑義を生じやすい言葉の使い方の意味を定めておきます。

契約書上で使用する言葉の意味を定めるための条項です。意味・用法を定義しておくことで、余計な誤解を回避できます。特に技術的な文言を多用する契約書では、定義条項は必須です。

例:ホームページ制作契約書

第1条(定義)

用語 定義
(1)ホームページ 乙の指定するドメイン下に作成されるコンテンツをページとしてインターネット上に表示可能な状態にした文書の集合体をいう。
(2)コンテンツ 写真、文章、画像、イラスト、映像等を使用して作成された創造物

企業間取引など、担当者が代わっても一定の解釈ができる定義をしておくことが重要な契約書に用います。

③期間:契約期間や自動延長の有無など

商品売買契約書などには不要ですが、契約期限の設定や自動延長の有無を契約書に記載する必要がある場合は、重要な条項です。

例:業務提携契約書

第5条(有効期間)
本契約の有効期間は、令和2年1月5日から令和3年1月4日までの満1年間とする。
2 ただし、期間満了の2カ月前までに、甲乙の双方から何ら申し出のないときは、本契約は期間満了の翌日から自動的に満1年間延長されるものとし、以後も同様とする。

上記は自動更新ありの場合で、下記は自動更新なしで再契約可能なケースの例。

本契約の契約期限は、契約日より1年間とし、期限延長を希望する場合は、再度契約を提携しなければならない。

無償で借りる使用貸借契約書の場合は、次のような文言にすることが多いです。

(使用貸借の期間)
賃借の期間は、契約日から1年間とする。ただし、期間満了前でも、甲は2カ月の予告期間をおいて本契約を解除することができる。

④価格:金額、対価を記載します。

契約書の中で、特に重要な条項です。支払いの際の通貨と金額は事前に定め、外国通貨から日本円に換算しなければいけないときは、いつの為替相場を使用するのかを記載します。
$(ドル)だけではその国の通貨か限定できないため、USD(米国ドル)、AUD(オーストラリアドル)など、明確に記載します。
税込みの有無、配送料や設置代が含まれるのか、振込手数料はどちらの負担とするかも、価格条項の価格の内容として通常記載します。
売買基本契約書では、商品の価格は別途価格表によって定めるなど、契約書とは別に定めることも少なくありません。

⑤通知方法:通知する相手、通知する手段(メール、口頭、FAX、書留郵便など)

トラブルが起こったとき、連絡手段はメールなのか書留郵便なのか、特に契約解除の申し入れをどのように行うかを契約書上に明記することが必要です。
主な通知方法としては、電話・電子メール・口頭・FAX・書留郵便などがありますが、軽微な事項の通知は双方にとって業務の妨げ、手間とならず、契約解除など重要事項の通知は書留郵便など証拠がはっきりするものに定めておくのが望ましいでしょう。

例:(身元保証契約書)

第3条(通知)
甲は、次の場合は遅滞なくこれを丙に電子メールまたは書留郵便で通知しなければならない。
①乙に業務上不適任または不誠実な事跡があり、このために丙の責任を引き起こすおそれがあることを知り得たとき。
②乙の任務または認知変更により丙の責任を加重し、あるいはその監督が困難となるとき。

⑥商品・役務(えきむ)の内容:契約の重要な部分なので、契約書とは別紙で詳細説明や写真添付することも。

この条項では、できるだけ具体的に、提供物と報酬を明確に文書化することがトラブル回避につながります。商品であれば、型番や写真を掲載すると誤解が生じにくく、確実です。現状渡しの場合も写真を貼付しておくことで、見た目の問題が生じることを防ぐことに繋がります。

特にリフォーム工事やホームページ制作などの請負業務は、細かい部分まで合意内容を書面にしておかないと、注文者と請負者の力関係によっては無限の債務を背負うような事態となり得るので注意が必要です。作業を延々としたのに報酬を支払ってもらえないなどという悲劇とならないよう、この商品・役務の内容は契約当事者双方が同じ見解を持つために重要です。

例:(データ入力業務委託契約書)

第1条(業務内容)
本件業務は☆☆☆のデータ入力とする。
2 甲は、令和2年1月31日までに、本件業務に必要な資料等を、データ入力の指示書と共に、乙に交付する。
3 乙は甲から交付を受けた資料等を甲の指示書に基づき、データ入力する。個別業務に関する内容、納期、納品方法等は、個別の指示書に定める。
4 甲は、乙に交付した資料等の取り扱い状況については、いつでも乙に対しその報告と説明を求めることができ、乙は甲から報告と説明を求められたときは、直ちにこれに応じる義務を負う。

⑦支払方法:振込が多いので、振込先や手数料はどちらが負担するかなど。

支払方法の条項を独立した条項にする場合と、価格条項に記載する場合があります。いずれかの条項には、代金の支払いにおける手数料を誰の負担とするかを定めておくことが必要です。手数料は小さな金額とはいえ、やはり揉め事の要因になりやすいので、契約書締結時に明確にしておくべきでしょう。
振込先は金融機関の口座番号を別紙に記載するよう定めると、将来的に振込口座が変更になったときに便利です。

例:(コンサルタント業務委託契約書)

第2条(報酬)
乙は、甲に対し、本件コンサルタント業務の報酬として、金☆☆円(税別)を毎月末日限り、甲の指定する銀行口座に振り込むことにより支払うものとする。
2 甲が本件コンサルタント業務遂行のために、交通費などの費用を要する場合は、その都度、甲乙間の協議により、負担者および支払方法を書面により決定するものとする。

⑧権利・義務:契約により発生する具体的な権利義務の内容

契約当事者の具体的な権利と義務を記載するので、こちらも重要な条項です。契約書の随所に権利と義務の内容は出てくるので、単独の条項として権利・義務を設ける必要はないものの、あえて権利・義務を明記するために独立した条項を設けることもあります。

⑨債務不履行:契約上に定められた債務を期限までに実行しない場合

債務不履行によって、損害賠償請求や契約の終了に繋がることは少なくありません。債務不履行条項には、契約解除や損害賠償の文言を通常セットで記載します。

債務不履行には、履行期限を経過しても債務が履行されない履行遅滞と、契約後に火災などで債務履行が不可能になる履行不能と、指定された数に足りないなど履行内容が不完全の不完全履行があります。

相手から債務不履行が行われた場合は、履行の請求や契約解除、そして損害賠償請求をすることができます。契約上の定めがないときは、民法の次の規定が適用されます。

民法第414条
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制執行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4 第三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

債務不履行の裁判では、何をもって債務不履行とするかが争点になりやすく、特にサービス内容が気に入らないということは現実社会では起こりやすいトラブルです。債務不履行の条項においては、具体的な事態を想定した記載をすることで、債務不履行に対する抑止力にもなります。

⑩損害賠償:損害をカバーするための金銭による賠償等の内容

契約解除の違約金や、不法行為による損害賠償について定める条項です。知的財産権の侵害による損害も増えているので、損害賠償の条項を明確に定めることが求められています。逆に、損害賠償の責任を負わない旨を定めることもあります。これはソフトウェアの利用規約などによく見られ、開封すると利用規約に同意したものと見なされる方法の記載が広く採用されています。これは、ソフトウェアが動作環境によって不具合を起こすことはあるので、こうした規定があらかじめ設けられていることが多いのです。

⑪契約の終了:知的財産や営業機密を取り扱う取引では重要な条項

契約が終了しても、終了後の事務的取り扱いを定めておく必要があるケースもあります。下記の例に挙げる、ホームページ制作・保守契約書では、契約終了時の取り扱いで揉めごとが起こりやすい部分をあらかじめ定めています。乙のホームページを契約終了後も、乙が維持できる契約となっています。

例:(ホームページ制作・保守契約書)

第15条(契約の終了)
甲及び乙は、契約期間の満了または中途解約等により本契約が終了したとき、速やかに債権債務を清算しなければならない。
2 契約終了後、甲は、代行契約していたドメイン及びサーバ契約を乙に引き継がなければならない。この引継ぎ作業に係る料金は、金5万円(税込み)とする。
3 コンテンツについては、サーバ上にアップロードされているファイルに乙がアクセスできることをもって、引き渡し完了とする。
4 甲が、画像データ等作成のために用いた編集用ファイル(例:イラストレータで閲覧可能な形式ファイルなど)は、乙に引き渡す義務がないものとする。

ほかにも、中途解約、権利放棄、期限の利益喪失、不可抗力、裁判管轄といった条項が一般的に多く用いられます。

6-2 契約の内容に合わせて形を変える非定型条項

定型条項のように一般的な条項としてすべての契約書に使用されるわけではないけれども、時として大きな役割を果たす、実際の契約書の実態に合わせて用意されるべき条項が、非定型条項と呼ばれるものです。契約書の本やインターネット上のひな形にある条文をそのまま使用するのではなく、必ず個々の契約に適合するよう加工して使用しましょう。専門用語だからわからないと読み飛ばすのではなく、目の前に提示された契約書の条文にどんな意味があるのか、どんな効果を実際の取引で及ぼすのか想像して、わからなければ契約書を用意した相手方や作成を依頼した弁護士や行政書士といったプロに、理解できるまで質問することが大切です。

引渡し方法、秘密保持、保証人・保証金、完全合意(契約締結以前の取り決めをすべて排除する規定)、クーリングオフ(消費者が無条件で契約撤回できる規定)、個人情報保護、違約金、瑕疵担保(隠れた瑕疵があった場合の取決め)、製造物責任、免責(責任を負わないケースの定め)、危険負担(商品の保管や輸送に伴うリスクをどちらが負担するかの取り決め)、契約費用(弁護士や行政書士への書面作成費用や印紙税など契約に付随する費用の規定)などが、必ずしもすべての契約書に使用されずとも現実の取引で役立つ非定型条項です。

6-3.契約書実例

よく使われる契約書なので、ひな形としてご参考に。

①使用貸借契約書

〇〇〇(以下「甲」という)と、×××(以下「乙」という)とは、甲の所有する建物について、次の条件で使用貸借契約を締結することで合意した。

第1条(貸借物件)
甲は、その所有する下記の建物(以下「本件建物」という)を乙に無償で貸与し、乙はこれを借り受ける。

<建物の表示>
所在   神奈川県横浜市金沢区釜利谷西〇―〇―〇
家屋番号 〇番
構造   木造瓦葺2階建
床面積  1階〇平方メートル
2階〇平方メートル

第2条(使用貸借の期間)
貸借の期間は、契約日から1年間とする。ただし、期間満了前でも、甲は1カ月の予告期間をおいて本契約を解除することができる。

第3条(用途)
乙は、本件建物を顧客との対面相談場所としてこれを使用する。

第4条(転貸等の禁止)
乙は、本貸借物件を第三者に転貸・譲渡してはならない。

第5条(契約の解除等)
乙が本契約に違反した場合には、甲は、何らの催告なしに、本使用貸借契約を解除することができる。

第6条(原状回復等)
本契約終了後、乙は、本貸借物件をただちに原状に復したうえ、これを甲に返還しなければならない。

第7条(協議)
本契約に定めのない事項、または本契約の各条項の解釈について疑義が生じたときは、甲乙は誠意をもって協議し、これを定めるものとする。

第8条(合意管轄)
本契約に関して紛争が生じた場合には、甲の住所地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各記名押印のうえ、各1通を保有する。

令和〇年〇月〇日

甲(住 所) 
(氏 名)             印

乙(住 所)  
(氏 名)             印

②損害賠償請求書(交通事故)

〇〇〇殿

令和〇年〇月〇日午後〇時〇分、〇〇〇の交差点で貴殿が運転した自動車に衝突された際に受けた左上腕骨骨折左肩打撲傷等の傷害による損害は以下のとおりです。

①治療費   〇〇円
②通院交通費 〇〇円
③休業補償  〇〇円
④慰謝料   〇〇円

総額     〇〇円

よって、上記合計金額〇〇円を請求いたしますので、本書面受取後5日以内に、下記口座にお振込みのうえ、お支払ください。

金融機関 〇〇銀行 支店名 〇〇支店
口座種類 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義  

なお、後遺症に関しては症状固定時にあらためて請求することといたしますので、お含み置きください。

令和〇年〇月〇日

(住 所) 
(氏 名)              印

③金銭借用書

(住所)
 〇〇〇殿

金〇〇円也
ただし、利息年〇パーセントとする。

私、〇〇〇は、本日上記の金額をたしかに借り受け、受領しました。

つきましては、利息は毎月末日限り、元金は令和〇年〇月〇日限り、いずれも貴殿の指定する銀行口座に振り込むことにより支払います。

もし、利息を1回でも期限に支払わないときは、貴殿からの通知催告がなくても当然に期限の利益を失い、ただちに元利金を支払います。

元金を期限に支払わないときの遅延損害金は、年〇%の割合とします。

上記を確実に遵守することを誓約し、本書を差し入れます。

令和〇年〇月〇日

(住 所) 〇〇〇
(氏 名) 〇〇〇        印